「年金だけでは、老後の生活資金が2,000万円不足する!」「老後に備え、若い頃からの資産形成による”自助”を勧める」ーー。昨年発表された金融庁の報告書に、国民の多くが不安を抱いた。
「今のうちに投資を」と考えている読者に、「GPIFの年金政策ミスによって、長期にわたる株価低迷が始まります。アベノミクスを支えた年金運用の後遺症。その時期は、早ければ東京五輪後です」と語るのは、現況に危機感を抱き、警鐘を鳴らす元野村投信ファンドマネージャー・近藤駿介氏だ。「202X 金融資産消滅」の真実と「今すべきこと」を語ります。(『202X 金融資産消滅』(KKベストセラーズ)より引用)
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■年金運用を行うGPIFは度々、多額の損失を計上している

 日本の公的年金資金の運用を行っているGPIFの運用はうまくいっているのでしょうか。 

 「世界最大の機関投資家」として多額の公的年金資金を運用するGPIFは、2018年度に2兆3795億円の収益を上げ、公的年金資金の市場運用を始めた2001年度からの収益累計が 65・8兆円に達したと報じられています。しかし、常に順調に収益を上げてきたわけではありません。

 GPIFは、2015年度には第2四半期(2015年7月から9月期)に7兆8899億 円、第4四半期(2016年1月から3月期)に4兆7990億円の損失を計上し、年度を通しても5兆3098億円の損失を計上しています。

 さらに、2016年度第1四半期(2016年4月から6月期)には5兆2342億円、2017年度第4四半期(2017年1月から3月期)には5兆5408億円の損失に見舞われたほか、2018年度第3四半期(2018年9月から12月期)には米国を中心とした世界的な株安に円高が加わったこともあり、14兆8038億円という大きな損失計上を余儀なくされています。

 このようにGPIFはたびたび多額の損失計上に見舞われているのです。そしてその度に一部のメディアで公的年金が破綻するかのように大きく取り上げられる一方、政府は一貫して「短期的な運用結果が年金財政の問題に直結したり、年金給付に直ちに影響を与えたりすることはない」と全く意に介さないようなコメントを出す光景が繰り返されました。

 

■GPIFが多額の損失を出したら年金給付に影響はあるのか? 

 では本当にGPIFが運用で大きな損失を出しても年金給付には支障はないのでしょうか。

 政府がGPIFの多額の損失計上にもかかわらず落ち着いていられるのは、現在の年金給付が現役世代から徴収する年金保険料と税金で賄われていて、GPIFの運用資産が財源として使われていないからです。

 現在年金給付の財源としてGPIFが管理運用する資金は使われていないのですから、GPIFが短期的に数兆円、時には10兆円を超えるような損失を計上しても政府は「年金給付に直ちに影響を及ぼさない」と他人事のようにしていられるのです。

 GPIFの運用失敗が直ちに現在の年金給付に影響が及ぶのであれば政府はこんなにのんびりはしていられません。年金支給額の減額を余儀なくされ、それが年金受給者である世代の反発を招いて選挙結果に悪影響が出ることは必至だからです。

 しかし、現在の年金受給者への年金支給は現役世代から徴収した年金保険料と税金で賄われており、GPIFの運用成績とは切り離されています。こうした状況なので、安倍政権はGPIFの運用成績に無頓着でいられるのです。

 そして、GPIFの運用失敗が、現在の年金給付に影響が及ばない状況になっていることが、GPIFの資金をアベノミクスの成果を演出する道具に使おうとさせた要因であるともいえるのです。

■追加金融緩和とともに内外株式の比率を高めた「リスク選好型」へ

  前述のように、2014年10月31日に、GPIFは日銀の追加金融緩和にタイミングを合わせるように、従来の「国債偏重型」基本ポートフォリオを、内外株式の比率を高めた「リスク選好型」へと変更しました。

 これにより、当然GPIFの運用成績は内外株の動向の影響を強く受けるようになりました。2015年度以降、GPIFがたびたび大きな損失を計上するようになったのも、内外の株式市場や為替の影響を受けやすくなったからに他なりません。

 もしGPIFの運用成績が現在の年金受給者の年金支給額に直接影響を及ぼすものであれば、おそらく「消えた年金問題」で一度政権を手放さなければならなくなった苦い経験を持つ安倍政権がGPIFの基本ポートフォリオをリスク選好型に変更することはなかったかもしれません。

 選挙への影響という観点からみれば、基本ポートフォリオの変更によってGPIFの運用成績が内外株や為替市場の影響を強く受けるようになるリスクよりも、GPIFの多額の運用資金を内外株に振り向けることによって生じる円安・株高というリターンの方がずっと大きいという政治判断が働いたのだと思います。

たとえGPIFが運用によって多額の損失を生んだとしても、そのことが直ちに年金給付に影響を及ぼさないわけですから、年金世代からの大きな反発を受けて選挙に不利になる可能性は低いのです。

 公的年金を運用するGPIFの資産が、短期間とはいえ5兆円や10兆円も減るということは大きな問題ではあります。しかし、「公的年金2000万円不足問題」が大きな騒ぎとなった今でもGPIFの運用成績が大きく変動することは大きな問題とはなっていません。

 それは、米国株式市場が史上最高値を更新するなど世界的に株式市場が好調なことで GPIFの運用が結果的に収益を積み上げているという事実があり、GPIFの資産が大きく目減りしても「直ちに年金支給に影響を及ぼさない」と信じ込まれているからです。

 

◼️GPIFが毎年収益を上げてきていることと運用問題は別

 GPIFが2014年 10月に基本ポートフォリオを「リスク選好型」に変更して以降も、 中国が元切下げによって市場が動揺した2015年度を除いて毎年収益を上げてきているのは、内外株式市場とも好調だったからです。国内株式は自らの投資資金を投入したことに加え、日銀が異次元の金融緩和を強化し年間6兆円もの資金を株式市場に投入したことで株価は下支えされ、米国株式市場はトランプ大統領誕生を契機とした「トランプ相場」の恩恵を受け続けています。 

 GPIFが基本ポートフォリオを変更した2014年10月31日を基準にすると、2019年11月末までの5年1か月の間で日経平均株価は41・9%、東証株価指数(TOPIX) は27・4%上昇している上、米国株はNYダウが61・3%、ナスダックは87・1%も上昇しています。

 GPIFの基本ポートフォリオを変更して公的年金資産を株式市場に追加投入され、「異次元の金融緩和」と称して日銀の資金を株式市場に投入するという日本自身の「自助努力」と、トランプ大統領誕生に伴う「トランプ相場」という「外的追い風」を受けて、これまではGPIFの基本ポートフォリオを「リスク選好型」に変更したことによる問題は顕在化してきませんでした。しかし、それが顕在化してこなかったことと、GPIFの運用上の問題の有無とは全く別問題だということは認識しておかなければなりません。 

 では、「世界最大の機関投資家」と称されるGPIFは、どのような運用上の問題を抱えているのでしょうか。 それを見れば今後GPIFが金融市場にどのような「北風」を吹き付けてくるかが想像できるでしょう。 

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