1950年代の高度経済成長期に産声を上げた日本のマンションは、歳月とともに老朽化が進んでいます。そんな中、近年よく聞くようになった議論が「マンションの建て替え」です。

政府は区分所有法などマンション関連法の改正を閣議決定し、2026年4月に施行の予定。来春以降、今以上にマンション建て替え、改修をしやすい環境が整う見込みです。あなたの住んでいる、購入を検討しているマンションで建て替え論議が起きたらどうすればいいのでしょうか。

築40年以上の「高経年マンション」に顕在化するリスクとは

超高齢化社会に突入している日本には、もうひとつの深刻な「老い」の問題があります。それが「高経年マンション」です。国土交通省によると「高経年」の目安は築40年以上とされており、2024年末時点で、国内に約148万戸存在しています。

この数値は、今後さらに上昇していく見込みです。2034年末には約2倍の293.2万戸、2044年末には約3.3倍となる482.9万戸に増加すると予測されています。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

「築40年以上の分譲マンション数の推移」より(旭化成ホームズ マンション建替え研究所より)

マンションが年を重ねていく――すなわち老朽化していくことで、一般的には次のような躯体のトラブルが発生します。国土交通省の調査「マンションを取り巻く現状と課題」(2022年10月)によると、築40年以上の高経年マンションに多いワースト3は以下のとおりでした。

1)漏水や雨漏り 40%
2)給排水管の老朽化による漏水 35%
3)外壁などの剥落 18%

1)と2)は住人の日常生活の質を大きく損ねますし、3)は剥落したコンクリートなどが通行人や車、周囲の建物など、住人以外の第三者に危害を加えてしまう恐れもあります。いずれにせよ極めて深刻な問題です。

こうしたリスクを伴う高経年マンションに、やがて湧き上がってくる議論が「建て替え」です。

莫大な解体・建築費やその財源、建て替え中の仮住まい探しと費用、建て替え後に希望の住戸を選べるか、建て替え後に必ず住まなければならないのか、建て替え期間は、あるいはそもそも建て替えが本当にできるのか……さまざまな疑問が生じます。

そこで取材に伺ったのが、マンションの建て替えに関する情報収集、分析、管理組合や区分所有者へのサポートを行う専門機関、旭化成ホームズ株式会社のマンション建替え研究所です。重水丈人(しげみず・たけひと)所長、花房奈々(はなふさ・なな)副所長にお話を伺いました。

耐震性が問題視される「旧耐震マンション」は建て替え対象になることも

「マンションの建て替えは、以前より社会課題になっていました。それに対応するため、2014年に『マンション建替円滑化法』が改正され、行政の認可によって容積率が緩和される『容積率の特例』が導入されました。容積率が緩和されれば、建て替えによって再建できるマンションの床面積が建て替え前に比べて大きくなるため、区分所有者の中に『床面積が増えれば工事費の増加を差し引いても評価額は上がり、さほど大きな経済的負担をせずに新築マンションに住めるのでは?』といった認識が広まりました」(花房副所長)

築年数が古く、老朽化しているマンションで建て替えの議論が起きるのはイメージできますが、ほかにも建て替えの対象となるマンションはあるのでしょうか。

「挙げられるのが耐震性に難のあるマンションです。建築基準法に基づく現行の耐震基準は『新耐震基準』と言い、1981年6月1日に施行されました。一方、1981年5月31日以前に建築確認を受けてつくられた『旧耐震マンション』は耐震性が問題視される場合があることから、建て替えの検討対象になるケースが見られます」(重水所長)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

取材に応じていただいた旭化成ホームズ株式会社マンション建替え研究所の重水丈人所長(左)と、花房奈々副所長(右)(写真撮影/SUUMO編集部)

旧耐震基準は、震度5強程度の地震で倒壊しないことを目標としていましたが、新耐震基準は震度6強から7程度の地震でも倒壊しないことを目標としています。もちろん、旧耐震マンションすべてが建て替え対象になるわけではなく、耐震診断を受けて耐震性を確認し、問題ないと判断されるマンションもあります。

「マンション建て替えに参画するデベロッパーの目線から、建て替えが実現しやすいマンションの条件を簡単に言うと、『容積率や高さ制限などの条件の下で、より大きな建物に再建ができて、その結果、増えた住戸を第三者に販売し、事業費を賄えるかどうか』です。用途地域によって容積率、高さ制限には制限がありますし、従前マンションを建てた時点で容積率を上限まで使っていて、建物の規模拡大ができないマンションもあって、建て替えの議論が進められるかどうかはケースバイケースです。

