育児を通した夫婦関係について、「夫」目線で考える本特集「『イクメン』って結局なに?」。第二章では、育児・家事に関するキーワードを取り上げ、妻の抱える不満を詳しく見ていく。

サラリーマンの大変さというのは、少しでも働いた経験のある人であれば、なんとなく想像がつくものだ。しかし、専業主婦(専業主夫を含む)の大変さは、実際に経験してみないことには分からないというのが正直なところだろう。もしかしたら、「専業主婦は働いている人より楽だ」「ずっと家にいて、何がそんなに大変なんだ」と考えている人も中にはいるかもしれない。
しかし今、家事・育児を一人で引き受ける「ワンオペ育児」状態の専業主婦の過酷さ、危うさが指摘されている。では、専業主婦の「大変さ」の正体とは、いったいなんなのか。●「時間の裁量権」がないツラさ

 家事シェアや夫婦のパートナーシップ、子育て家庭のための模様替えなど、"ただいま"と帰りたくなる家庭づくりをすすめる活動をしているNPO法人tadaima!の代表・三木智有さんはつい最近、娘さん(3歳)が幼稚園に入るまでの一か月限定で、“専業主夫”状態を経験したという。
「専業主夫になってみて気づいたのは、働いているときよりはるかに疲れる、ということです」。

専業主婦の大変さはなぜ理解されない?“主夫”を経験して初めて...の画像はこちら >>
 

 専業主夫の期間、奥さんは平日仕事で外出してしまうため、三木さんはずっと娘さんと一緒の生活。疲弊感を感じたポイントは、「時間の裁量権がない」ことだった。

「外で働いているときは、もちろん忙しいんです。ただ、『この時間にメール処理をしよう』というふうに、仕事中はいつ、何をするかを決める裁量が自分にあります。対して、子どもと一緒にいるときは、時間の裁量権が子どもにあるんです。

外に遊びに出ればずっと目が離せないし、家にいると『パパ、パパ!』と話しかけてくるし……ようやくテレビを観始めたと思っても、『飽きた』『おなかすいた』『お菓子食べたい』『トイレ行きたい』となるので、普段だったら15分で済むはずのメール処理に、丸一日かかってしまうこともありました」。

 ごはんを食べるときも、寝るときも、大人の言う通りには動いてくれないのが子どもだ。子どもと向き合う時間の長い専業主夫(主婦)は、子どものペースで生活を送らなければならないため、自分が自由に使える時間というのは、ほとんどないに等しい。
 その上、時間の流れるスピードが遅いことも疲労感につながるという。
「忙しい方がまだいいんです、あっという間に時間が過ぎますから。でも専業主夫をしていると、やることが立て込んでいるわけではないのに拘束時間はすごく長いので、ふと時計を見て『まだ10時ですか……』と思うことがよくあって(笑)。俺はこの間何をやっていたんだろう、と思うと余計に疲れてしまうんです」。

 専業主婦を暇で楽だと思ってしまうサラリーマンは、おそらくその「仕事量」だけを基準にそう判断しているのだろう。しかし、専業主婦の大変さは、決して仕事の量だけで測ることはできない。「時間の裁量権」がないツラさというのは、やはり実際に体験しないことには想像が及ばないことで、ゆえに専業主婦の苦労はこれまで注目されづらかったのだろう。

●「私がやればお金がかからずに済む」が主婦を苦しめる

 では、専業主婦(主夫)にも自分で自由に使える時間があれば良いのだろうか。
 たとえば、一時保育や家事代行を利用するという手段がある。

少しの時間だけでも子どもを預かってもらったり、家のことを誰かに頼むことができれば、自由時間ができ、精神的にも肉体的にも多少楽になれるのではないか、と考える人もいるだろう。しかし、問題はそう単純ではない。
 専業主婦(主夫)は良くない意味での「節約志向」になってしまい、そういったサービスを使うことを躊躇してしまうのだと、三木さんは言う。
「自分に稼ぎがある人は、一時保育を利用したとしても『サービスを利用した分また仕事を頑張ろう』と考えることができますが、専業主婦(主夫)の場合は自分で収入を得ていませんから、家にお金を入れることができない。そうすると、『何も生み出していないんだったら、せめて使わないようにしよう』と帳尻を合わせようとしてしまうんです」。

 

 この「私がやればお金がかからずに済む」という考え方があるからこそ、専業主婦は家事・育児でますます手が抜けなくなり、自分を追い詰めることになってしまう。こうした八方ふさがりな状況こそが、「ワンオペ育児」に象徴される専業主婦の過酷さを生み出しているのではないだろうか。

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