やれ電気自動車(EV)だ、いや燃料電池車(FCV)だ、ネットワーク化だ、自動運転だと、実用車の世界は次世代モビリティ技術の話題で持ちきり。一方で、趣味のクルマの世界はというと、そんな新テクノロジーをあざ笑うかのように、時代に逆行し始めている。
8月半ば、世界のクラシックカーシーンに衝撃が走った。1962年式のフェラーリが、オークション史上最高額となる3800万ドル(約40億円)で落札されたからだ。このフェラーリは「250GTO」と呼ばれ、全世界のフェラリスタ(フェラーリ好き)が最も憧れるモデルのひとつ。
いわば、フェラーリのなかのフェラーリ。高価なクルマの代名詞であるフェラーリの、そのまた頂点に立つモデル、というわけだが、それにしてもクルマ1台に40億円を出すという話は、一般的に考えて狂気の沙汰だろう。地価上昇の激しい東京都心であっても、立派なオフィスビルが買えるほどの値段なのだ。
昨今の有名な海外クラシックカーオークションにおいて、ヴィンテージフェラーリが10億円以上で落札されることは、決して珍しいことではない。もちろん、そのほかにも「ブガッティ」や「ベントレー」「アストンマーティン」といったブランドのクラシックモデルが数億円以上で取引されている。
高級ブランドだけじゃない。クラシックカー相場高騰の波は、お馴染みの日本車にも確実に及んでいる。この夏、米国のモンテレー半島で開催されたいくつかのカーオークションでは、トヨタ自動車「2000GT」が1億円以上、マツダ「コスモスポーツ」や日産自動車「スカイラインGT-R(ハコスカ)」が2500万円以上、トヨタの旧式「ランドクルーザー」が1000万円以上と、いずれもこれまでにないプレミア相場で落札された。
そう、クラシックカーブームは今、非常に広い範囲で盛り上がりをみせており、以前なら200~300万円くらいで買えたモデルでも、軒並み2~3倍の高値で取引される事態に至っているのだ。つまり、今やクラシックカーは非常に利回りのいい金融商品と化しつつある。
クラシックカーの相場が高騰し始めたのは、2001年に起きた「9.11 米国同時多発テロ」以降だといわれている。投資家グループが、幅広く投資先を開拓する過程において、比較的人気の高いフェラーリやポルシェといったブランドのクラシックモデルに目をつけた。クラシックカーというものは、減ることはあっても増えることはない。逆に、買いたい、乗ってみたいという人は年々増えていく。これまでは、欧米市場に日本を加えた先進国需要がほとんどであったけれども、当然ながら新興マーケットの富裕層も興味を持ち始める。
結果、需要は逼迫し、価格が自然と上がっていくという構造だ。こればかりは、増やしたくても増やせない。例えば、前述のフェラーリ250GTOは、わずかに40台弱が生産されたに過ぎない。売り物が市場に出るだけで、奇跡ともいえるわけだ。
クラシックカー相場の高騰に伴い、本当にクラシックカーが好きな人が乗れなくなった、という嘆きもよく耳にする。
クルマの修理修復にかかる費用は、ブランドやモデルが違ってもさほど大きく変わらない。例えば300万円くらいが相場のクルマを500万円かけて修復することは合理的ではないが、もし同じクルマが1000万円で売れるようになれば、お金をかけてメンテナンスしておこうという心理が働く。だから、クラシックカーは近年、どんどんキレイになっていく。クルマにとっては、シアワセな時代になったといえそうだ。●所有して楽しめる、利回りのいい投資先
盛況なのはオークションビジネスだけではない。クラシックカーを主役としたタイムラリー形式のツーリングやギャザリング(展示)イベントも近年、大変な盛り上がりをみせている。
筆者は5月にイタリアで開催された世界最高峰のクラシックカーラリーイベント「ミッレミリア」に参加したが、スタート地点にはなんと450台ものクラシックカーが集まり、その多くが1台1億円を下らないモデルばかり。日本でも姉妹イベント「ラフェスタ・ミッレミリア」が人気を博し、日本をもっと知る「ラリーニッポン」といった新たなイベントも定着しつつある。
趣味に数百万円、数千万円、はては数億円という話は、もうそれだけで常軌を逸していると思われる方も多いだろう。けれども、ちょっとした高級ミニバンが500万円もする時代である。
例えばイギリス産の小粋なクラシック・ロードスターなら、数百万円で手に入る。買って、メンテナンスしながら(想像するほどは高くはない)、ラリーやイベント参加を楽しむ。クルマを大事に慈しんでさえいれば、数年後に売却することになっても、おそらく買った値段と同じか、それ以上で売れることは間違いない。そこが、確実に価値の目減りが起こる実用車との大きな違いだろう。
所有して楽しめる、利回りのいい投資先。人気が高まっている今こそ、積極的にクラシックカーを楽しむチャンスだといえそうだ。
(文=西川淳/ジュネコ代表取締役、自動車評論家)

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