昨年10月16日、横浜市青葉区で70代の男性が20代の実行役に殺害されるなど、「トクリュウ」(匿名・流動型犯罪グループ)による強盗事件が、全国各地で頻発し社会を震撼させている。警察庁の最新発表によると、2024年にトクリュウ関連で1万105人が摘発され、そのうち9割近い9094人が末端の実行役だった。

全体の約39%(3925人)がSNSを通じた「闇バイト」に応募して犯罪に加担しており、警視庁は各都道府県警察と連携を図り、トクリュウの取り締まりを強化している。しかし現状は、闇バイトの実行役に指示を出す首謀者を一網打尽に摘発するまでには至っていない。長年、強盗・窃盗の犯罪行為に携わってきた某指定暴力団の古参幹部が、闇バイトで実行役を募る新手の強盗の詳細な手口について明かしてくれた。





■衝撃!トクリュウは「理系卒」の個人情報を漁っている



ーーターゲットはどのような手順で絞られているのか?



 最近はダークウェブと呼ばれる闇サイトで、強盗に入る家の目星をつけることが多いけど、日本一の古本・古書街の東京・神保町には、いまも複数の闇名簿屋がある。指示役はそういうところからも情報を入手して、下調べをしてあたりをつけるというのが一般的だ。



 特に、人気の闇名簿は、東京工業大学や東京理科大学、芝浦工業大学など、有名大学理工学部のOB名簿なんだよ。ほら、だいたい理系の奴はオタク気質だろう。自分自身の専門分野に関しては、とことん掘り下げて研究するけど、世の中の動向には疎い奴が多い。だから、いまトクリュウ型の強盗事件が頻発していることにも関心がなかったりするんだ。つまり、世間知らず、浮世離れしているところがある。自分たちの家が強盗に遭うかもしれないと危機感を持っていないんだ。



 情報感度の高い人たちなら、これだけ闇バイトの凶悪犯罪がニュースになれば、危機感を持って防犯対策をすると思う。

でも、理系の男は視野が狭いから、まさか自分たちが強盗グループから狙われているなんて思ってもいないんだよ。しかも、現役時代には、大学教授や研究者、エンジニアとして活躍していて、高給取りが多い。仕事が趣味みたいなタイプも多いから、預貯金を貯め込んでいる。



 それと理系出身の奴は、草食系で、ひ弱なタイプが多い。もし実行犯と鉢合わせることになっても、抵抗・反撃してくることも少ない。これが体育会系のラグビー部とか柔道部、レスリング部のOBが世帯主の家庭は、歳をとっていても体を鍛えていたり、若い奴よりも腕力があったりするから、やっぱりオレたちも反撃を警戒するよ。だから強盗の指示役が、真っ先に目をつけるのは理系出身者なんだよ。



ーー闇バイト強盗の募集はどのように行われているのか?



 強盗グループの首謀者は、XなどのSNS上やバイトアプリに「誰でもすぐできて稼げる」「カンタンで高収入」とか、「初心者大歓迎」「1件5万円」「深夜に猫を探すだけ」といった感じで求人募集を出している。その文句を金欠の若い子たちは信じて、闇バイトとは疑わずに応募するんだよな。



 いまの若い子は、オレたちの時代とは違って、悪い大人たちを間近に見て育っていない。それに親も子どもに甘いね。社会の暗部や恥部を見せないように、純粋培養で、ぬくぬくと育てられている。

昔は、学校で先生が良いことも悪いことも、全部教えてくれたもんだよ。いまは、そういうのがまったくないだろう。しかも、いまの若い子は、もしも自分が強盗殺人で逮捕されたら、自分がこの先どれだけ大変な目に遭うのか、家族や周囲にどれだけ迷惑をかけるか、ということが分かっていないんだよな。強盗殺人で逮捕されたら、無期懲役か死刑だ。無期懲役になったら最低でも30年以上刑務所で過ごすことになるというのに。強盗殺人は、極めて重たい罪だ。インターネットで情報が集められる時代になったけど、いまの若い子には情弱な奴が多いね。



