コンビニエンスストアや地方のスーパーマーケットは、「ドラッグストアに殺される」と怯えている。ドラッグストアは薬で利益を上げており、その分、食品などを安くできる。

コンビニや地方のスーパーは価格競争で勝てないのだ。 そんななか、巨大なドラッグストアが誕生しそうな雲行きとなっている。ドラッグストア業界7位のココカラファインをめぐり、5位のマツモトキヨシホールディングス(HD)と6位のスギHDが争奪戦を繰り広げている。

 ドラッグストア業界はM&A(合併・買収)による再編の歴史だ。2017年の売上高で22年ぶりに首位が交代した。M&Aで規模を拡大したウエルシアHDがマツモトキヨシHDを抜いて首位に立った。

 さらに下剋上は続く。ツルハHDの19年5月期の連結売上高は7824億円。7791億円(2月期決算)のウエルシアHDを上回り、またまた首位が交代した。

 6月1日、スギHDとココカラが経営統合への協議を開始すると発表した。マツモトキヨシHDは6月5日、ココカラに対し統合提案をして割って入った。ココカラは、どちらを選ぶのか。

ココカラに両社から強烈なラブコールが送られた。

【ドラッグ業界の売上高ランキング】
※社名、売上高(億円)、営業利益(億円)、店舗数
・ツルハHD、7824、418、2082店
・ウエルシアHD、7791、290、1878店
・コスモス薬品、6111、247、993店
・サンドラッグ、5880、352、1147店
・マツモトキヨシHD、5759、360、1654店
・スギHD、4884、258、1190店
・ココカラファイン、4005、129、1354店
(ウエルシア、スギは19年2月期、サンドラッグ、マツモトキヨシ、ココカラは19年3月期、ツルハとコスモスは19年5月期決算の実績/店舗数は決算末時点)

 10年にはマツモトキヨシHD、スギHD、ココカラがドラッグストア業界の3強だった。しかし、M&Aで規模を拡大してきたウエルシアHDなどに抜かれ、ランクを下げた。

 スギがココカラを統合すれば、売上高は8889億円、営業利益387億円、店舗数2544店。売上高、店舗数で業界首位のツルハHDを上回る。

 一方、マツモトキヨシHDとココカラが合併すれば、売上高は9764億円、営業利益489億円、店舗数3008店。いずれも断トツとなる。

 かつてマツモトキヨシHDは首位を独走し、ドラッグストアの代名詞となっていたが、今は5位に甘んじる。ココカラを飲み込んで首位返り咲きを狙う。

 それにしても、なぜココカラなのか。ココカラの魅力はなんなのか。

ココカラの魅力は調剤部門

 08年、ココカラは関東のセイジョーと関西のセガミディスクが経営統合して発足した。

ココロとカラダを元気(ファイン)にしたいという願いを込めて、社名をココカラファインとした。その後、ジップドラッグやライフォートなどを傘下に収め、一時は業界3位に浮上したが、現在は7位に後退した。傘下に収めた企業とのシナジー効果を発揮できていないとの指摘がある。

 ココカラの最大の魅力は調剤部門にある。スマートフォンのアプリには、「お薬手帳アプリ」と連動させ服用した薬の記録がすぐにわかる機能が備わっている。19年3月末時点で会員カードの稼働数は726万人、スマホアプリのダウンロード数は112万人に達する。

 調剤部門の19年3月期の売上高は18年同期比7%増の587億円、売上総利益は同3%増の227億円。調剤部門の売上高は全社売上の16%だが、売上総利益率が38.7%と高く、他部門の収益力の低さを補っている。

 20年3月期の全社売り上げは19年同期比2%増の4090億円、営業利益は同4%増の135億円の見込み。調剤部門はM&Aの強化で拠点数を304店に増やしたことから、売上高は同5%増の616億円を計画している。

