まず坂詰氏が指摘するのは現代人の“お尻の危機”だ。
「いまの日本人で象徴的に固いのはお尻です。その原因として大きいのはやはりスマホなどの携帯端末の普及です。スマホを見つめる姿勢は目線が下がっています。目線を下げて、頭を前に下げると、姿勢を保つために反射的に背中が丸まり、骨盤が後傾して猫背になります。そして骨盤が後傾したままだと尻の筋肉が縮んで固くなっていきます」(坂詰真二氏)
そしてお尻の固さをそのまま放置してしまうと、重心が後方に傾いてしまい不安定な姿勢になる。このため近年は高校生でも“おじいちゃん・おばあちゃんの姿勢”になってしまっている人を見かけるという。
まず、お尻などの柔軟性がないと、以前に紹介した「自重トレーニング」などもフォームが上手く保てず成果があがらなくなってしまう。
「腹筋をやるにしても背中を丸めなければいけません。腕立て伏せをやるにしても腕を後方に引けなければいけません。まず筋トレをやるために柔軟性が必要です。
さらにお尻が固ければお尻の筋肉そのものもうまく使うことができない。椅子から立ち上がるシチュエーションを例にとろう。お尻の筋肉が縮まっていると股関節がうまく働かず、太ももの筋肉(大腿四頭筋)だけしか使えない。これに対してお尻が柔らかく骨盤が立っていれば、股関節も使えるので、負荷が大腿四頭筋と大殿筋に分散する。つまり楽に立てるのだ。
柔軟性がないと体に余計な疲労をためてしまうことになる。しかし、ストレッチで柔軟性を取り戻すことができれば効率的に動ける。疲れにくくなる。
それだけではない。さらに坂詰氏は、ビジネスマンが日々悩まされてるであろう「心のストレス」もストレッチによって解消するという。
「ストレッチで筋肉が心地よい刺激を受けると筋肉が局所的に脱力するだけではありません。心身をコントロールする自律神経が興奮系の交感神経優位な状態から、リラックス系の副交感神経優位な状態に傾き、心拍数や血圧が下がるとともに穏やかな心理状態へと導きます」(同)
こうなったらストレッチをしない手はない。

まずおさえるべきはお尻の柔軟性を取り戻す、このストレッチだ。仰向けでもも裏を抱えて手前に引く。夜、就寝前などにやってみよう。注意点としては、お尻が床から浮いて背中が丸まると、お尻が伸びないのでNG。
2、ハムストリングスのストレッチ


次におさえるべきはお尻と一体になっている足裏を伸ばすストレッチ。一方の足を前に出して前傾していく。これも自宅のベッドの上でできる。注意点としては背中を丸めながら前屈してしまうと、ハムストリングスが伸びにくい。
3、腹直筋のストレッチ


ここからは会社のちょっとした空き時間にできるものだ。これはお腹を伸ばすストレッチ。立位で腰に手を当てて上体を反らす。注意点としては、膝が曲がったり、骨盤が後傾すると腹直筋は伸びにくい。
4、大胸筋のストレッチ


これは胸を伸ばすストレッチ。こちらも場所を選ばず気軽にできる。背中で組んだ手を後方に引く。注意点としては、腕を上げようとするあまり、肩が前に出たり背中が丸まると大胸筋は伸びない。
5、胸鎖乳突筋のストレッチ


これは首を伸ばすストレッチ。両手の親指で顎を上げる。これは立たずともデスクで座りながらでもできる。注意点としては力任せに勢いよく頭を後屈させると首を痛めやすいので、ゆっくり行うこと。
ストレッチを日常のルーティンにぜひ読者の皆さんもいま紹介した5つのストレッチを習慣化してほしい。
「働いている方であれば、仕事の合間に疲れたなと思ったら、突っ伏して寝るのではなく、ぜひストレッチを取り入れてほしいですね。さきほど紹介した、お腹・胸・首を伸ばすストレッチ(前ページ3~5)は1時間に1回ぐらい、デスクから立ってやってみる。これはクセにしてほしいですね。最初に紹介したふたつ、お尻と足裏のストレッチ(前前ページ1~2)はデスクだと難しいので、寝る前にしっかりやって欲しいですね」(同)
ポイントは正しいフォームをしっかりおさえること。よく写真を見て正しい動きを身につけてほしい。そして力を込めてやらずに「気持ちいい」所で止めることも大切だ。
最後にひとつストレッチのいい点を強調しておく。“即効性”があるのだ。
「ストレッチをやればもうその場で疲れがとれますし、姿勢もよくなります。極端な例ではありますが、年輩の方などはストレッチ前とストレッチ後で身長が5センチ変わっていることもあるぐらいです」(同)
毎日仕事に追われヘトヘトになっているビジネスマンも、最近「元気が出ないな」という主婦の方も、ぜひいまこの瞬間からストレッチをして、その効果を体感してほしい。