11月8日、フジ・メディア・ホールディングス(以下、FMHD)の2013年度第2四半期決算発表会が行われた。

 広告収入減にあえぐフジテレビが減収減益という厳しい結果となる中で、それを取り繕うかのようにディノスなどの通販事業やサンケイビルなどの都市開発事業の好調が伝えられると、話題はFMHDがグループの総力を挙げて取り組むプロジェクト「東京台場地区 MICE/IR特区構想」に及んだ。

「MICE」とはMeeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、ConventionまたはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字で、「IR」とは高級ホテルのほか、ショッピングモールやシアター、テーマパーク、そしてカジノなどが含まれた統合型リゾート(Integrated Resort)を指す。つまり、この構想はいわゆる「お台場カジノ構想」なのである。FMHDの資料によると、建設予定地はダイバーシティ東京の南側に広がっているシンボルプロムナード公園の一帯から、その西側にある船の科学館まで含む地域。

 9月、フジは政府の産業競争力会議国家戦略特区ワーキンググループに、「東京臨海副都心(台場エリア)における国際観光拠点の整備~エンターテイメント・リゾート戦略特区~」なる提案を三井不動産、鹿島建設、日本財団とともに提出している。三井、鹿島とは昨年オープンしたダイバーシティ東京で組んでいるし、日本財団は船の科学館の運営元。この4社が組み、お台場に一大IRを建設しようというのだ。

 ただ、ひとつ疑問な点は、この巨大プロジェクトを官邸に提案する際、なぜかフジが「代表者」となっているのだ。その背景には「カジノに対して並々ならぬ情熱を注ぎ込む、ある人物が関係している」と同社関係者は言う。

「日枝久会長です。お台場カジノは、日枝さん肝いりのプロジェクト。安倍晋三首相ともパイプがあるということで、カジノ法案提出を自ら働きかけるなど、“トップ営業”に余念がありません」

 たしかに、官邸が「国家戦略特区」の提案募集をしている最中、日枝会長は静養中の安倍首相とゴルフやバーベキューを行うなど、かなり頻繁に会合を繰り返しており、提出後の10月にもわざわざ官邸を訪れている。

●一大構想の内実

「お台場カジノ」実現へ邁進するフジだが、同社はどのようなIRを考えているのか。

詳細は明らかにされていないものの、以下のような情報が伝えられている。

 ・カジノを併設した巨大ホテル
 ・商業施設や国際展示場も整備
 ・劇場や映画館、日本の文化・伝統と先端科学技術を展示する常設館
 ・医療や美容、アンチエイジングなど健康関連サービス施設

 さらに、発電施設も備えた24時間型のスマートシティーで、水や食料も備蓄するなどして巨大地震や津波など自然災害が起きた際の避難場所とするのだという。何やらすごいものができるという予感は伝わってくるが、具体的な内容はいまだはっきりとしない。そこで、カジノ議連参加議員、フジテレビ関係者へ取材したところ、あくまで予想ではあるが、おぼろげながらもその全体像が見えてきた。

 まず、全体的にいえるのは、シンガポールのカジノがベースになるのではないかということだ。同国はカジノを解禁してから観光客が急増し、経済効果も出ている。

拒否反応も多いカジノを国民に納得させるため「成功モデル」を踏襲する、というのは十分考えられる。さらに言えば、シンガポールモデルの導入はフジテレビ連合にとっても都合がいい。

「シンガポールの『リゾート・ワールド・セントーサ』は鹿島の海外法人、カジマ・オーバーシーズ・アジアが手がけている。そういう意味では、他のゼネコンよりも実績がある」(カジノ議連関係者)

 実はカジノにおいても、もうひとつ欠かせないプレイヤーがいる。カジノを運営するIRオペレーターだ。日本企業にはこのノウハウがないので、実績のある外資系IRオペレーターと手を組まなければいけない。

 フジからすると、「ワールド・セントーサ」を手がけるIRオペレーター、ゲンティンと“鹿島ルート”で手を結ぶことは当然、視野に入れているはずだ。
 
 事実、すでにフジはゲンティンと、かなり接近している。この夏に公開されたフジほかが製作の映画『謎解きはディナーのあとで』(配給:東宝)。小説と異なるフジの“オリジナルストーリー”ということで、舞台はシンガポールへ向かう豪華客船とされたが、実はその客船を運航しているスタークルーズはゲンティン傘下である。

 一大カジノ実現に向け、水面下で着々と動き出している。
(文=一条しげる)