10万枚以上のセールスを上げた『交響曲第一番HIROSHIMA』『鎮魂のソナタ』などの代表曲を持ち、「全聾作曲家」として知られる人気作曲家・佐村河内守氏をめぐり、2月6日、桐朋学園大学非常勤講師の新垣隆氏が、18年間にわたり佐村河内氏のゴーストライターをしてきたと告白し波紋を呼んでる。

 6日の会見で新垣氏は、全聾と自称する佐村河内氏と普段は通常の会話でやりとりしていたとも語ったが、12日には佐村河内氏の代理人が「受任当初からの経緯」という文書をマスコミ各社にFAXで送付。

佐村河内氏が新垣氏に楽曲の依頼を行っていたことや、佐村河内氏が耳が聴こえないというのは誤りであったことなどを認める事態となっている。

 今回の一連の騒動を通じて、音楽業界では別人作曲がほかにも行われているのではないかと疑う見方も広まっているが、実は業界では以前から別人作曲同様に「盗作」「パクリ」疑惑というのは数多く囁かれている。例として、以下に大きな話題となった盗作疑惑を挙げてみたい。

●事例1:徳永英明盗作騒動

 河口恭吾の『桜』のサビ部分が、徳永英明の『僕のそばに』のサビ部分と酷似していると話題に。この件についてテレビ番組内で明石家さんまに話題を振られた徳永は「僕が盗作したわけじゃないですよ。ちゃんと言っとかんと」と述べるにとどめた。

●事例2:槇原敬之盗作騒動

 漫画家の松本零士氏が自作『銀河鉄道999』(小学館刊)のフレーズを盗作されたとして、歌手の槇原敬之に抗議し裁判に。松本氏が「盗作」と主張しているのは、槇原が作詞作曲しCHEMISTRYに提供した『約束の場所』の「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」というサビの部分。これが『銀河鉄道999』(第21巻)に登場する「時間は夢を裏切らない 夢も時間を裏切ってはならない」というフレーズに「そっくりだ」と主張。それに対し槇原氏は、「『銀河鉄道999』は個人的趣味で読んだことがなく、歌詞はまったくのオリジナル」と主張。逆にCMから曲が降ろされた件で逆告訴。泥沼かに見えたがその後、和解に。

●事例3:『記念樹』事件

 1992年に発表され、テレビ番組のエンディング・テーマとして放送されていた『記念樹』(作曲・服部克久)が、66年にCMソングとして発表された『どこまでも行こう』の盗作であるとして、同曲作曲者の小林亜星と著作権者である音楽出版社が、服部氏に対して損害賠償を請求する訴訟を提起した事件。最終判決として『記念樹』の作曲が著作権法違反にあたるとされた。
 
 日本の音楽におけるこうした盗作疑惑は、なぜ生まれやすいのだろうか。

 その理由についてタレントのマキタスポーツは、著書『すべてのJ-POPはパクリである』(扶桑社)の中で、日本のポップスのヒット曲で使われているコード進行には“カノン進行”をべースにしたものが多いことを挙げている。

 また、1990年代頃よりはやりだした「リミックス」という手法も、原曲のごく一部を切り取るものであり、盗作を助長していると捉える人もいる。

 では、実際に「盗作か否か」の法的判断基準はどうなっているのだろうか。弁護士は「漠然としてしまいますが、一般人が客観的に見て同一性があると判断できるか否かでしょう」と、現状では法的にはっきりとした判断基準がないと語る。

●難しい線引き

 音楽業界における盗作疑惑について、世間一般の人々はどのように感じているのであろうか。

「盗作は自分の音楽にプライドがない人がすることだと思う」(20代女性)

「制作する手間を省略するために、他人の作品を借用、盗用したりする行為は許せない」(40代男性)

「パクリ疑惑はたくさんネット上で書かれている。日本からなくなることはないのでは」(30代女性)

「確かに、似てるなぁという曲はたくさんある」(10代男性)

「パクリが親告罪である以上、なかなか減らないのでは」(50代男性)

 世界には無数の楽曲やメロディー・パターンがあるが、音楽業界関係者は「人はある特定のパターンに強く引き寄せられる傾向がある」と言い、米国の映画監督カービー・ファーガソン氏も「世の中には似た作品があふれ返っている。数学的にパターンは無数にあるのに、人間が好むパターンはほんのひと握り」と語っている。また、かつて世界的人気バンドだったビートルズのジョン・レノンは「他の音楽に影響を受けていない音楽なんて存在しない」と断言している。

 こうした背景を踏まえると、何をもって盗作とするのか、その線引きはとても困難な作業といえるのかもしれない。
(文=成田男/フリーライター)

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