ただ、土地価格が高い都市部や駅近の利便性の高い立地では販売価格を高く設定しやすいため、さほど建物規模拡大ができなかったとしても区分所有者の皆様は事業費を確保でき、建て替えを進められるケースもあります」(花房副所長)

実際に建て替えられたマンションは年平均10棟程度。
進まない理由とは

ところで、言うまでもないことですが、マンションの建て替えはそう簡単に実現するものではありません。事実、国土交通省によると、(2025年3月31日時点で建て替えが実施されたマンションの累計は全国で323件。2003年~2024年までの22年間の年平均では10棟程度にとどまっています。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

国土交通省「マンションに関する統計・データ等」(2025年3月31日)「マンション建替え等の実施状況」より(グラフ作成/SUUMO編集部)

建て替えが進まないのは、どのような理由があるのでしょうか。

「さまざまな理由が複合的に関係しています。区分所有者の高齢化や賃貸化・空き住戸化が進んで、建て替え議論を進める中心的存在となる管理組合の理事の担い手が不足し、ひいては管理組合の運営や議決が困難になる、などのケースがよく見られます」(重水所長)

マンション建替え研究所の調べによると、旭化成ホームズが手掛けた建て替え事例の累計48件の調査(2024年8月公開)において、建て替えの発意から決議までの平均期間は6.3年。この数値を当てはめて考えた場合、築40年の時点で検討を始めても、解体工事に着手できるのは築46年以降となります。

さらに建て替えが決議された後も、実施すべき事項は山積みです。マンション建替組合の設立や、区分所有者の権利関係の調整(再建マンションの所有権の持ち分決定、住宅ローンの抵当権引き継ぎ等)、再建するマンションの間取り、従前の区分所有者が再取得する住戸、資金計画などの確定、居住区分所有者の仮住まい手配……等々さまざまです。

ちなみに、旭化成ホームズのマンション建て替え事例の場合、建て替え決議から解体工事に着手するまでの期間は、1年以上2年未満が最も多く26棟で、約54%を占めています。

「解体から竣工までの工事期間は、マンションの規模などで前後します。私たちの建て替え事例で言いますと、建て替えの議論がスタートしてから、再建マンションが竣工するまでには10~12年を要しています」(花房副所長)

なお、従前、建て替え決議には、区分所有者と議決権の各5分の4以上の賛成が必要でした。

しかし2026年4月1日に施行される改正区分所有法で、次の条件が認められる場合に限り、4分の3の賛成で議決できるようになります。

条件としては、「耐震性の不足」「火災に対する安全性の不足」「外壁などの剥落による危険性」「給排水管などの腐食」「バリアフリー基準に適合していない」などです。高経年マンションの増加で、これらの条件に該当するマンションも増えることが予想されるため、今後、マンション建て替えがしやすい環境が整っていくことになりそうです。

建て替えマンション再取得でお金は必要?工事中の住まいは?よくある疑問をQ&Aで解説

引き続き、建て替えにまつわる疑問をお2人にお聞きしました。

Q.建て替えにあたって、再取得希望者が新たにお金を出さなければならないでしょうか?

A.「再建マンションの住戸を再取得する場合、費用負担が発生するケースがほとんどです。私たちが手掛けた2014年~24年の建て替え等決議事例の調査結果では、平均額は約1340万円でした」(花房副所長)

Q.再取得は必ずしなければならないでしょうか?

A.「再取得はもちろん必須ではありません。再建マンションの権利を取得せず『転出』する場合、現在のマンションの権利を失うことに対して補償金が支払われるケースが一般的です。この補償金は、建て替え前のマンションの各区分所有者の権利を評価した額に基づいて決められます。

昨今の地価や建築資材の高騰で再取得時の費用負担が増え、再取得率は徐々に下がる傾向が見られます。我々が調査分析した、建て替え決議の時期別に分類した再取得率は、2001~10年に決議を行ったマンションが平均71.9%、11~17年が60.0%、18年以降が54.8%でした」(重水所長)

Q.再取得をする区分所有者は、工事中の仮住まいはどうすればいいでしょうか?

「仮住まいへ引越しする費用等については、自己負担としている事例が一般的です。補償基準等を作成して、費用の一部を補償している建替組合もありますが、このケースはまれで、手続きが法制化されていないため、一般に普及させにくいのが実態です。
また、お年を召した方の場合、賃貸マンション、アパート等の契約が困難になる事例も聞きますが、デベロッパーなどの参画事業者によるサポート(賃貸事業者の斡旋などやり方はさまざま)などで、契約できるケースは少なくありません」(花房副所長)

Q.建て替え以外の選択肢はあるでしょうか?

