スイスのダボスで毎年1月に行われる「ダボス会議」。その名前は教科書にも載っているぐらい有名だ。

しかし、そこに“オモテ”と“ウラ”があることは知られていない。異能の起業家・林直人氏がダボスからの現地潜入レポート!全10回を集中連載する。第4回では、前回の「逃げ場を求める富裕層」の視点から一転、ダボス会議で注目された東南アジア経済の可能性と課題に迫る。



■インドネシアの人口は4億に

 ダボス会議での印象的なトピックの一つに、東南アジア経済への関心の高まりがある。かつて「発展途上地域」と一括りにされていたこの地域が、いまや世界経済の成長エンジンとして熱い視線を集めている現実がそこにあった。



 とくに印象的だったのは、インドネシアを筆頭とする新興国市場への期待感だ。世界最大のイスラム教国であるインドネシアは、現在約2億5千万人の人口を抱え、驚くべきことに2050年までには4億人に達すると予測されている。その広大な国土と豊富な資源を背景に、東南アジア経済の核となる存在へと急速に進化しているのだ。 



 また、インドネシアだけでなく、ベトナムやインドといった新興市場も今後の世界経済の鍵を握る存在として頻繁に言及されていた。特にインフラ整備や教育投資が進む国々では、今後さらなる成長加速が見込まれている。







 東南アジア経済を語る上で避けて通れないのが、すでに高度な経済発展を遂げたマレーシアとシンガポールの存在だ。人口約2千万人を擁するマレーシアは、首都クアラルンプールを中心に驚異的な経済成長を遂げた。

驚くべきことに、クアラルンプールの平均収入は日本を上回るまでになっている。しかし、その裏では商業インフラの発展が頭打ちとなり、成長のピークに達したと見る向きも少なくない。



 一方、人口約600万人のシンガポールは、表面上はアジアの金融・経済の中心地として華やかな発展を謳われている。しかし、光もあれば闇もある。街中には「罰金」「禁止」の看板が溢れ、言論の自由は事実上存在しないという。シンガポール出身の私の教え子は「政府批判をした人物が一瞬で姿を消し、長期間投獄されるケース」があると証言する。香港ですら政府批判の声が残る一方で、シンガポールでは完全に封殺されているという現実。税金が低いだけでは、真に住みたいと感じる人は増えないだろう。



 私が特に注目しているのはベトナムだ。ホーチミンでは一人当たりの年収が100万円近くまで上昇し、首都以外の地域でも着実に経済力が向上している。ベトナム人は日本人や中国人と似た勤勉さを持ち、教育レベルも非常に高い。とくに数学や技術系のスキルに秀でており、グローバル競争力を持つ人材を次々と輩出している。

 



 私は自身の教育事業でベトナム人を雇用しているが、アメリカの大学入試で満点を獲得するような優秀な人材もいる。日本の1/10程度のコストで世界最高水準の人材を獲得できるという点は、多くの投資家や企業にとって大きな魅力となっているのだ。私たちの教育事業では、ベトナム人講師がアメリカ人生徒に英語で指導し、高い評価を得ているほどだ。このポテンシャルは、もはや無視できないレベルに達している。



 フィリピンも労働力の宝庫として期待される国だが、特有の地理的条件が成長の足かせとなっている。7,000以上の島々からなる国土は、輸送コストを押し上げ、電力供給の安定も妨げている。そのため、工場などの産業基盤の整備が難しいという構造的課題を抱えている。



 また、フィリピン経済の実権は人口の1割にも満たない中華系フィリピン人によって握られており、大多数のフィリピン人は依然として低賃金労働に従事している。フィリピンで優秀な人材を確保するためには、ほとんどの場合、名門の中国系学校出身者に頼らざるを得ないというのが現実なのだ。



■ 裏社会の影響が強い国

 ダボス会議では各国の投資リスクも熱心に議論された。カンボジアやラオス、ミャンマーについては、法制度が十分に機能しておらず、実質的に裏社会の影響力が強い地域となっているため、投資先としての期待は薄い。正当な裁判すら通じないケースも多く、ビジネスリスクが極めて高いのだ。



 一方、石油資源に恵まれたブルネイは安定した経済を維持し、隣国マレーシアとも密接な関係を築いている。生活水準も比較的高い。しかし、日本と比較して特別な投資メリットがあるかと言えば、微妙なところだ。



