例えば、1月のFacebook上では、海上自衛官による以下のような記事投稿があった。
「今朝離陸する一番機を撮影しようと思って外に出てみると南の空から帰投してきて着陸したP3-Cが見えました。昨日の応急待機員に聞いたところ、大晦日なので、みんなで鍋をやって さて食べようかと思ったときに漁船船員行方不明で発進したそうです。今年も忙しい年になりそうです! 頑張ります!」
関係者への取材から、この投稿は海上自衛隊厚木航空基地に勤務する現職自衛官A氏(仮名)のものであることがわかった。自衛官という職務上でなければ知ることのできない情報、加えて職場にて「大晦日に鍋」をした事実などが記されている。なお、この投稿は、本稿執筆時には削除されており、その投稿内容が事実であるかについても確認はできなかった。
A氏によるこの投稿について、20代の若手現役幹部自衛官は「Facebook投稿による不祥事が指摘されるなか、こうした浮かれた内容の投稿を行うとは言語道断。しかしこのA氏に、幹部は注意しにくい事情がある。A氏は、下士官の世界では閥化している旧少年術科学校出身のベテラン。若手はもちろん、幹部でも注意できないし、注意しても聞かないだろう」という。
●SNS不祥事が減らない理由それにしても、海上自衛隊のSNSにおける不祥事は際立って多い。その理由について、旧少年術科学校でA氏の同窓でもあるB氏は、「自衛隊、特に海上自衛隊の隊員は、よく言えばピュアな人が多い。それが遠因ではないか。
では、なぜこうした乖離が発生するのであろうか?
自衛隊では入隊時、まず隊員には、徹底的に仲間意識の大切さを教え、入隊同期同士の絆を深めることから教育を始める。また防衛大学校や航空学生課程、旧少年術科学校などの自衛隊学校では、先輩・後輩の結束を植え付けられる。この自衛隊学校入学の同期、先輩、後輩の結束が、ひいては自衛隊全体の結束となるというわけだ。
この結束こそ、自衛隊に限らず、警察、消防といった制服職種、また中央官庁や各地方自治体などに勤務する「お役人」の身内をかばう体質、さらに踏み込めば、不祥事案への隠蔽体質へと繋がっていく。結果、世間の常識とかけ離れた自衛隊という閉鎖社会の中だけでしか通用しない価値観が生まれることになる。
さて、冒頭の当サイト記事で漏洩行為を指摘された護衛艦「みねゆき」艦長は少年術科学校の出身だが、同校OBで形成されるFacebook内グループ「海上自衛隊・生徒(旧少年術科学校)」内では、以下のような投稿がなされていた。
「(略)僕の職場では、この記事を皆みており、皆、艦長に批判的でした。でも『Facebookのなかで起きたこと』といえば、皆、納得してくれました。民間で艦長のことを悪く思っている人がいたとしても、僕は艦長の汚名を晴らす努力は惜しみません」(前出のA氏)
「(略)情報を垂れ流しているのは秋山謙一郎(冒頭の本サイト記事執筆者)、お前だといいたい。奴は頭の病気(中略)」(民間企業に勤務する予備自衛官C氏)
挙げ句、「我々も媒体があれば、艦長の正しさを訴えよう」と、Facebook内で同調者を募る自衛官まで出る始末だ。なかには「Facebook内での投稿だから、外部に漏らしたわけではない」「100%セキュリティが担保されているとはいえないかもしれない。
100%セキュリティの担保がないところで、こうした内容を話題にすること事体、情報リテラシーの欠如が著しいといえよう。
●「秘密グループ」でも秘密は担保されないましてやFacebookとは、情報インフラとしていまだ確立されたものではなく、そもそもの発端はアメリカの大学生がお遊びでつくったツール。投稿内容はデータ化され、各種マーケティングに用いられていることは、今ではよく知られている。Facebook上の書き込みは、CIAや大手広告代理店に流れているという、まことしやかな噂もある。つまり「秘密が担保できない場」なのだ。
しかも、このFacebook内の「海上自衛隊・生徒グループ」は、一応、秘密グループと銘打っているものの、外部の者でも簡単に閲覧できてしまうというシロモノだ。
ネット世界においては、たとえ「秘密グループ」と称していても、秘密は担保されないことは常識である。秘密と称する情報を閲覧できる者が第三者に閲覧させる、もしくは意図を持った第三者が関係者を装って秘密グループへ入り込むほか、なんらかの形で流出・拡散してしまうなど、さまざまな事態が考えられ。
事実、スマートフォンからのFacebook投稿は、非公開のつもりでも、全公開となるバグは、多々報告されてきた。
なぜこうした情報リテラシーの常識が、艦長経験者や、情報リテラシーには詳しいはずの海幕広報室勤務の現役幹部自衛官はわからないのだろうか?
疑問を感じた筆者は、同グループの書き込み内容のコピーを、ある海上自衛隊幹部に見せてみた。
「旧少年術科学校は下士官養成の場。
一連の事態を受け、防衛省倫理審査会は次のような正式コメントを出している。
「(略)無用な誤解を招きかねない情報を個人の判断でインターネット上に掲載することは、必ずしも適切とは言えず(略)」
国家にとって重要な防衛機密の保護のためにも、自衛官のITリテラシー向上が急がれる。
(文=陳桂華/ITライター)