ダンス界は「西高東低」と言われる。ダンスのスキルは西日本優位。ダンス部に限っての話ではなく、日本のストリートダンス界全体の歴史でもその傾向はずっと続いている。1980年代、のちに「オールドスクール」と呼ばれる、ブレイク、ロック、ポップの3ジャンルは、福岡や大阪を拠点に盛り上がったと言われている。「オリジネイター」と呼ばれる海外ダンサーがそれらの地を訪れることが多かったという理由らしいが、その後も脈々とオールドスクールジャンルの技術継承が西日本で続いていった理由の一つには、彼らの気質も挙げられるだろう。
特に関西は、まず技術至上主義=「職人気質」なのである。
ダンスの仕事で考えれば、関西に比べて東京ははるかに仕事のクチが多い。特に芸能仕事に関しては他と比べて質も量も圧倒的だ。東京では、芸能界やエンタメ業界が発展していて、ダンサーはそこに華を添える存在としていくつも職業としての居場所がある。関西はそれに比べれば芸能仕事は少ない。
よって、ダンサーはレッスン仕事、いわゆる「教え=コーチ(講師)」で収入のほとんどを得ることになる。
また、関西は徒弟制度のような「縦」のつながりが他の地域に比べて強い。
東京はその辺りがあっさりしていたり、中には嫌う傾向もあるだろう。関西でオールドスクールが根強いのは、その「縦」のつながりによって色濃い伝統が継承されているからなのだ。94年に始まったストリートダンスの最古参コンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT」は関西発信で、その歴代優勝チーム26の半数を関西のチームが占める。うちオールドスクール系のチームは10。もちろんオールドスクールだけでなく、ヒップホップ、ジャズ、ワックのチームも関西のレベルは高い。
逆に関西勢が東京のダンスで恐れるポイントが「センス」と「華やかさ」だという。
演出力やコンセプト、トレンド感や華やかさなどはやはり流行の先端をいく東京にはかなわない。登美丘高校のakaneコーチも以前に「東京は何をしてくるかわからない」と発言していた。

◆ハンパない「エネルギー」のダンス
スキルだけではない。関西のダンサーやダンス部のステージから放たれるテンションというか熱量、「エネルギーが違う」と感じるのは私だけではないはずだ。
エネルギーというと抽象的な表現に聞こえるが、それは自分が何かを伝えようとする気持ちの強さだったり、相手や観客に即応していく反応力だったり、集団で連鎖し増幅していく波動のようなものと言えるだろうか。自分の体が細胞レベルで活性化し、それが表に出た時に高い「エネルギー」は放出される。
また、ノリの良い大阪人はアメリカ南部の黒人に気質が似ていると言われるが、音楽の世界ではゴスペル、ブルース、R&B、ソウル、ファンク、ヒップホップなどのジャンルはすべて黒人から始まった音楽スタイルであり、どれもスタイル以前にメッセージや時代背景、「人間力」を全面に押し出したような音楽と言える。そして、そのすべてがダンスと直結しており、ストリートダンスと呼ばれるジャンルは常にこの文脈の上にある。ビバップ、タップ、スイング、ソウル、ワック、オールドスクール、ヒップホップすべてそう。だから、いわば黒人に気質が似ている大阪人がストリートダンスに強いのも当然と言えば当然なのだ。
◆「負けん気」の強さと「笑い」の文化他に関西人の気質として挙げられるのが「負けん気」の強さである。
ダンス部はそもそも文化系と体育会系の両面を持ち合わせる部活であるが、関西のダンス部がより体育会的な取り組みをしていることはステージを見ても取材をしてもわかる。徹底した基礎練や筋トレ、規律の正しさ、指示系統、部員同士のチェック機能などなど、どの学校も練習中はピリッとしたムードのなかで合理的に練習を進める。基礎力の向上のためには、チームとしてある程度の厳格さが必要であるし、全体のレベルを上げるためにはお互いの弱点を指摘し合わなければいけない。その点で関西のダンス部には無駄がない。持ち前の負けん気で基礎トレに取り組み、互いの指摘をするタイミングや言い方にもまったく躊躇がない。

あと忘れてはいけないのが「笑い」の文化。
関西には他とは違う独特の芸能文化が根づいており、小さい頃から「笑かすこと」、あるいは「ボケる」「ツッコむ」という丁々発止のコミュニケーションが日常的だ。それが顕著に作風に生かされているのが登美丘高校なのだが、別に笑いの方向に走らずとも、「ボケ/ツッコミ」というのは緊張と緩和のバランス感覚なので、それが作品作りに生かされている面は大いにあるのだろう。また「目立ちたがり屋」「純粋な楽しむ気持ち」「切り替えが早い」という彼らの気質もまた、ダンサーとしては有利に働く要素だと言える。
ダンスは古来コミュニケーションツールであり、人と人の間をつなぐ、いわば無駄な壁をなくすもの。何より、関西のダンス部から感じることは、コミュニケーション能力の強さだ。それは学生たちが人間形成の時期に身につけるべき能力、将来の「人と関わるチカラ」にも変換されていくだろう。
(『ダンス部ノート』より構成)