「高血圧より降圧剤の方が怖い」長生きするために見抜くべき“高...の画像はこちら >>



血圧をテーマに多くの著作を出版している東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一氏が、そもそも高血圧とはなにか? 高血圧は危険なのか? といった読者の素朴な疑問に答える。怖いのは高血圧より降圧剤の方だーー。

読めば“高血圧のウソ”も見えてくる。『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』より抜粋し配信。



■血圧は脳に血液を送るために必要なもの

Q 血圧、そして高血圧とは何ですか?
A 心臓が血液を送り出す力です。血圧があるからこそ、血液は体内に行きわたることができるのです



 多くの人が定期的に受診する健康診断や人間ドックですが、何度受けても不安を感じてしまう人は多いと思います。なかでも血圧は気になる項目の1つです。



 血圧とは文字どおり「血の圧」、体内をめぐる血液が血管の壁を圧する力のことをさします。



 血液は酸素、免疫細胞、糖や脂質、たんぱく質といった栄養分などを必要な部位に送り、不要となった炭酸ガスや老廃物を肺・肝臓・腎臓へ運んで分解したり、体外へ排出します。この血圧があるからこそ、心臓から血管に送り込まれた血液は、脳をはじめとする身体のすみずみに行きわたることができるのです。



 人間は日常生活では直立していますから、脳が心臓よりも上にある状態の時間が多いですね。ですから、起きているときに脳に血液を送るためには、ある程度の血圧がどうしても必要なのです。



 血圧を測るときにキーとなるのが、2種類の数値です。1つは心臓が最も縮んだときの血圧で、収縮期(最高)血圧、いわゆる「上」。

もう1つは心臓が最もひろがったときの血圧で、拡張期(最低)血圧、いわゆる「下」です。



 血圧で数値についている「㎜Hg」は圧力を示す単位です。「ミリメートルエイチジー」「ミリ水銀柱」など、いくつかの読み方がありますが、省略されることもあります。



 特定健診・特定保健指導は2008年度にスタートしました。いわゆるメタボ健診とよばれるもので、判定においては正常な血圧を「収縮期血圧130(㎜Hg)未満、拡張期血圧85未満」としています。これは「どこまでが正常で、どこからが高めか」を判断する目安、すなわち「基準」に基づいたものです。



 測定された血圧が、この「基準」以上になると、高血圧とされるのです。





■加齢で血圧が上がるのは良い歳の取り方

Q「正常血圧は年齢とともに上がる」のが世界の常識なのでしょうか?
A そのとおりです。加齢に伴い血圧が高くなるのは元気な証拠です



 WHOの1959年、1962年のガイドラインでは、そのように明記されています。逆にいえば、「血圧が年齢とともに上がっている人は正常に年をとっている」ともいえるのです。



「血圧が高めの人のほうが元気に長生きできる」ということを日本で裏付けるデータがあります。1つは慶應義塾大学医学部のグループが出しているデータで、百寿者、100歳以上の方を調べたものです。



収縮期血圧と自立度との相関関係を見ると、血圧が高いほうが自立度も高いという結果になっています。



自立度が高いということは自分で何でもできるということで、それだけ元気で、したがって認知症も少ないわけです。



 そしてもう1つ、私の研究で神奈川県伊勢原市のデータがあります。年代別に収縮期血圧と拡張期血圧の組み合わせで6段階に分け、死亡率との相関関係を見ると、血圧は高ければ高いほどよい、低ければ低いほどよい、というのではなく、「適切な領域」があることがわかります。



 若い方にはあまり関係ないのですが、60歳以上では男女とも収縮期血圧160~179/拡張期血圧100~109以上では注意が必要になり、80歳以上の女性では収縮期血圧120/拡張期血圧80未満も死亡率が上がっていました。ただし、高齢者が降圧剤に頼ると死亡率をさらに高めるという研究結果が報告されています。



■高血圧より降圧剤の方が怖い

Q 高血圧は危険なのでしょうか?
A 栄養状態がよくなった現代では、高血圧よりも、降圧剤のほうがこわいのです



 基本的に、いまの日本人のように栄養状態がよくて、普通に生活できている人であれば、血管が破れることはほとんどありません。米国に、脳卒中で入院してくるような血管の非常に弱い方でも、収縮期血圧が185までは破れないというデータがあります。



 この研究は、脳梗塞用の新薬「t-PA」の適応について調査したものです。「t-PA」は脳梗塞発症から3時間以内に使えば、血栓を溶かして後遺症を防ぎます。しかし、血管が破れると止血が困難になるという副作用があります。脳卒中で入院した人は脳血管の弱い人が多いのですが、そういう人でも収縮期血圧185未満の人であれば、血管は破れないことがわかったのです。



 脳卒中には、脳内の血管が破れる脳内出血、血管が詰まる脳梗塞、動脈瘤が破れるくも膜下出血の3つの病型があります。私が生まれた1947年当時、脳卒中の95%以上が、脳内出血(当時は脳溢血ともよばれていました)でした。やはり栄養状態が悪かったのですね。平均寿命は、まだ男性50歳、女性54歳でした。



 そんな脳内出血が、昭和40年代から50年代に肉を食べるようになって急速に減りました。秋田県などでは脳梗塞も減ったのです。欧米式の食事は悪くありません。実は肉、卵、牛乳を多く摂取するようになって脳卒中が減り、1975年には平均寿命も延びて、男性が72歳、女性が77歳と、欧米並みの70代になったのです。



 さらに、発症者数で見ると79%が脳梗塞で、脳内出血は17%です。血圧を下げる薬、降圧剤には脳梗塞を起こす副作用があります。今は高血圧よりも、無理に血圧を下げることの方がこわいのです。



文:大櫛陽一



『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』より構成〉

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