この夏、痩せ姫の訃報が相次いだ。
まずは、高橋ちなり。
昨年11月には体調を崩して、入院。ツイッターで、
「腰の圧迫骨折+拒食気味の為入院2週間目。(略)ガンマGTP(肝臓)の値が平均は70とかなのに私2700とかで今度はそっちが原因で入院続くことになりました… アル中なのが原因の為しばらく断酒です」「双極性鬱 拒食症 自殺願望 どうしてこんなに酷くなった」
などと深刻な報告をしていたものの、今年5月には旅行で金沢グルメを楽しんだことが投稿されていた。その2ヶ月後の死だ。
なお、3月には大食い界のレジェンドで「魔女」の愛称で親しまれた菅原初代が大腸がんで死去(享年59)。7月に放送された「まさかの一丁目一番地」(TBS系)では、その「最期の3日間」が紹介された。
「私の病気のこと、大食いに結びつけられないか心配」「もし変に広まったら大食い界に影をさすようなネットニュースになってしまう」
として、病名や病状を伏せながらの闘病生活だったという。
実際、死後には大食いと大腸がんとを結びつける見方もされることに。また、高橋ちなりについても、大食いと摂食障害(拒食症)を関連づける声があがった。メディアによっては「元フードファイターが明かした壮絶な摂食障害告白ブログが話題」として約13年前に匿名の女性(ただし、大食いファンの多くが推定できる人物)が書いていた文章に着目。
「怪物級に食べてもガリガリなのは、嘔吐で、消化吸収する前に出してしまうから。
という一節を引用していた。このブログについては、拙著『痩せ姫 生きづらさの果てに』でもとりあげたが、彼女自身はその告白通りだったとしても、どれくらいの大食いタレントに当てはまることなのかは相変わらず謎だ。
そしてもうひとつの訃報は、海外から届いた。39歳のインフルエンサー、ロシア国籍のジャンナ・サムソノワが旅先のマレーシアで客死したという。
若さを維持するためにヴィーガンとなった彼女は、SNSで数百万人のフォロワーを獲得。
「果物とひまわりの芽、果物のスムージーとジュースだけを摂取する」
と語り、7年前からトロピカルフルーツだけを食べていたようだ、という知人証言もある。
ただ、SNSに投稿された姿が痩せ細っていたことから、実質的な死因は拒食症なのではという見方も。周囲の人々も「餓死」という表現を使っている。ちなみに、ヴィーガンがこのような状態に陥ることは意外と珍しいことではない。
それでも、ヴィーガンやベジタリアンにはヘルシーなイメージがあるし、大食いにしても元気の象徴だ。そういう食べ方にこだわったり、そんな食べ方で活躍していたりという人が、相次いで30代で亡くなったのは気になることでもある。
そんななか、元AKB48でセンターも務めた岡田奈々が大胆な告白を行った。このサイトでも何度かとりあげてきた彼女は、2016年に摂食障害をカミングアウト。その経緯などについて「【摂食障害】個人的経験談をお話し致します【過食嘔吐】」と題した動画のなかで、より具体的に語ったのだ。
高校時代、一日9食プラス間食(菓子パン、ドーナツなど)をしても満足できず「冷蔵庫に入っている家族の食事まで食べる」「冷凍食品は解凍する時間も惜しくてそのままボリボリ食べる」という過食状態に陥った彼女。「吐いちゃえばいいんだ」と思い立ち「すいません、汚い話になります」と断ったうえで、実際にやっていた吐き方を説明した。
「そのまま体も顔も綺麗に洗い流せるからっていう理由でお風呂で吐いていたんですけど、その汚物吐瀉物を桶にすくって入れて全部それをこっそり誰にもバレないようにトイレに流し、そんな毎日を送っていました」
その様子を母に知られてしまったことから、吐く場所をトイレに変更。自宅以外の外出先、それこそ公演が行われる現場のトイレでも吐き、多いときは一日5回にも及んだという。
さらに、吐き出す方法についても「人によっていろいろ違うんですけど」としたうえで、
「私は指を突っ込んで無理やり自発的に吐かせる方法。腹筋吐きっていって腹筋を使って吐ける人もいれば、チューブ吐きっていってチューブを使って綺麗に吐ける人もいるらしいんですけど、私はそれができなかったのでいつも手が汚れてつらかったなって、どうやったらこの手のニオイとか取れるんだろうってめちゃめちゃ手洗ってたかな。当時まあそんな感じの摂食障害ライフを送っていまして」
とまあ、これまでに芸能人が行ったこうした告白のなかでも、一、二を争うような踏み込んだ内容だった。
ちなみに、彼女はこの4月、34.4キロ(身長156センチ)という体重を公表して話題に。
その責任をとるようなかたちでグループからの卒業を発表。それゆえ、体重公開や過食嘔吐告白についても、心配や賞賛とともに「同情を買いたいのか」とか、それこそ「自分自身が病気をネタにしているのでは」といった厳しい指摘が飛び交った。
ただ、彼女の生き方には独特の魅力がある。おそらく、食とか恋とか何かに依存していないと安定しない人なのだろうし、その迷走気味の葛藤には今どきの女の子っぽさも体現されているのではないか。実際、アイドルのキラキラ感と闇落ちとのギャップは、今年アニメ化されてその主題歌も大ヒットした人気漫画「【推しの子】」の世界観にも通じるものだ。
なお、動画のなかでは現在の体重が「39キロぐらい」と明かし、
「欲を言ったらもっと痩せたいし、でも健康のためにはたぶんもっと食べたほうがいいってこともわかってるし」
と、複雑な気持ちをのぞかせた。
そういえば最近、Perfumeのあ~ちゃんこと西脇綾香の激痩せも話題になった。ただ、本人はインスタグラムで、
「心配ありがとう! でも、私は元気です~!健康です~!数ヶ月かけて鬼ダイエットがんばりました~!! あと、心の体質改善も だから今が1番健康的で毎日が楽しいです!」
と、説明。また、インスタライブでは10キロ近く減らして中学時代の体重に戻れたと語り「自分史上ベストワンの体を目指してそうなった」という「鬼ダイエット」の理由についても明かした。
デビュー後に太ってしまい、ほんわかキャラでブレイクした彼女はそれが不本意だったという。
世の女性の多くが痩せようとしているなか、芸能人ならなおさらともいえる。ただ、そんな世の中でも、逆に太っていることを売りにする女性芸能人だっているわけで、美のあり方はさまざまだ。
そして、理想の美、さらには生き方に近づくための方法にも絶対的な正解はない。そこにも生きづらさがあるし、正解をめぐってさまよう経緯や結果が摂食障害、あるいは大食いやヴィーガンだともいえる。と同時に、欲やこだわりの突出はそれ自体が異能でもある。それゆえ、注目されたり、特殊な快感も得られたりするわけだ。
そういう人たちは、いろいろ闇も抱えているのだろう。それを表現するのもエンタメであり、キラキラとした輝きをふりまく王道とは少し違うが、邪道ともいえない。芸能も芸術も、人間とは何かを見せるものなのだから。そういう意味で、痩せ姫ほど人間らしい存在はいないということも改めて感じるのである。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)