 ダボス会議で繰り返し指摘されたのは、各国の政治体制と経済発展の密接な関係だ。マレーシアやシンガポールは商業国家として一定の成熟を遂げる一方、ベトナムのような国々はこれから本格的な成長期を迎えようとしている。フィリピンのように社会構造の改革が求められている国もある。



 これらの現実を踏まえた上で、世界のリーダーたちは各国の特性に合わせた戦略を模索している。世界経済の変革を担うのは、結局のところ、これらの新興市場とそこで働く人々の力なのだ。



 ダボス会議で私が特に可能性を感じたのは、インドネシアなどの人口大国における女性向け健康製品市場だ。これらの国では2050年に向けて人口が爆発的に増加する一方で、女性の人権や健康に関する支援が依然として不足している現状がある。



 とくに生理用品やつわり対策の薬といった女性向け商品の普及率が極めて低い。この分野は急速に市場が拡大しており、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスとなり得る。



 フィリピンやインドネシアの一部地域では、今でも生理用品を1パック単位でしか購入できない状況だ。日本製品のような高品質な生理用品を少量ずつ販売するビジネスモデルが、新興市場で注目を集めている。



 これらの市場は単なる消費地ではなく、これからの世界経済を牽引する存在になる可能性を秘めている。ダボス会議でも、こうした市場での成長戦略が真剣に議論され、各国のリーダーたちは次なる一手を模索していた。



■グローバルな医薬品市場の〝闇〟

 ダボス会議の舞台裏で最も衝撃的だったのは、医薬品や健康関連製品をめぐるグローバルな闇市場の実態だった。インドや東南アジア諸国では、生産コストを劇的に抑えた医薬品が次々と市場に出回る一方、国際郵便や航空貨物を通じて個人輸入される未承認医薬品が膨大な量で流通している現実があった。



 これらの薬品は規制をすり抜け、日本国内にも自由診療や美容クリニックなどを通じて急速に拡散している。とくに注目されるのは、妊娠中のつわり対策薬や性病検査キット、さらには糖尿病薬などだ。これらはシンガポールやインドから直接輸送され、病院で診察履歴を残したくない層に人気を博している。



 医師や薬剤師の処方なく流通するこれらの商品は、一見便利に見えるものの、安全性に大きな疑問が残る。医療専門家たちはこれを世界的な健康リスクとして警鐘を鳴らしていた。



 特に糖尿病薬については、ダイエット目的での使用が広まっており、この分野は非常に利益率が高いという。

薬品を小分けにして販売することで巨額の収益を得ている事業者もいるという。しかし適正使用がされていない可能性も高く、健康被害リスクが懸念されている。 



 働き盛りのビジネスパーソンたちが多忙から病院に行くことを避け、オンライン診察と通販サービスを組み合わせて健康管理をするケースも増加している。数分のオンライン診察だけで必要な薬が自宅に届けられる便利さがウケている。



 ダボス会議が示したのは、従来の環境問題や経済政策といった表面的な議論を超えた、より複雑な世界経済の構図だった。グローバルな健康リスク、規制の狭間で生まれる新産業、そして人々の健康とビジネスが絡み合う現代社会の実像が浮き彫りになった。



 女性の健康を支える製品の普及、インフラ整備、法制度の改善など、国際的な課題を解決するための競争が激化する中、日本企業はこれらの国々にどのようにビジネスを展開していくべきか、真剣に検討する時期に来ている。東南アジアとインドの未来は、世界中の企業家や投資家にとって見逃せないフロンティアなのだ。



p.s.ダボス会議の裏側(非制限エリア)でダボス会議の期間中1週間1億円でレストラン・会議室・ブースを含めた施設を目抜き通りで貸してくださるという物件オーナーを知っています。



日本人を代表してダボス会議にブースを出したいという方はyourmanifestojp@gmail.com
までご連絡ください。



(ダボス会議・世界経済フォーラムの正式メンバーでない企業の方は、ダボス会議・世界経済フォーラムの公式の支援・ブランディングは受けられないそうですが、とりあえずオーナーさんとのzoomミーティングを設定することは可能です)



文:林直人

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