ゼンショーホールディングスが運営する牛丼チェーン「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)は、調査報告書でビジネスモデルの抜本的改革を迫った。深夜の1人勤務体制の早期解消や経営陣の意識改革を強く求めたのである。
報告書によれば、ゼンショーは2012年度以降、時間外労働などで64通にも上る是正勧告書を労働基準監督署から受け取っているという。さらに恒常的に月500時間以上働いていた社員、2週間帰宅できなかった社員がいたことなども明らかになった。第三者委は「すき家の運営は法令違反であることはもとより社員の生命、身体、精神に危険を及ぼす重大な状況に陥っていた」と認定。「過剰労働問題等に対する“麻痺”が社内で蔓延し、『業界・社内の常識』が『社会の非常識』であることについての認識が全く欠如していた」と経営陣の認識不足を厳しく指摘した。
全国に約2000店あるすき家は、店員1人が接客から調理、後片づけ、会計などすべての仕事をこなす「ワンオペ」と呼ばれる深夜勤務体制を取っている。「ワンオペ」への不満がくすぶるなかで、2月にはライバルの吉野家が大ヒットを飛ばした鍋メニューに倣い「牛すき鍋定食」を導入した。牛丼をサービスするより数段に手間がかかるため、アルバイト店員が次々と辞めていった。
そのため、ゼンショーの労働環境に対する批判が強まり、アルバイト店員を補充できなくなり、今年4月には最大で123店舗が店を開けられない状態となり、同社の小川賢太郎会長兼社長は4月28日、第三者委員会を設置し、改善策の提示を求めた。これを受けゼンショーは8月6日、9月末までにワンオペを解消することを決定した。
ゼンショーHDは11年3月期の連結売上高が3707億円となり、ハンバーガーチェーン最大手、日本マクドナルドホールディングスの直営店の売り上げを抜き、外食チェーン業界で初めて売り上げトップに立った。その際に小川氏は、「俺が言った通りだ。コメのほうが強いんだよ。
規格を統一し、仕事の細部までマニュアル化することで、マクドナルドは世界のどこの店でも短時間で同じハンバーガーを提供できる仕組みを完成させた。この「マクドナルド化」を完璧に、極限まで追求したのがゼンショーだったのだ。
小川氏は1948年7月29日、石川県に生まれた団塊の世代である。自衛官の父と一緒に国内を転々とした小川氏が猛勉強して東京大学に入学したのは68年。全共闘(全学共闘会議)による東大紛争が始まった年である。小川氏は東大全共闘の活動家になった。全共闘が占拠する東大安田講堂の封鎖を機動隊が解除したのは、翌69年1月のこと。安田講堂の攻防戦に敗れて挫折した小川氏は東大を3年で中退し、横浜港の港湾荷役の仕事に就いた。何十トンもある機械を船に積み込む作業で、常に危険がつきまとった。大けがして入院することもあったが、仲間に認められ、3年目に労働組合の役員になった。
転機は75年に訪れた。
だが、新橋商事は不動産賃貸業が経営の柱だったため、小川は「世界から飢えと貧困をなくすためには、自分が先頭に立ってやるしかない」と決意し、2人の部下を引き連れて82年に資本金500万円で会社を設立。「全戦全勝する」との覚悟を込めて、社名をゼンショーとした。ここから、ゼンショーの一大外食チェーンへの歴史が始まった。
(文=編集部)