A.「はい、主に3つあります。

1)修繕……現状の性能を回復または維持して、マンションを長寿命化します。

給排水管の更新、外壁の再塗装、防水工事、エレベーター更新などが主な項目です。実施する内容によって、4分の3以上の区分所有者の賛成が必要ですが、2026年4月1日以降の区分所有法改正施行後は、「集会に出席した区分所有者の4分の3以上の賛成」をもって、決議できるようになります。

2)改修……現状マンションより性能を向上させ、長寿命化させます。例えば、バリアフリー化、セキュリティ向上のためのオートロック導入、躯体にブレースを追加して耐震改修を図るケースなどがあります。改修はその大半のケースが共用部の変更を伴うので、実施するには4分の3以上の区分所有者の賛成が必要です。しかし、2026年4月1日以降の区分所有法改正施行後は、「集会に出席した区分所有者の4分の3以上の賛成」をもって、決議できるようになります。また、耐震改修促進法の適用があれば、過半数で決議できる場合もあります。

なお、1)2)において工事の場所や難易度などによって、一部住人が仮住まいを余儀なくされることも考えられます。その際の仮住まい費用、手間などは管理組合がサポートするケースが一般的です。

3)マンション敷地売却……マンションと敷地を一括で売却して、区分所有者に分配金を配分します。マンション敷地売却制度を活用すると、区分所有建物以外の商業ビルやオフィスビルなどへの建て替えも可能になることで、区分所有権の評価が高くなる場合があります。

ただし、この制度を利用するには従前のマンションが、a)耐震性能不足 b)外壁の剥落などによってマンション周辺に危害を及ぼす可能性がある c)火災安全性能不足 のいずれかに該当するとして行政に認定された『特定要除却認定マンション』でなければなりません。

マンション敷地売却を実施するには、5分の4以上の区分所有者の賛成が必要ですが、2026年4月1日以降の区分所有法改正施行後は、先述したマンションの条件は問わず、5分の4以上の区分所有者の賛成で売却が可能になります。さらに、耐震性に問題があると認定された場合などは、賛成者の割合が4分の3で決議ができるようになります」(重水所長)

【建て替え事例-1】東日本大震災を契機に区分所有者の強い機運を原動力に建て替えした大規模マンション。高さ制限・容積率緩和も成功の要因に

さて、ここからは取材に協力いただいた旭化成ホームズが携わった、建て替えマンション事例を2つご紹介します。

■アトラスシティ千歳烏山グランスイート
まずは、東京都世田谷区の築50年超の大規模団地建て替えで再生した「アトラスシティ千歳烏山グランスイート」のケースです。2025年7月に竣工し、7月23日にメディア向けの内覧会が行われました。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

アトラスシティ千歳烏山グランスイートの鳥瞰図。右が「杜ノ棟」、左が「風の棟」。2棟とも地上4階地下1階建て(写真提供/旭化成ホームズ)

従前の建物は1971年に東京都住宅供給公社が分譲した2棟7階建て171戸の団地「給田(きゅうでん)北住宅」でした。2011年の東日本大震災で建物に多数のひび割れなどの被害が発生し、翌年の耐震診断で耐震性不足が判明したことが、建て替え検討の大きな契機となりました。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

建て替え前の給田北住宅(現アトラスシティ千歳烏山グランスイート)1号棟(写真提供/旭化成ホームズ)

建て替えが実現した大きな要因となったのが、高さ制限と容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)の緩和によって、総戸数が従前の171戸から248戸に増えたことです。デベロッパーが余剰の床を買い取ることで事業費を賄い、区分所有者の賛同を得られるくらい再取得時の費用負担が軽減するように検討が進められました。目算が成立。

2013年に再生検討が具体化し、その12年後の2025年7月に竣工しました。

まず、高さ制限の緩和について詳しくみていきましょう。1971年の分譲後、団地が建っている場所が都市計画の変更により「第一種低層住居専用地域」(高さ制限原則10m)に変わったことで、7階建て(約20m)だった給田北住宅は「既存不適格」(建築時は適法だったが、その後の法改正や都市計画の変更などで現在の建築基準法などの法規制に適合しなくなった状態を指す)となっていました。しかし再建計画に、周辺住民も利用でき、地元エリアの回遊がしやすくなる「杜ノ棟」敷地内の貫通通路設置などを含めることによって、高さ制限が10mから12mに緩和され、4階建ての設計が可能になりました。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