 一部の金持ちとの格差がどんどん広がって、貧乏人が増えている。若い子も、老人も。「とにかく金が欲しい」「金がすべて」という奴が増えているね。そんな時代だから、若くて聞き分けの良い実行犯を集めるのは楽勝なんだよ。首謀者からしたら。



 ただ、闇バイトに募集してきた若い子たちには、最初から強盗はやらせないよ。最初は、限定グッズの行列に並ばせて、その商品を転売させたり、ポイントを不正取得させたり、そういう比較的簡単なものから入っていく。そこで金を握らせて、逃げられないようにズブズブにしていくんだ。その過程で、免許証やパスポート、保険証、学生証などの写真を送らせたり、家族構成や親の勤務先まで聞き出していく。





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■警察へ相談されれば手を引くしかない



 その時点では、まさか自分が闇バイト強盗に巻き込まれるとは思っていないから、だいたいの奴は、正直に教えてくれるよ。さっきも言ったように、いまの子は素直だから。こちらからすれば扱いやすい、だましやすい。本当にいいカモだよな。「これ以上できません」「抜けたいです」と言ってこられても、「全部バラすぞ」「家族がどうなっても知らないぞ」「警察に行ったらタダじゃあすまないぞ」ってちょっとすごめば、だいたいはもう逃げられないと観念するよ。本音を言えば、警察に相談すればいいんだよ。そうしたら俺たちは手を引くしかない。わざわざ報復なんてしないよ。

一般人に報復したところで、オレたちは何の得もしないからな。



 あと、最近のテレビや新聞は、実行犯のリクルートはネット、SNS上ですべて行われているかのような報道をしているけど、あれには違和感を感じるね。それは間違いだから。サツもなんでもかんでもネットが普及して、犯罪が多様化、複雑化しているという発表をしばしばするけど、あれは警察の怠慢、言い訳だよ。なんでもネットのせいにすれば許されると思っている。



 指示役の観点から言わせてもらえれば、実行犯を集めるのは、やっぱり路上でつかまえるのが一番確実なんだ。オレたちは冬休みとか春休みの期間にネットカフェによく行っていた。そこには、全国各地から家出してきたネットカフェ難民がいるだろう。そういう奴らに「金に困ってないか?」「割のいい仕事を紹介してやるぞ」「すぐに金が貯まって、風呂・トイレ別のマンションにも住めるぞ」って声をかけて、勧誘するんだよ。いまだったら新宿・歌舞伎町のトー横界隈にたむろしている若い子に声をかければ、いくらでも実行犯は集められる。



ーー指示役は実行犯にどんな指示を具体的に出しているのか?



 オレたちは、「とにかく足がつかないようにしろ」「そのためには住民と鉢合わせたら、なんでもやっていい」とは強調するね。最近の若い子は、現実とバーチャルの区別があやふやな奴もいる。

ほら、小さいころからゲームの中で人を殺しているから。



 オレたちの世代だと、どんなワルでもさすがに一般人に危害を加えるのはご法度だ、と思ったりもしていたけど、最近の若い奴は、そういう見境がない。意外と平気で人を殺せるんだよな。万が一、警察に捕まっても「ゲロするなよ」と。「ゲロしたら、どうなるか分かっているだろうな」と、そこでも威圧して、主従関係を築く。暴力と金で相手を支配するってことだな。まあ、オレたちの常套手段ですよ。





トクリュウ「強盗」標的リスト流出! 東工大・理科大卒など「理系エリート」が狙われる。某指定暴力団の古参幹部の衝撃証言
イメージ:PIXTA



■やはり強盗犯は「音」が出ることを嫌がる



――侵入しづらい家の特徴はあるのか?



