吉永小百合さん主演の映画『いのちの停車場』やドラマ化された『ディア・ペイシェント』など医療をテーマにした小説を数多く手がけている作家の南杏子さん(64)。最新刊『老坂クリニック』シリーズが人気だ。

そんな南さんは実は高齢者医療の現場で働く現役医師でもある。現在は、都内の高齢者病院などに週5日、内科医として勤務。日々高齢者や週末期を迎えた患者やその家族と向き合っている。



 そんな南さんに、両親や祖父母が介護を必要とする世代が増えている今だからこそ「家族は患者とどう接したらいいのか」「家族が介護に辛くなった時の対処法」などを含め、高齢者医療や介護施設(ホーム)について忌憚なく語っていただいた。南杏子さんインタビュー連載全3回の第2回「『私は介護一色の大学生活だった』だからこそ伝えたい!  親と自分のために早めの介護施設探しを!」とは。



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◾️介護と医療はセットなのだという認識が大事



 南さん自身、10代の頃に介護体験がある。東京に住んでいた母方の祖父が脳梗塞で寝たきりになり、祖母が1人で介護していた。当時、南さんが家族で住んでいた名古屋から東京の大学に行くことを認めてもらう条件が、「祖父母と同居して介護を手伝うこと」だったそうだ。





「花の女子大生生活なんて夢のまた夢で、介護一色でヘトヘトの毎日でしたね。でも、18歳の子どもがいきなり要領よく上手な介護なんて、できるはずなくて。車椅子を押せば『怖い』と怒られるし、9歳下の弟の世話で慣れていたはずのオムツ交換も、大人の男の人となると足さえうまく持ち上げられない。しかも四六時中、祖父から『背中かいて』『喉が渇いた』などと呼ばれ、ゆっくり過ごせる暇がない。

ともに介護をしていた祖母は、『もう、離縁してやる!』って年がら年中叫んでいました (笑)。だけど、不機嫌な妻と不器用な孫に介護されながら最期を迎えた祖父は、<どんな気持ちだったんだろうな>と、亡くなった後に時々思い起こすことがありましてね」





 のちに二つ目の大学に行って医師になり、終末医療の現場を経験することで、十代のころの介護の至らなさを含め、様々な気づきがあった。特に介護と医療はセットなのだということを思い知らされたという。





「施設を選ぶ際には、やはり介護と医療が揃っているところがベストだと思います。少し体調を崩してもすぐに医療的なケアを受けることで重症化しない。高齢になるとちょっとした風邪でもあっという間に寝込んで、脚の筋肉が弱ってしまう。すると、歩くとふらつき、トイレに行ったときに転んで骨折する――といったドミノ倒しを招くのです。そうならないようにするためにも最初の段階で食い止めることが大事。医療的な観点からリスクを最小限にしてくれるスタッフが揃っているところがよりいいですね。同時にまた、介護態勢がしっかりしていて、職場内の教育が行き届いているところは気持ちが安らぎます。スタッフに注意されてシュンとなってしまうようなところではなく、ゆったりと構えて優しく接してくれるところが一番いいと思います。優しさというのは人の気分をよくしてくれます。

家にいたときは子供夫婦に叱られてショボンとしていた人が施設に入ってのびのびして、生き生きと過ごされている例も多いですよ」



「私は介護一色の大学生活だった」だからこそ伝えたい! 親と自分のために早めの介護施設探しを!【南杏子②】
南杏子さんの人気著作『老坂クリニック』シリーズ。『老坂クリニック  坂の途中に椅子ひとつ 』『老坂クリニック  坂の上に見える窓』(講談社文庫) 絶賛発売中。