 スギHDの中核のスギ薬局は、病院の処方箋に対応できる調剤併設型ドラッグストアが売りだ。マツモトキヨシHDは化粧品の売り上げ比率が高く、顧客は外国人が多い。

プライベートブランド(PB)も豊富だ。調剤部門への出遅れを取り戻すため「健康サポート薬局」に力を入れている。

 両社が狙うのは、ココカラの調剤事業だろう。

オーナー企業がオーナー色の薄いココカラを狙った

 ココカラはオーナー色が薄く、経営統合がしやすい相手だとみられていた。ココカラの塚本厚志社長はセイジョー出身。統合したセガミメディスクの創業家の資産管理会社セガミ不動産の持ち株比率は3.28%で、第5位の株主にとどまる。信託口、自社保有、従業員持株会が上位を占める。

 これに対してマツモトキヨシHDとスギHDはオーナー色が強い。マツモトキヨシHDの松本清雄社長は創業者の孫で、株主には一族が名を連ねる。

 スギHDは、創業者である杉浦広一会長のオーナー企業だ。一族の資産管理会社のスギ商事が32.54%を保有する筆頭株主。スギHD副社長で、事業会社・スギ薬局社長の杉浦克典氏は広一氏の長男で、次期社長の本命である。

スギHDがココカラとの統合に成功すれば、これを花道に克典氏が父親から経営を引き継ぐことになるとみられる。

 克典氏は、スギHDに入社する前はジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)で武者修行していた。その当時の上司がココカラの取締役の柴田透氏。柴田氏は6月末の株主総会で退任したが、J&Jつながりの人脈を生かし、スギHDはココカラに対して非公式に経営統合を打診してきたといわれている。柴田氏は花王出身。日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)、エスティローダを経て01年2月、J&Jのコンシューマーカンパニーの代表取締役。14年11月にココカラの顧問となり、15年4月にココカラ副社長執行役員経営戦略本部長兼海外事業部長に就任した。

ココカラは特別委員会をつくり“嫁入り先”を決める

 ドラッグストア業界は中小薬局のM&Aで大規模化してきた。業界慣行により薬局の新規出店には距離制限(一定地域に一店舗など)があるため、薬局の売り物が出ると、すぐに買い手がつく。特に調剤薬局はおいしい物件で取り合いになる。調剤薬は保険適用のため定価販売で、市販薬より利益率が高い。調剤薬局の権利を買い、同一地域内で調剤薬局を併設する大型のドラッグストアというかたちで新装オープンする。

ドラッグストアのM&Aは調剤薬局の争奪戦なのである。

 ココカラは特別委員会を設け、7月末をメドに、どちらを選ぶかを決め、取締役会に報告する。関係筋によると、報告は8月にズレ込む公算が大きい。

 特別委員会のメンバーは亀井淳・元イトーヨーカ堂代表取締役最高執行責任者、今井光・元メリルリンチ日本証券副会長、松田淳・KPMGヘルスケアジャパン代表取締役、中川秀宣・弁護士、和田芳幸・公認会計士、谷間真・社外取締役の6人で構成。5人はマツモトキヨシHD、スギHDと利害関係はない。谷間氏は経営戦略コンサルティング会社・セントリス コーポレートアドバイザリー代表取締役。

 ドラッグストア業界で「買収」というかたちは、これが最後になるだろう。今後は、大きいところ同士の大合併となるからだ。

 イオンにはドラッグストア連合「ハピコム」がある。イオン系のウエルシアHD、イオンが筆頭株主のツルハHD、ツルハHDが出資するクスリのアオキHDなどがメンバーだ。首位の座を“ココカラ連合”に明け渡すことになるツルハHDとウエルシアHDがいつ、合併を決断するかにかかっている。両社が経営統合すれば“一発逆転”となる。

 九州が地盤で現在業界3位のコスモス薬品は首都圏を攻略中。コスモス薬品が再編の台風の目になるとの見方が有力だ。
(文=編集部)

【続報】

 ココカラは7月30日、同業他社との経営統合の是非を検討する特別委員会の報告が8月上旬にズレ込むことになったと発表した。6月時点では7月末の報告を予定していた。ココカラに対してはマツモトキヨシHDとスギHDが、それぞれ経営統合をオファーしている。特別委は、どちらと経営統合したほうが望ましいかを検討してきた。

 ココカラは特別委の報告を踏まえ、取締役会で検討。経営統合の相手を決める段取りとなっている。報告の遅れにより、結果の公表は8月中旬以降になる見通しだ。

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