生のキュウリ自体がそもそも腸管出血性大腸菌に広く汚染されているということはほとんどありませんが、過熱を含まない加工調理である中で、汚染しやすい浅漬けの素に洗浄の甘いキュウリを漬け込んで大量に消費させるというスタイルは、HACCP(食品の製造工程における品質管理システム)の観点から見ると、ある意味発生は時間の問題ともいえるほどハイリスクなものであるといえます。●衛生管理の基本3原則
ハイリスクである理由は4つあります。
まず1つ目は、O-157などの腸管出血性大腸菌は割合ありふれた菌であり、例えば6割以上牛の腸管にいます。牛に対してはなんら影響を与えない菌ですが、近くに動物が多くいる環境や、十分な発酵プロセスを経ていない畜産由来堆肥を用いる環境で生産された野菜には、そこそこリスクが存在していると考えるべきであり、それゆえ「しっかり洗う」というプロセスは極めて重要になるといえます。
なお、O-157と同じく感染性胃腸炎の起炎菌であるビブリオ類は、海産の養殖魚にも付着しやすく、HACCP対応の加工場では殺菌洗浄水によってこまめに洗うことでリスクを最小化しています。衛生管理の基本3原則は「付けない・増やさない・殺す」であり、まずは付けないことが大切なのですが、食を提供する側がこの点をおろそかにすることが食中毒の原因になることがあります。
2つ目は、O-157はたった6粒で感染が成立する極めて強力な菌であり、ほかの食中毒原因菌が食品1g中10万個程度で感染が成立するのに対してみても、相当に感染力が強いことがわかります。なので本来徹底して管理すべきものであり、甘く見てよいものではありません。こういった危険性は意外なほどに食に携わる人でも知られておらず、事故が繰り返されます。
3つ目は、浅漬けの調味液という一度にすべての商品を入れてしまう汚染ポイントがあり、その液は加熱もされず、十分に洗われていない汚染されたキュウリが1本入っただけで、他のキュウリにまで汚染が広がる危険があります。しかも調味液には、大腸菌の餌になるアミノ酸や糖類が豊富に含まれています。加えて漬け込むための時間も必要になるので、結果として大腸菌の増加を防ぐことができない状況になってしまいます。
4つ目は、冷やしキュウリでは加熱調理がなされないということです。加熱するとたいていの食中毒原因菌は死滅しますが、前述した3原則のうちの「殺す」がなされません。
以上より、衛生管理基本3原則のすべてが守られない食品であるため、そもそもハイリスクな食べ物だったといえるでしょう。
こうした冷やしキュウリのリスクを下げるためには、上記4つのリスクを潰していく必要があります。1つ目は洗浄にオゾン水や次亜塩素酸水のような殺菌能力のある洗浄水で洗うことです。これはHACCP対応の食品工場で当たり前に使われている方法です。2つ目はO-157のリスクは常に存在していると考え、調理器具と食材を含めた衛生管理を徹底します。また温度管理も極めて重要です。3つ目は調味液を小分けにするという方法です。量販店などで売られている個別梱包の漬物の多くで採用されている方法です。4つ目は3つ目に関連しますが、調味液自体にO-157の増殖を抑えて殺すような食品保存料を加えるということです。加熱ができない以上ほかに方法がありませんし、強い効果が期待されます。
食品は自然でありのままがよいというわけではなく、正しく管理し、リスクを最小化するための合理的な方法を選択すべきだといえます。
(文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授)