ミニストップが、おにぎりの価格を引き下げて一律100円(税抜き、以下同)で販売すると発表した。7月2日から約2000店の全店で実施するという。

たとえば、130円で販売している「手巻紅しゃけ」「手巻ネギトロ(わさび入り)」「手巻辛子明太子」は30円引きの大幅値下げとなる。

 おにぎりはコンビニエンスストアで人気の商品だ。最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、おにぎりを年に約22億個も販売するという。セブンは全国に2万数百店あるので、1店舗平均の1日当たり販売数は300個弱となる。仮に112円のツナマヨネーズのおにぎりを1日300個販売したとすると、1店舗の1日のおにぎり売上高は3万3600円となる。ツナマヨネーズより単価が高いおにぎりは数多くあるので、実際の売上高はもっと大きくなるだろう。いずれにせよ、セブンの1店舗の1日当たり売上高は65万円程度であることを考えると、おにぎりの販売力のほどがわかる。

 もちろん、ミニストップなどほかのコンビニでも、おにぎりは同様に人気があるのは言うまでもない。各社、頻繁に素材や製法を見直すなどしておいしさの向上を追求している。爆発的な人気商品となったおにぎりとしては、ローソンが昨年10月に発売した「悪魔のおにぎり」が挙げられる。わずか半年で2900万個以上を販売し、集客に貢献した。このように、コンビニではおにぎりの競争力が集客を左右すると言っても過言ではない。

 大手コンビニ各社は、どこも定番のおにぎりを100~140円程度で定価販売している。一方で各社は時折、おにぎりを期間限定で100円に値下げして販売することがある。人気のあるおにぎりを低価格で販売して集客を図るほか、飲料や総菜など関連商品のついで買いを促進する狙いがある。

 だが、人気商品の値引き販売は、収益性の低下を招くリスクをはらむ。そのため、各社ともおにぎりを100円で販売するのは期間限定としている。それはミニストップも同様だった。しかし、これからは期間限定ではなく恒常的に100円で販売するというのだから驚きだ。

 ミニストップが収益性低下のリスクを背負ってでもおにぎりを恒常的に100円で販売する背景には、深刻な客離れを食い止めたい思惑がありそうだ。

業績低迷に苦しむミニストップ

 ミニストップは長らく客離れで苦しんでいる。既存店客数は5月まで40カ月連続でマイナス。通期ベースでは、19年2月期が前期比2.7%減で、7年連続のマイナスとなっている。客離れが止まらない状況だ。

 客離れにより既存店売上高も苦戦している。19年2月期は前期比1.8%減だった。競合他社の同年度の実績と比べると、ミニストップの苦戦のほどがわかる。セブンは1.3%増、ファミリーマートは0.4%増とそれぞれプラスだったし、ローソンはマイナスだったが0.5%減の微減で済んでいる(4社とも2月期決算)。大手4社の中ではミニストップだけが大負けしているのだ。

 ミニストップは業界4位だが、上位3社との開きは大きく、コンビニ業界を語る際はミニストップ以外の「大手3社」が話に上ることが多い。規模が小さいミニストップはやや蚊帳の外気味だ。

 18年度の各社の営業概況を比較するとわかりやすい。

 日販(1店舗の1日当たり売上高)は、セブンが65.6万円、ローソンが53.1万円、ファミマが53.0万なのに対し、ミニストップは41.5万円にとどまった。セブンとは20万円以上、ローソンとファミマとはそれぞれ10万円以上の開きがある。ミニストップの販売力は圧倒的に劣っているのだ。

 また、年度末の店舗数は、セブンが2万876店、ファミマが1万6430店、ローソンが1万4659店なのに対し、ミニストップは2197店にすぎない。

大手3社とは桁が違うほどに開きがある。ミニストップは消費者の身近にあるコンビニとは現状、言い切れないだろう。

 さらに、店舗数は大手3社とも増加傾向にあるのに対し、ミニストップは減少傾向に転じている。

 18年2月期までは増加傾向にあったが、19年2月期は不採算店の閉鎖を進めたため店舗数は大きく減少、1年で67店純減した。期初から約3%分の店舗が減ったことになる。今後も大量閉鎖を進める方針で、今期は160店の純減となる見込み。

 ミニストップは全社の業績も苦しい状況にある。19年2月期の連結決算は、売上高にあたる営業総収入が前期比0.8%減の2053億円、本業のもうけを示す営業損益は5億5100万円の赤字(前期は1000万円の黒字)だった。

 国内事業における販売不振が響いた。また、麺やサラダ、冷凍食品などの利益率が改善したが、タバコの増税影響による売上構成の変化と下期より商品構成を変化させたことが影響し、売上総利益率が前期から0.3ポイント低下したことも影響した。

 最終的なもうけを示す純損益は9億1600万円の赤字だった。国内の販売不振などを理由に30億円の減損損失を計上したことが響いた。

大手3社に対抗するための武器

 国内では、やはり大手3社に押されていることが大きいだろう。店舗数や販売力が劣っていることから、ミニストップは埋没している感が否めない。

 大手3社に対抗する武器として、1号店の開店時から設置を始めた「イートイン」の優位性が低下していることも大きい。近年は大手3社もイートンを積極的に設置しており、ミニストップのイートインの斬新性は低下している。

 商品面でもミニストップの競争力は高いとはいえない。ミニストップはコールドスイーツ「ハロハロ」やフランクフルト「ビッグドッグ」など独自の人気商品を抱えてはいる。だが、圧倒的な販売力を誇るプライベートブランド(PB)商品「セブンプレミアム」を抱えるセブンや、人気のフライドチキン「ファミチキ」などを持つファミマ、「からあげクン」などを擁するローソンに十分に対抗できるほどの商品をミニストップが多数持っているとはいえない。

 こうした厳しい状況のなか、ミニストップは集客を図るため、コンビニの顔ともいえるおにぎりを思い切って恒常的に100円という低価格で販売しようとしている。商品での差別化が難しいため、価格の安さで勝負し、事態の打開を図ろうとしているのではないか。それほどまでにミニストップは追い詰められているともいえる。

 今後の展望は厳しい状況にある。ミニストップはかつて、親会社のイオンと資本関係がある三菱商事傘下のローソンと合併して生き残りを図るとみる向きもあった。

しかし、コンビニの再編をめぐるすれ違いなどからイオンと三菱商事は関係が冷え込み、イオンはミニストップ単独での生き残りを目指すようになったといわれている。

 イオンと三菱商事は08年に包括業務提携を結んだ。イオンは商品調達や海外出店などに三菱商事のノウハウを活用してきた。しかし、近年はイオンの自前の調達網が拡大したこともあり、提携効果が限られるようになったとみられる。こうしたことから、昨年末に提携を解消することを発表している。

 ミニストップは今後も独自路線で成長を目指す。だが、これまで述べてきたように、思うような成長が得られていない状況だ。「おにぎり100円」だけでは抜本的な収益向上は望めないだろう。ヒット商品を生み出すなど抜本的な対策が必要だ。

 24時間営業の是非をめぐる問題もあり、コンビニ業界には逆風が吹いている。ミニストップを取り巻く環境は厳しさを増しているといえるだろう。そうしたなか、同社が今後どのような立ち回りを見せるのか、目が離せない。


(文=佐藤昌司/店舗コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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