子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け! まずはごあいさつ代わりの「体験的雑誌クロニクル」【1冊目】「『雑』な『誌』に魅せられて」からどうぞ。





【1冊目】「雑」な「誌」に魅せられて

 



 雑誌の創刊号を買うのが趣味だった。最低でも週に1回は書店に足を運び、雑誌売り場を徘徊する。「創刊号」「Vol.1」などと銘打たれた雑誌を見つけたら、あまり興味のないジャンルでもとりあえず買う。80年代後半から40年近く、そうやって集めた創刊号がたくさんある。編集者という仕事柄、新雑誌をチェックするのは仕事のうちとも言えるが、自分の仕事範囲にまったくかすりもしない雑誌でも買っていたので、やはり趣味の部分が大きいだろう。



 しかし、最近はその趣味も開店休業状態だ。理由のひとつは、コロナ禍以降、書店に行く機会が激減したこと。もうひとつは、雑誌の創刊自体が大きく減っていることである。



 90年代から2000年代前半までは、年間150~200点前後の創刊があった。ところが、2006年に創刊誌と休刊誌の数が逆転。2012年には47年ぶりに創刊点数100を割る。2023年の創刊誌は前年より14誌少ない25誌で史上最低となった。

『週刊朝日』『ポップティーン』『Player』など老舗雑誌の休刊がニュースになる一方、派手な創刊広告を見ることもない。買いたくても買うべき創刊誌がないのである。



 コンビニの雑誌売り場はどんどん縮小されているし、雑誌全体の発行部数も販売額も右肩下がり。出版界全体で見れば電子書籍の売り上げが伸びてはいるが、材料費の高騰もあり、紙の雑誌が厳しい状況に置かれていることは間違いない。



 が、それでも私は雑誌が好きだ。



 小学生の頃に毎月楽しみにしていた『小学○年生』、学研の『科学』と『学習』に始まり、中高生時代には『プレイガイドジャーナル』『広告批評』『ぱふ』『OUT』『アニメック』『バラエティ』『写楽』などを読みふけった。



 大学進学で東京に来たら、まず『ぴあ』が必需品となる。憧れも込めてよく手にしたのは『BRUTUS』『太陽』『写真時代』など。マガジンハウスの入社試験で「弊社の雑誌を1誌取り上げて評せよ」的な問題には『BRUTUS』ではなく『ダカーポ』について書いた(筆記は通ったが役員面接で落ちた)。社会人になってからはさらに雑多なものに手を広げていく。創刊号を買い集めだしたのもその頃だ。



 



 社員編集者として制作に携わったのは、『モノ・マガジン』と『SPY』。

フリー編集者兼ライターになってからは、節操なくいろんな雑誌やムックの仕事をしてきた。編集部にデスクがあった雑誌でいえば、『Miss家庭画報』『SPA!』『マルコポーロ』。創刊前から関わったのは『GON!』『コラムニスト』。レギュラーで数ページのコラムコーナーを担当していたのが『asayan』『YABAI』『小学六年生』など。丸ごと一冊の企画・編集を引き受けたムックも十数冊ある。



 そのうちの一冊が、別冊宝島345『雑誌狂時代!』(1997年)だった。1964年創刊の『平凡パンチ』を起点に、ジャンルごとの雑誌の栄枯盛衰や傾向分析・解説をしたものだ。短期間で膨大な作業量を要求され、体力的には人生で2番目にきつかった仕事であり、誤植や事実誤認も少なくないが、自分としては棺桶に入れてほしい一冊である。



 それともう一冊、『消えたマンガ雑誌』(2000年)という本も作った。こちらは『雑誌狂時代!』で扱わなかったマンガ雑誌について、ジャンルごとに系統立てて(休刊誌をメインに)考察したものである。



 





 その2冊で、雑誌に関してはもうやり尽くした感はあった。しかし、それからすでに四半世紀が経過し、雑誌というメディア自体が危機に瀕している今、全盛期を現場で見てきた人間として、あらためてその体験を書き残しておきたいと思ったのだ。



 きっかけとなったのは、仕事場の引っ越しだ。今年5月、20年近く借りていた仕事場を移転した。そしたらまあ、出てくるわ出てくるわ。ダンボール箱に入れて保管していた創刊号コレクションが続々と発掘された。この際、まとめて処分しようかとも思ったのだが、どうせならもう一度、有効活用してからでもいいだろう――というわけで、この連載を立ち上げた次第である。



 発掘された創刊号には、今も刊行されている有名雑誌から「こんな雑誌あったっけ?」と首を傾げるものまで、さまざまなものがある。今これを読んでいる人は、おそらく雑誌好きだと思うけど、以下の20誌のうち、いくつご存じだろうか。



 



『Nan?Da』(1987年/コナミ出版)



『よむ』(1991年/岩波書店)



『デニム』(1992年/小学館)



『ワトソンJAPAN』(1992年/笠倉出版社)



『ボーダー』(1993年/徳間書店)



『PC-PAGE GURU』(1994年/翔泳社)



『ヘヴンズ・ドア』(1994年/ミリオン出版)



『頓智』(1995年/筑摩書房)



『インタ』(1995年/ソニー・マガジンズ)



『ラブ・レター』(1996年/日本ジャーナル出版)



『クラブ・アフター』(1998年/高須企画)



『あかぐみ』(2000年/ミリオン出版)



『週刊ディアス』(2001年/光文社)



『前夜』(2004年/影書房)



『言語道断』(2006年/メディアックス)



『月刊アイジェイ』(2006年/英知出版)



『月刊キング』(2006年/講談社)



『WAO! Magazine』(2007年/インフォレスト)



『ゴーギャン』(2007年/東京ニュース通信社)



『DUAL』(2008年/PHP研究所)



 



 半分以上知ってたら、なかなかの雑誌マニアと言っていいだろう。ここで個別の雑誌の内容説明はしないが、この何でもアリな感じこそが、まさに「雑」な「誌」。大手出版社でもうっかり変な雑誌を出して、いつのまにか休刊してしまっているのが味わい深い。創刊号だけでなく、『Nan?Da』『よむ』『デニム』あたりは好きで結構続けて買った。『ワトソンJAPAN』『頓智』はたぶん休刊号までコンプリートしているはずだ。



 そんなマイ雑誌コレクションをひもときながら、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る。基本はエッセイのつもりだが、具体的な記事内容にも触れ、資料的にもそれなりに価値のあるものにしたい。テーマによっては、内容的に『雑誌狂時代!』と重なる部分も出てくると思うが、その点はご容赦を。



 これからしばらくの間、よろしくお付き合いのほど、お願いいたします。



 



文:新保信長



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