・ロシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコ(13年4月)
・ミャンマー(同5月)
・バーレーン、クウェート、カタール(同8月)
・トルコ(同10月)
・コートジボワール、モザンビーク、エチオピア(14年1月)
・インド(同1月)
・ニュージーランド、オーストラリア、パプアニューギニア(同7月)
・メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジル(同7月)
これらの外遊には経団連会長をはじめ日本の名だたる企業団体が延べ445社、企業関係者ら計1455人が参加・同行した。
この経済ミッションには大手総合商社の丸紅が、トルコ及びインド訪問以外すべてのミッションに参加しているが、実は同社は今年3月、インドネシアの発電所事業をめぐり賄賂を贈った罪で約91億円(8800万ドル)の罰金を米国司法省に支払っている。丸紅のインドネシアにおけるこの贈賄事件は、ODA円借款「タラハン火力発電計画」をめぐるもので、丸紅はこの発電所の設備を受注するため同国高官に賄賂を渡したとされ、共謀の罪1件、外国高官への贈賄7件に問われていた。
この贈賄事件を摘発したのは米国司法省であった。米国政府は、1976年に日本で発覚したロッキード事件をきっかけに、米国企業による海外における贈収賄事件を防止する目的で、77年に米海外腐敗行為防止法(FCPA)を制定した。同法の適用対象は広く、米国企業はもちろん、日本企業でも米ドルで賄賂や賄賂資金を送金すれば適用対象となる。
丸紅は今年3月19日、贈賄事件の有罪を認め、巨額罰金の支払いに合意したのである。外務省もこれを受けて、3月26日に丸紅をODA事業から9カ月間排除する措置を発表した。
もちろん日本政府は12年の丸紅のナイジェリアでの贈賄事件について十分承知していたが、13年4月からスタートした安倍首相の外遊に丸紅関係者を同行させたのである。さらに、今年3月のインドネシアでの贈賄事件をめぐり外務省が前述の措置を発表した後も、7月の大洋州、中南米訪問に丸紅関係者を同行させたのである。●問われる首相の企業倫理感
この海外訪問において、政府は以下のとおり各国と主にインフラ整備関連でODAや円借款、無償資金協力などの約束を交わしている。
・サウジアラビア:省エネ、再生可能エネルギー及び原子力における二国間協力
・アラブ首長国連邦:水、医療、鉄道等のインフラ投資分野における協力
・ミャンマー:インフラ整備のため円借款(510億円)、無償資金・技術協力(400億円)
・クウェート:インフラ開発として独立造水発電事業、下水処理、製油所、メトロ、太陽熱複合発電などの協力
・ジプチ:地熱開発事業化の支援
・カタール:インフラ開発としてスタジアム、メトロ、下水処理等の協力
・トルコ:原子力エネルギー及び科学技術分野における協力
・モザンビーク:ナカラ回廊開発を中心に700億円のODA支援
・エチオピア:アルトランガノの地熱開発を円借款再開第一号候補案件とすることを約束
・インド:円借款の事前通報としてデリー高速輸送システム建設計画(1488億円)
・メキシコ:技術協力プロジェクト「低侵襲医療技術研修センタープロジェクト」
さらにコートジボワールでは、拡大首脳会議で安倍首相が日本の企業代表者一人ひとりを各国首脳に紹介し、モザンビークでは大統領昼食会に同行企業関係者も同席。中南米歴訪では、首脳会談途中から同行企業首脳陣を同席させ、相手国首脳に直接要望を伝えさせている。
外務省からODA排除措置を受けている丸紅をODA案件満載の外遊に参加させ、さらにその企業を各国首脳に紹介するということは、あっていいことなのだろうか。諸外国から見れば、安倍首相が贈賄企業を同行させて各国首脳に紹介する格好となり、首相としての企業倫理観を疑われかねないといえよう。
(文=小倉正行)