(HPより)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

アトラスシティ千歳烏山グランスイートの杜ノ棟の外周に設置された貫通道路。周辺に暮らす住民も利用でき、地域の回遊性を高める役割を担っている。植栽を豊富に配置してマンション住人のプライバシー確保に配慮している(写真撮影/片山貴博)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

杜ノ棟中央に設置された中庭。ここはマンション住人専用の共用施設(写真撮影/片山貴博)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

杜ノ棟屋上に設置された共用施設「コモンテラス」。第一種低層住居専用地域であるため、周囲に高い建物がなく、空が広い(写真撮影/片山貴博)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

杜の棟と風の棟は公道で隔てられている(写真撮影/片山貴博)

次に容積率緩和についてです。これは、マンション建替円滑化法「容積率の特例」の許可を適用したことで実現しました。具体的には杜ノ棟が従前103.37%だったのが137.27%に、風ノ棟が100.00%だったのが、140.18%にそれぞれアップし、住戸数を増やすことができたのです。ちなみにアトラスシティ千歳烏山グランスイートは、全国初(※)の団地における容積率緩和適用物件ということです。
※国土交通省ヒアリングによる

給田北住宅の一括建て替え決議が行われたのは、2021年5月。区分所有者167名(総戸数171戸)に対して、賛成151(約90%)で可決されました。これだけ多くの賛同が得られた背景には、前述どおり、東日本大震災で被害を受けたことから区分所有者が建物の再生へ強い機運を持っていたこと、相続未登記や空き家、賃貸物件が少なかったことがあったということです。

また、区分所有者への手厚い配慮も合意形成がスムーズに進んだ大きな要因です。給田北住宅の居住者の多くは分譲時に購入して約50年間住んでいる方々で、引越しや仮住まい探しに不慣れな高齢者でした。そこで専属の担当者制を導入し、個別相談や契約への同行サポートを行うことで不安解消に努めたのです。加えて、多くの区分所有者の建て替えに関する理解を深め、不安をなくすために「懇談会」「よろず会」と題した会合をたびたび開催。引越し、仮住まい選び、不要品の処分などに関する説明から心のケアに至るまで丁寧にサポートを行い、不安解消が図られました。こうした取り組みが奏功し、旧区分所有者の再取得率は約61%になったということです。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

(写真撮影/片山貴博)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

(写真撮影/片山貴博)

従前50平米台が中心だった住戸面積のバリエーションを大幅に広げ、39平米台~90平米台にしたことも合意形成を後押ししました。区分所有者が再建マンションを再取得するにあたって、経済的にどのくらいまで負担できるか、どのくらいの広さなら再取得しやすいかなどをヒアリング。コンパクトなものからゆとりのあるものまで多様な間取りを用意し、個別の要望を丁寧に聞きながら、パズルのように部屋を割り当てて住戸面積の調整が行われたということです。

アトラスシティ千歳烏山グランスイートは、解体から引渡しまでは約3年間の工事期間(解体工事着手2022年8月~本体工事着手2023年7月~竣工2025年7月)を費やしており、当時としては標準的な長さでした。しかし旭化成ホームズ担当者は、今後は、人手不足などによる工事の長期化で区分所有者の仮住まい期間が長引く可能性があること、建築費高騰でマンション価格も上昇することなどで、再取得率が低下する可能性があると話しています。工事期間をできるだけ長引かせないことは、今後のマンション建て替えの重要な課題となりそうです。

また、大規模ではなく小規模マンションの場合は、建て替えでデベロッパー等に増床した住戸を売却して事業費を賄うビジネスモデルを構築することが難しいため、マンションと敷地を一括で売却して、区分所有者に分配金を配分する「マンション敷地売却」など、別の形の再生を検討する必要がある、とも説明していました。

建て替え、あるいは修繕・改修、もしくは敷地売却――高経年マンションの住戸数、規模によって、取られる再生手法は変わることになりそうです。

【建て替え事例-2】「日本初の民間分譲マンション」への愛着から再取得率は約9割に。旧区分所有者のニーズを反映した“オーダーメイド住戸”へ再生

■アトラス四谷本塩町(よつやほんしおちょう)
2番目に紹介するのは、東京都新宿区四谷本塩町に建っていた「四谷コーポラス」の建て替えで2019年7月に再生した「アトラス四谷本塩町」です。

