いまや世界に名を轟かす日本のアニメや漫画。なぜここまで世界を魅了したのか。
その理由に「神道」が関係していることを『日本人はなぜ外国人に「神道」を説明できないのか』の山村明義が語る。日本の「アニメ」や「漫画」はなぜ世界を席巻するのか

 日本のアニメや漫画が世界に通用するということは、いまや常識になっています。

 日本のアニメの奥行きやキャラクターの可愛さ、格好良さ、セリフやストーリー展開の面白さは、ドラゴンボールやポケモン、ワンピースなどでよく知られています。

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 しかし、その絵の奥行きやキャラクターの可愛さやセリフの面白さのなかに、「神道がある」といったら驚かれるでしょうか。

 実は、日本人は「見立て」の能力が優れています。

「見立て」とは、人類学者の川田順三氏によれば、能で神を「翁(おきな)」に見立てるのと同じように、「対象を別の物になぞらえ、実在しない物をあるように思い描く」ことです。つまり、対象をそのまま描くのではなく、他の何かによって表現することを指します。

 例えば、日本庭園に「枯山水」という風景がありますが、ここでは、白砂や小石の文様が「水の流れ」を表現し、それが「諸行無常」を表していると指摘されています。

 茶の湯では、本来は水筒である瓢箪(ひょうたん)を花入れに使ったり、船の出入り口のにじり口を使ったりするなどという場合です。

 表現方法であれば、直接そのままに書く場合はあまりにもストレート過ぎて面白くないときに、この「見立て」という日本的な手法が使われるわけです。

 落語では噺家の持つ扇子が、蕎麦を食べるときの「箸」の代わりをしたり、煙管の代わりをしたりします。また、お母さんが子供のお弁当にうさぎの形のりんごを切ったりするのも「見立て」です。

アニメの現実にはあり得ないキャラやストーリー、可愛い動物キャラなども、その「見立て」の一つの表現手段として使われています。

 日本の漫画やアニメは、この「見立て」が面白く、「可愛い文化」だからこそ、世界に受けているのです。

 

 例えば、アメリカ漫画を含め、海外の漫画は、一般的に現実社会に即したストレートな表現方法によって構成され、「奥行き」や「広がり」がないことが少なくありません。漫画は葛飾北斎や安藤広重の浮世絵以来、やはりアニメは、手塚治虫や宮崎駿以来、日本の方が一歩上手だといって良いでしょう。

 その「見立ての力」は、よく指摘されるように、日本の和歌や漢詩にもありますが、実は神道によるところが大きいのです。

 というのは、日本の神道では、「依り代(よりしろ)」というものを神に見立てているからです。それは、「大幣(おおぬさ)」であったり、「御神体」そのものであったりします。また、「依り代」は「鏡」や刀」、ときには人形のときもあります。さらには、その神社の宮司ですら「見たことがない」という姿も知れないものがあります。

 また古代から、日本人は、「山」や「海」や「川」、そして人間まで「神」に見立てていました。その古代からのDNAが綿々と引き継がれているのではないでしょうか。

 日本では、単なる「物」が、日本特有の精神性、つまり「魂」を持つという考え方があります。

神道でも、「魂」が宿るものであれば、神様も宿るはずであると考えます。

 つまり、人が誠心誠意何事かを行っていれば、自然界の森羅万象すべてに「魂」は宿り、その対象は何にでも仮託することが出来る、ということになります。

 だから、当然日本にはこの「見立て」という現象が起きるわけです。

 そこで大事なのは、絵の中のキャラクターたちの「息吹」です。
もともと、「アニメーション」とは「生気」という意味なのですが、日本のアニメや漫画には、生気あふれる「息吹」が見られていました。

 戦後日本の巨大な文化であった劇画や四コマ漫画もそうでしたが、日本のアニメや漫画は、作り手の「魂」が込められると考えることによって、実際に常に生き生きとして、それが見る者を魅了するわけです。

 実はここにも、神道が関係して来ます。日本の神道では、人間の「魂」とは、肉体で意図的に振ることによって「震えるもの」と捉えます。

 例えば、戦前に川面凡児という神道家が行っていた鎮魂法は、「振魂」(ふりたま)と「鎮魂」(たましずめ)いう方法で禊などの修行法がいまも行われています。

 もともとは物部一族の考え方だったといわれていますが、神や人の魂には、「荒魂」(あらみたま)と「和魂」(にぎみたま)など「四魂」があり、丹田(へその下)辺りに力を入れて深い息呼吸をしながら気持ちを振ることで、神に近づけるというものです。

 ものの「魂」にはその人間の呼吸や息吹が大事、というところが日本の神道的なところでしょう。

『日本人はなぜ外国人に「神道」を説明できないのか』より構成〉

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