■早めに老人ホーム探し・見学・体験を勧める理由



 いずれ来る自分の老後のためにも気持ちの準備はしておくほうがいい。老人ホーム探しや施設見学、入所体験も早めにするのがお勧めだとも。





「子ども世代は、50代の頃から親をダシにして、自分の老後のための参考に親と一緒に老人ホームや施設を巡るというのも一考に値します。イザという時にスムーズに進められるように。その際は、『こんなホームなら自分も入りたいかも』って子ども自身が納得できるかどうかが施設選びのモノサシになります。『あ、ここいいな。プールやダンスホールもあるし、麻雀もできる。食事もおいしいし、優しい雰囲気だな』って。下見しておいて、いい施設だと本当に納得してから親に勧めると、罪悪感もないし、パンフレットや口だけの説明よりグンと説得力が増します。私自身、夫と老後の話をしますし、いろんな施設を一緒に見に行っています。50代の頃からだから、もう10か所ぐらい行きました。東京の都心部に近いところから、地方の例えば湯河原や熱海、鴨川とか、リゾートホテルを見に行く感覚で1泊2日で行って来たり。

施設を見るだけでなく、入居者の考え方も様々だと勉強になります。たとえば夫婦一緒に入居するのが自然でしょうが、夫はA棟、妻はB棟というふうに夫婦別室を選ぶ人もいるらしい。その距離感が良かったりするんでしょうね。ワンルームマンションみたいな感じでちょっと狭いけれど、それでも老いた体には便利でいいなっていう気持ちにだんだんなってくるんです。今はむしろ夫のほうがいろいろ探してきて、『今度はこの施設を見に行くといいんじゃない?』って乗り気です」





「私は介護一色の大学生活だった」だからこそ伝えたい! 親と自分のために早めの介護施設探しを!【南杏子②】
撮影:Haru



 郊外だと庭が広く、景色のいいところも多い。それこそ温泉施設がついているところもあるそうだ。





「自分に合うか合わないかは、パンフレットだけではわかりません。実際にその施設に足を運ぶ必要があります。行ってみて、施設長をはじめ、スタッフの人達がどんなマインドでやっているのかを肌で感じてみる。私もいろんなところに行きましたけど、どこのスタッフもみなさんそれぞれに一生懸命です。高級レストランみたいにゴージャスなメニューを提供する施設もあります。基本的には感じがいいところが多いです。

お試し入居ができないなら、見に行って話を聞くだけでも雰囲気がわかります。体が不自由になってから自分で調べようとしても難しいですから、早めの準備が大切です。よくピンピンコロリが理想と言いますけど、そんなふうに亡くなる方は10人に1人もいないのが現実です。最期は誰かの手を借りて下の世話までしてもらわなければなりません。私の父などは『ボケたら切腹する』なんて物騒なことを言ってますけれど、自分では状況を選べません。母も体調を壊して寝込んだとき、『このまま動けなくなったらどうしよう』と不安になったと言うので『老人ホームに入ればいいのよ。それで不自由と不便を解決できるんだから』って言っておきました。冷たい娘だと思うかもしれませんが、子どもに頼ろうとすると親の側が日ごろから頭を下げるような関係になってしまうじゃないですか。最後まで人生の主人公でいるためにも、『私はホームに入る』と子どもに向かって宣言して、自分のものは家でも何でも投げ売ってでも、互いにより快適な道へ進むことをお勧めします」





◆第3回につづく…





「私は介護一色の大学生活だった」だからこそ伝えたい! 親と自分のために早めの介護施設探しを!【南杏子②】
写真:本人提供











南 杏子(みなみ・きょうこ)



内科医、小説家。1961年、徳島県生まれ。日本女子大学卒業。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。

卒業後、慶應義塾大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者病院に内科医として勤務。『サイレント・ブレス』がデビュー作。その他の著書に、映画化された『いのちの停車場』、NHKで連続ドラマ化された『ディア・ペイシェント 絆のカルテ』、『希望のステージ』、『ブラックウェルに憧れて 四人の女性医師』、『ヴァイタル・サイン』、『いのちの十字路』、『いのちの波止場』、『アルツ村 閉ざされた楽園』「老坂クリニック」シリーズなどがある。





取材・構成:大西展子

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