 玄関の周辺に防犯砂利が敷き詰められていたりすると、特殊な音が周囲に鳴り響くから、躊躇するというか、やっぱり警戒するよ。あと、日本警察犬協会の会員シールが貼ってあるところ。あと、猛犬注意のシールとか、よく言われていることだけど、セコム、アルソックのマークがあるところ。抑止効果はあるよ。



 まあ強盗に遭いたくないなら、防犯カメラは設置したほうがいいとは思うね。

ダミーでもいいので。最近のカメラは、性能が良くて、画質もきれいだから、犯人の特定にもつながりやすい。ほかには人が通ると明かりがつく、人感センサーライトがある家も侵入するのが難しい。逆に昔の家は勝手口があるだろう。勝手口があるということは、侵入ルートが、ひとつプラスされたということだから、当然、勝手口のある家は狙われやすい。あとは、ご近所さんとの付き合いが疎遠な家も狙われやすい。そのほか、周囲に空き家が多い地域だったり。



ーー下見はどんなふうに行うのか?



 さっき言った、周囲に空き家が多いとか、高齢の夫婦2人で住んでいるとか、大豪邸に未亡人がひとり住んでいるとか、毎週土曜日には息子夫婦が訪問するとか、車庫には四つ葉マークが貼ってある、少し古い年式のメルセデス・ベンツが置いてある――そういった情報は実行役に集めさせるね。



 オレたちの時代だったら、だいたい悪いことをしそうな奴は見た目ですぐに分かったんだ。そういう奴が下見をしていると「怪しいやつがうろついている」と警察に通報される。でも10月に横浜市青葉区の70代の男性を殺害して逮捕された20代の強盗殺人犯の男は黒髪にメガネで真面目そうだったじゃない。だから、下見のときは、逆に怪しまれずにすむんだ。



 実行役には、大学やバイトに行くときのような普段着でまず下見して情報集めてこいと言っているよ。ただ執拗に下見を行うのは、かえって不利になることもある。というのも、最近のコンビニとか街頭に設置されている防犯カメラは高性能だから、絶対に映っていて、警察はすぐに身元を割り出すことができるから。



ーー最近、頻発しているトクリュウ型の強盗事件は、犯行の手口が綿密ではないというか、稚拙にも見えますが…



 そうだな。凶悪なんだけど、どこか素人くさいよな。まあ裏を返せば、強盗グループも、資金や人員にも余裕がないってこと。だから指示役である首謀者は、闇バイトで実行役を集めて、トクリュウ型の強盗事件が頻発しているんだよ。昔はヤクザが強盗するときは「敵対するヤクザの家だけを狙う」という不文律があったものだ。ヤクザの家だったら、相手もサツに被害届を出さなかったしな。でも、いまの若い半グレたちは、善良な一般市民を狙うんだよな。昔気質のオレは、それは間違っていると思うよ。



 そういえば、某指定暴力団の30代の構成員が知り合いにいるんだけど、そいつは地頭が良くて、次から次へと新しいシノギを見つけてきて、ここ最近すごくはぶりがいい。それこそ、トクリュウ型の強盗もやっていて、SNSやネットを巧みに利用して、とにかく素人を集めることができるから、原宿とかのアパレルの限定グッズやスニーカーの行列に並ばせて、それを高値で転売したりもしている。箱根に豪邸を建てて、フェラーリやカウンタックを乗り回しているんだ。そいつについて、この間も60代の構成員が、苦虫を噛み潰した顔で愚痴っていたよ。都内の事務所に来るのは、上納金を収めるときだけで、ほとんど顔を出さないと。でも、ロートルのヤクザたちはみんなそいつから金を借りているから、何も言えないんだってよ。



 結局、いまの世の中、ヤクザも堅気も金を持っている奴が強いんだよな。昔は金に困っても、ヤクザ稼業が好きだから、貧乏でもヤクザを続けるって奴がたくさんいたけど、いまはそんなのは絶滅危惧種。ヤクザも堅気もみんな、金、金、金って、金の話ばかり。そんなんだから、闇バイト経由で、結果的に若い子が捨て駒にされる犯罪は、今後もよりいっそう増えると思うよ。



取材・文:大崎量平

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