7月5日の東京株式市場でソニー株が5日続伸した。一時、前日比81円高の5976円まで上昇し、年初来高値を更新した。
米ヘッジファンド、サード・ポイントのダニエル・ローブ最高経営責任者(CEO)が5日、日本経済新聞の記事内で「株価が下がれば、買い増すかもしれない」と言及した。これを受けて、サード・ポイントの買い増しを期待した買い注文が入ったようだ。
これまでもローブ氏は日経新聞の紙面を上手に利用してきたが、今回も同様だ。
サード・ポイントは6月13日、投資家向けの書簡を公開。「ソニー株を15億ドル(約1600億円)分保有している」とし、ソニーに半導体部門の分離・独立(スピンオフ)を要求した。
半導体の分離のほか、金融子会社のソニーフィナンシャルホールディングスや、製薬会社の営業支援を手がけるエムスリー、医療機器のオリンパス、ニューヨーク証券取引所とNASDAQに上場している音楽配信サービスのスポティファィ・テクノロジーの保有株の売却を検討するよう求めた。
ローブ氏は日経新聞の取材で、半導体事業の分離・独立について「検討や分析に6カ月以上や1年もかけるべきではない」と話した。
「半導体(スマートフォン向け画像センサー)の売り先は中国・華為技術(ファーウェイ)、米アップル、韓国サムスン電子だ」と指摘、ソニーが説明する半導体とエレクトロニクスの相乗効果は「誇張されている」と批判した。
ローブ氏とソニーの吉田憲一郎社長兼CEOは6月に米国で会談。ローブ氏は「(吉田氏は)オープンマインドで話を聞いてくれた」と述べたという。
ソニーの19年3月期の連結決算(米国会計基準)は、売上高が前期比1%増の8兆6657億円、営業利益は同22%増の8942億円。2年連続で営業最高益を更新した。
ソニーの事業は大きく8つに分かれる。従来はテレビ、カメラなどでエレクトロニクスが中心だったが、近年はゲームや音楽、半導体などが収益の柱になった。
サード・ポイントが分離・独立を求める半導体事業の売上高は同3%増の8793億円、営業利益は同12%減の1439億円。連結売り上げの10%、連結営業利益の16%を占める。金融事業(金融ビジネス)収入は同4%増の1兆2825億円、営業利益は同10%減の1615億円。連結売り上げの15%、連結営業利益の18%を稼ぎ出している。合算すると売り上げの25%、営業利益の34%を稼ぎ出している半導体と金融を切り離せと、サード・ポイントは要求しているわけだ。
スマートフォン(モバイル・コミュニケーション事業)は営業損益段階で971億円の赤字だが、構造改革によって、ほかの事業はバランス良く稼げるようになった。ソニーとしては、サード・ポイントの要求はおいそれと飲めるものではない。
サード・ポイントの要求は、今回が初めてではない。
13年5月、ソニー株の保有を公表し、ピーク時には7%ほど保有していた。平井一夫CEO(当時)に書簡を送り、映画などエンターテインメント事業を分離し、米国で上場するよう提案。ソニー側は拒否したものの、同事業の情報開示の拡充を迫られた。
ローブ氏は14年、ソニー株の売却を公表した。この際、「20%近い売却益を得た」とした。19年に入り、ソニー株への再投資が明らかになった。今回の狙いは前回同様、株価の吊り上げだろう。
前回の交渉相手だった平井氏は今年6月の株主総会後に取締役会長を退任し、シニアアドバイザーとなった。交渉相手となる吉田社長は、財務部や社長室など財務畑の出身。切った張ったの修羅場で渡り合った経験は乏しい。ローブ氏は、「吉田氏は与しやすい」と踏んでいる可能性がある。
それにしても、ソニーをなぜ2回も狙われたのか。
エンターテインメント事業の売却を提案したとき、タイムリーにソニー株式を買い増し株価の吊り上げに成功した。今回、2匹目のドジョウを狙う。ソニー株の年初来安値は、3月25日の4507円。半導体分離報道によって、7月5日には5976円の年初来高値をつけた。目標ラインは、18年9月28日の高値6973円。株価を吊り上げるために、これからも小出しに買い増しを続けるだろう。
その都度、ローブ氏が日本や欧米のメディアに登場する回数が増えそうだ。
(文=編集部)