日産自動車では、カルロス・ゴーン会長(当時)が金融商品取引法違反の容疑で逮捕・起訴(特別背任罪で追起訴)され、会長と取締役を解任された。

 株主総会での西川廣人社長の取締役選任案の賛成率は78.0%。

改選期にあたる一昨年の取締役選任案ではゴーン被告が75.4%と最低で西川氏はゴーン被告に次ぐ低さの79.9%だった。それが今回、西川氏は前回の支持率をさらに下回った。

 議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)と米グラスルイスが、西川氏の取締役再任に反対を推奨した。「西川氏は14年間、取締役を務めてゴーン氏に密接に協力してきた。再任は適切ではない」というのが、ISSの反対の理由だ。

 新車を出荷する前の完成検査で不正が発覚したスズキでは、鈴木修会長の賛成率が65.85%にとどまった。昨年の93.19%から27.34ポイントも大幅に低下した。長男の鈴木俊宏社長も、昨年の94.20%から69.85%に落ちた。鈴木親子の同族経営に厳しい審判が下された格好だ。

 航空機エンジン部門で相次ぎ検査不正が発覚したIHIの斎藤保会長の賛成率は85.80%。

 免震・制震装置の検査データの不正が発覚したKYBの中島康輔会長の賛成率は74.1%だった。問題の発覚を受けて社長を引責辞任した中島氏が会長にとどまることへの批判といえる。

 三菱マテリアルの竹内章会長の賛成率は72.23%。品質不正問題で社長を引責辞任した竹内氏が会長にとどまっていることへの反発は強い。

 レオパレス21の宮尾文也・新社長の取締役再任への賛成比率は67.47%にとどまり、昨年の94.40%を大幅に下回った。社外取締役の児玉正之氏(元あいおいニッセイ同和損害保険副会長)が69.44%で、昨年の95.99%から急低下した。再任された3人の社外取締役の賛成比率は、いずれも60%台だった。

 レオパレス21は、アパート施工の不正問題を受け、深山英世前社長ら取締役7人が退任。新体制では10人のうち半数を社外取締役とし、ガバナンス(企業統治)の強化を図っているが、再任となる社外取締役にも施工不正問題の責任があるとして反対票が投じられた。

株主還元をめぐる株主とのせめぎあい

 キーエンスでは、議案への賛成比率が軒並み低かった。山本晃則社長の賛成比率は84.22%で、昨年の89.88%より5.66ポイント下がった。現名誉会長の滝崎武光取締役への賛成率は71.06%。昨年は77.36%だった。

 キーエンスは、工場の自動化に不可欠なセンサーを手がけるトップメーカー。

多くのメーカーが相次ぎ業績の下方修正に追い込まれたなか、19年3月期の連結純利益は前期比7%増の2261億円と7期連続で最高益を更新した。

 キーエンスは高収益企業だが、配当性向が低い会社として有名。19年3月期の年間配当金は200円と前期の2倍に増やしたが、配当性向は10.7%(18年3月期は5.8%)だった。上場企業の平均配当性向は30%強。剰余金処分議案への賛成率が68.9%だったことは、「株主還元を、もっと厚くせよ」との意思表示だろう。

 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の杉江俊彦社長の賛成比率が75.26%。昨年の75.63%からさらに下がった。株式市場が経営指標として重視する自己資本利益率(ROE)が低いことが主な原因だ。19年3月期のROEは2.3%。18年3月期は最終損益が赤字のためROEは算出できない。上場企業全体のROEは9%台半ばの水準にある。

 三越伊勢丹HDの小山田隆社外取締役(三菱UFJ銀行前頭取)の賛成比率は65.72%。

取締役候補9人のなかでもっとも低かった。三菱UFJは三越伊勢丹のメインバンクだ。経営の独立性に厳しい判断が下された。

 凸版印刷の金子眞吾会長の賛成率は74.6%。昨年の社長時代の78.5%からさらに落ちた。ROEが3.6%と低迷しているからだ。

 京セラの山口悟郎会長の賛成率は82.45%。同社のROEは4.5%にとどまる。

 機関投資家は「3期連続でROEが5%未満なら取締役を再任しない」との基準を設けているところが多い。

【賛成率が低い経営トップ、ワースト10】
※社名:氏名・役職、賛成率
・LIXILグループ:瀬戸欣哉・社長CEO、53.71%
・黒田電気:細川浩一・社長、54.54%
・フジ・メディアHD:宮内正喜・会長、60.63%
・野村HD:永井浩二・社長グループCEO、61.7%
・スズキ:鈴木修・会長、65.85%
・レオパレス21:宮尾文也・社長、67.47%
・キーエンス:滝崎武光・名誉会長、71.06%
・三菱マテリアル:竹内章・会長、72.23%
・KYB:中島康輔・会長、74.1%
・凸版印刷:金子眞吾・会長、74.6%
(文=編集部)

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