1956年竣工の四谷コーポラスは、日本初の民間分譲マンションとされ、日本の集合住宅史にその名を残すヴィンテージ・マンションでした。区分所有者には竣工以来長く住み続けている(所有している)人が多く、良好なコミュニティ、活発な管理組合活動の下、建て替え・大規模修繕等の検討会が2006年にスタート。その後、東日本大震災をきっかけとした耐震性への不安、給排水管の老朽化、エレベーターがなくメゾネットタイプで住戸内に階段のある間取りが高齢の区分所有者に適さなくなった、などの課題が顕在化。建て替えを中心とした議論に移行し、2017年3月に建て替え決議が成立しました。

本物件は、四ツ谷駅徒歩5分という利便性の良さに加え、四谷コーポラス竣工時から愛着を持って暮らす住人が多いことを背景に、従前の全28戸中の8割強、23戸が再取得される前提で建て替え計画が立案されたことが特徴です。旧区分所有者の意思がまとまっていたため合意形成活動はスムーズで、旭化成ホームズの参画からわずか4カ月での建て替え決議、決議から5カ月で解体工事着工となりました。

再取得する旧区分所有者への丁寧な伴走も、本物件の建て替え成功の要因でした。ヒアリングを重ね、個々の要望に合わせたオーダーメイドの間取りプランニングを行った結果、再建マンション全51戸に対して33パターンというバラエティ豊かな間取りが実現。また、従前建物の象徴だったブルーの玄関ドアや外壁素材のアイアン、個室内のコンセントを共用ラウンジのデザインアクセントとして再利用するなど、四谷コーポラスの歴史を遺す仕掛けも話題となりました。さらに、2018年には従前建物での暮らしから、建て替え~再生に至る歴史をまとめた『四谷コーポラス 日本初の民間分譲マンション 1956-2017』(鹿島出版会)も出版されています。

竣工後には、新旧住人による顔合わせ会「アトラス四谷本塩町竣工パーティー」を実施。再建から6年を経た今、着実に新たなコミュニティが醸成されています。

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

再建されたアトラス四谷本塩町のエントランス(写真提供/旭化成ホームズ)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

外堀通りから入った第一種住居地域に立地している(写真提供/旭化成ホームズ)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

四谷コーポラスを象徴する意匠のひとつ、ブルーの玄関ドア(写真提供/旭化成ホームズ)

マンション建て替え、再取得は自己負担額が平均1300万円!? 2026年4月から法令激変、築古マンション所有者が知るべき新常識を専門家が徹底解説

住人のサードプレイスとなる共用ラウンジには、四谷コーポラスのブルーの玄関ドア、外壁のアイアンなどがアクセントとして採用されている(写真提供/旭化成ホームズ)

そのマンションが「終活」を視野に入れているか?を確認

昨今、東京をはじめとする首都圏などでの新築マンション価格高騰から、比較的リーズナブルな中古マンションを購入し、自分らしくリノベーションした住まいに暮らすライフスタイルが人気を集めています。リノベーション自体は良いのですが、築古マンションを購入する際は、近い将来、建て替えを議論する可能性があるかを知っておくことが必要です。

「中古マンションを購入する際、仲介する不動産会社から、建て替えの議論があることを明確に伝えられない場合もあります。これは極端な例えですが、入居後すぐに建て替えが決議されれば、多額のリノベーション費用がペイできない……といった事態も考えられます。築年数の経過したマンションを購入する方は、管理組合、あるいは管理会社に問い合わせて長期修繕計画のスケジュールや、建て替えについての議論の有無、修繕、改修等の計画などを確認しておくことを強くおすすめします。

また、前述しましたが、中古マンションを購入する場合、ひとつの目安にしていただきたいのが『新耐震基準』を満たしているか、つまり、1981年6月1日以降に建築確認を受けて建てられたマンションであるか、という点です。少なくとも新耐震基準であれば、耐震性は担保されているといえるため、すぐに建て替え議論が起こることは考えにくいと思います」(花房副所長)

前述したとおり、2026年4月の法改正施行も伴って、今後の日本では高経年マンションの増加に比例して建て替え議論も増えていきそうです。仮に現在、築20~30年程度のマンションであっても、建て替えは決して他人事ではありません。

購入を検討しているマンションの管理組合が「マンションの終活」を視野に入れつつ、建て替えを想定した大規模修繕計画、あるいは、長寿命化を図るための修繕や改修を見込んでいるか。その点も忘れずにチェックしておくべきではないでしょうか。

●取材協力
旭化成ホームズ(株)マンション建替え研究所

編集部おすすめ