不振にあえぐスーパーマーケット業界で躍進を続け、8年連続顧客満足度1位と消費者から圧倒的な支持を集めているのが、首都圏を中心に110店舗以上を展開するオーケーストアだ。しかし、2017年に鳴り物入りでスタートした「お友達宅配」というサービスが普及せず、狙いが外れかけているという。
オーケーストアは現会長・飯田勧氏が1958年に創業。勧氏の実家は130年以上続く酒問屋「岡永」で、勧氏は3男にあたる。兄弟は有名な創業者一族で、長男は家業を継ぎ、次男の保氏は居酒屋チェーン「天狗」を創業、5男で末弟の亮氏は大手警備保障会社セコムの創業者である。
商才に長けた勧氏が率いるオーケーストアの最大の魅力は“安さ”にある。「高品質・Everyday Low Price」をスローガンに、特売日を設けず、ナショナルブランドを地域最安値で販売するという戦略で消費者の支持を勝ち取ってきた。
前述の「EDLP(Everyday Low Price)」と呼ばれる価格戦略の元祖は小売世界一の米ウォルマートで、その傘下である西友も採用している。しかしながら、オーケーストアの徹底的な安売りには太刀打ちできていないという。
「オーケーストアは『売値をいくらにしたいから、原価はこのぐらいにしてください』とメーカーと直接交渉します。それで首を縦に振らなかったメーカーの商品は置かない。だから、価格交渉に応じない業界最大手の商品はオーケーストアでは取り扱わず、二番手三番手の商品が並ぶことが多いのです」
そう話すのは、大手スーパーに長年勤務した経験を持ち、ショッピングアドバイザーとして数多くの小売店のコンサルタントを手がける今野保氏だ。
「たとえ利幅が減っても、オーケーストアに卸せば関東で一番売ってくれる可能性があります。そのため、メーカーは言い値に従わざるを得ない。
本家のお株を奪うような徹底的な安売り戦略で消費者をひきつけるオーケーストア。決してお客に損をさせない努力が実り、日本生産性本部サービス産業生産性協議会の「日本版顧客満足度指数」では、スーパーマーケット部門の「顧客満足」でコストコやドン・キホーテ、イオンを差し置いて8年連続の1位に輝いている。精算時にカードを見せるだけで割引になるオーケークラブの会員数も順調に増加しており、今や400万人を超えるという。
「お友達宅配」が不発の理由飛ぶ鳥を落とす勢いのオーケーストアが17年6月に開始したのが、「お友達宅配」なる新サービスだ。これは「依頼者」がアプリでオーケーストアで売られている商品を選択し、「代行者」に買い物を依頼する。「代行者」は店舗で買い物をして「依頼者」に商品を引き渡し、買い物総額の5%を報酬として受け取るというシステムだ。つまり、買い物を依頼したい人と買い物ついでに小銭を稼ぎたい人をつなぐマッチングサービスである。
サービス開始時には実業家の堀江貴文氏も関心を寄せるなど評価は高かったが、消費者には浸透することなく、運営会社・オーケーの有価証券報告書(第51期)にも「ご利用が少なく見直しています」と記載されている。
超高齢社会が進展する日本では、こうした買い物代行の需要は高い。また、「ウーバーイーツ」などのシェアリングサービスの隆盛を見れば、システムにも問題はなさそうだ。それにもかかわらず、なぜ「お友達宅配」は軌道に乗らなかったのだろうか。
「その要因は、依頼者と代行者それぞれにあると思います。
ボランティアのつもりで買い物代行をしても、お金をもらえばビジネスと捉えられてしまう。日本の社会では、無報酬でも素直に「ありがとう」と言われれば十分にやりがいを感じる人が多いのだ。
さらに今野氏は、仮に「お友達宅配」でお金を稼ごうとしたとしても課題が多いと指摘する。
「生鮮食品の買い物には、肉の脂身の割合、果物の熟れ具合など、値段以外に気を遣うポイントが数多くあるので、依頼者が満足のいく結果にならない可能性があり、結果的にクレームにつながってしまいます。また、このサービスは実態としては宅配業に近く、安価で重い水などを大量に注文されると重労働となり、金額ベースで計算すると割に合わなくなります」(同)
たとえ少額でもお金をもらえば責任が生じてしまう。その報酬が買い物総額の5%で釣り合うかどうかは微妙なところなのだろう。
「お友達宅配」に注力するオーケーストアの狙い誤算ともいえる「お友達宅配」の不人気だが、それでもオーケーストアが力を入れ続けるのは、ある狙いがあるからだと今野氏は指摘する。
「スーパーの敵はすでにスーパーではなく、コンビニやドラッグストア、それにアマゾンなどのネット通販業者です。大手スーパーは対抗策としてこぞってネット通販に参入していますが、オーケーストアの規模では単独でネット展開はできない。
ネットスーパーはコストが高く利益は少ないといわれているが、それでも手をこまぬいていればアマゾンにシェアを奪われてしまう。「お友達宅配」は成功とはいいがたいが、そんな状況に新たなアイデアで戦いを挑む姿勢こそが、オーケーストアが躍進を続け、消費者から支持を集める本当の理由なのかもしれない。
(文=奥田壮/清談社)
●取材協力/今野保(いまの・たもつ)
ショッピングアドバイザー。全国のスーパーを年間で100店以上訪れる。テレビや雑誌などを通じて「いいものを楽しく、安く、賢く買うための知恵」を生活者に提案している。