
電子書籍取次国内最大手のメディアドゥ<3678>は、事業領域の拡大を狙いにM&Aを積極化する。
同社では電子書籍流通業界は、コロナ禍による巣ごもり需要で急拡大を遂げてきたが、今後は成長率が鈍化し、生き残りをかけた方針転換が迫られるとの認識を持つ。
このため今後5年間(2026年2月期~2030年2月期)にM&Aなどに110億円以上を投じ、新たな事業の創出に力を入れることにした。
ROIC15%以上が可能な企業を対象に
同社によると、電子書籍市場は2016年から2023年までは年平均10%を超える成長を実現してきたが、2024年度以降は成長率が4~5 %に鈍化する見込みで、購買促進のための販売施策の強化や、オリジナル作品の獲得、メディアミックス(一つのコンテンツをアニメや映画、ゲーム、グッズなど複数の異なるメディアで展開する取り組み)を念頭においた連携、書籍や雑誌などの「文字もの」などマンガ以外のコンテンツ獲得が必要という。
こうした課題の解決に一つの手段としてM&Aを活用するもので、対象として電子書籍取次のポジションの強化や、海外販路の拡充、輸出支援、AI(人工知能)などの先端テクノロジーの導入などにつながる領域で、投資後3年でROIC(投下資本利益率=税引き後営業利益を投下資本で割った値で、企業の稼ぐ力を表す)15%以上が可能な企業や事業に的を絞る。
同社はこれまでもM&Aには積極的で、2017年に当時電子書籍取次の最大手だった出版デジタル機構を子会社化した。
出版デジタル機構は、3年で経営、組織、事業の統合を完了し、2016年度の両社売上高合計342億円から2025年2期に電子書籍流通事業の売上高が938億円となり、8年で2.7倍に成長。
2016年に子会社化した書籍の要約サービスを手がけるフライヤーは、2025年2月に東証グロース市場に上場しており、公開時時価は買収時の4億円から3.4倍に拡大した。
メディアドゥでは、今後実施するM&Aでも、こうしたPMI(M&A後の統合作業)のノウハウを活用して、事業領域の拡大につなげる計画だ。

電子書籍コンテンツはマンガを中心に260万
メディアドゥは、2200社に上る出版社との取引が強みで、取り扱い電子書籍コンテンツはマンガを中心に260万に達する。
「日本のコンテンツを世界中に届けていくことがメディアドゥの使命」としており、今後は売り上げの90%以上を占めるマンガ以外のコンテンツとして、文字ものの電子化を加速し、取り扱いコンテンツ数を増やすとともに、海外に展開する日本文化の裾野を広げる。
同社はM&Aをはじめ海外展開などによる非連続な成長の実現を目指す方針だが、経営計画の数値目標にはM&Aなどは含んでおらず、オーガニック成長(内部の経営資源を活用した成長)で、2030年2月期に売上高1250億円(2025年2月期比22.6%増)、営業利益40億円(同61.9%増)を目指すとしている。
続くコンテンツ業界のM&A
コンテンツ業界ではグローバル化と、一つのコンテンツ(IP=知的財産)を複数の異なるメディアで展開するメディアミックス化に伴って、市場の拡大が見込まれている。
こうした状況の中、提携やM&Aなどが進んでおり、2025年1月にコンテンツを軸に事業展開しているKADOKAWA<9468>と、家庭用ゲーム機「PlayStation(プレイステーション)」などを手がけるソニーグループ<6758>が資本業務提携し、ソニーグループがKADOKAWAの約10%の株式を保有する筆頭株主となった。
今後、KADOKAWAのIPの映画化やドラマ化、アニメ作品の共同制作、KADOKAWAのアニメ作品のソニーグループによるグローバル流通の拡大などに取り組むという。
またKADOKAWAは2025年5月に、イタリアのマンガやライトノベル(若年層向けの娯楽小説)を刊行する出版社エディツィオーニ(ミラノ)の子会社化を決めた。
コンテンツを安定的に創出し、世界に広く展開することを目的とする「グローバル・メディアミックス with Technology」の取り組みの一環で、今後も海外展開やアニメ制作スタジオの強化、ゲームの開発パイプラインの拡大などを中心に、M&Aが見込まれている。
コンテンツ業界のM&Aは今後も続きそうだ。
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文:M&A Online記者 松本亮一
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