今回は財形貯蓄について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「私、昔、財形貯蓄をしてたなあ」
啓子「財形ですか。
亮子「たしかに、加入者は減っているみたい。だけど当時、確か勤務先が金利を上乗せしてくれる制度があって、普通預金よりも条件が良かったの。私の記憶が正しければ」
啓子「勤務先からの給付金があったのですね」
亮子「財形貯蓄の種類によっては、利息は非課税だし。無制限に非課税になるわけではないけれど」
啓子「平成29年より財形貯蓄として形成した資金の使途について緩和されましたし、財形貯蓄について整理してみましょう」
たいした節税にはならないけれど財形貯蓄とは、給与・賞与などからお金を天引きして、会社が代わりに金融機関にお金を払い込んで貯蓄する制度です。すべての会社がこの制度を導入しているわけではなく、福利厚生としてこの制度を導入している会社に勤めている方のみ利用できます。
この財形貯蓄で貯蓄をすると、利息に対して税金がかかりません。銀行にお金を預けていると利息が入金されることがありますよね。この入金される利息にはすでに税金がかかっていて、税金が差し引かれたあとの金額が入金されます。利息にかかる税率は20.315%です。たとえば、1万円の利息を受け取る際には、20.315%の税金(2,031円)が差し引かれた、7,969円が入金されます。しかしながら、財形貯蓄を利用すると、この20.315%の税金がかからないので、1万円の利息を受け取る際に、さきほどのように税金が差し引かれず1万円がそのまま入金されるというメリットがあります。
ただし、非課税となるのは、貯蓄資金の使用目的が定められている財形貯蓄制度を選択した場合に限られます(財形貯蓄にどのような種類があるかは後ほど説明します)。
利息が非課税といっても、現在のように金利が低いことを考えるとあまり大きな節税額にはなりませんし、使用目的の制限や、非課税となる金額上限が設定されていること等を考慮すると、「正直いって財形貯蓄を利用してもあまりメリットがないのでは……」という意見もあると思います。しかしながら、財形貯蓄をおススメする、2つのポイントがあります。
それでも、財形のここはおススメ(1)財形貯蓄には次のとおり3つの種類があります。
(1)財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)
(2)財形住宅貯蓄(勤労者財産形成住宅貯蓄)
(3)一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)
それぞれに特徴があるので、その特性にあった貯蓄をすれば、財形貯蓄を利用せずに普通に貯蓄するよりも、財形貯蓄を利用したほうがお得なことがありますので、一つひとつ見ていきましょう。
(1)財形年金貯蓄(勤労者財産形成年金貯蓄)
将来、年金としてお金を受け取ることができる財形貯蓄です。55歳未満の方に加入資格があり、金融機関などと契約を結んで、5年以上積立てが必要です。契約は1人1契約と決められています。また、元利合計で550万円までであれば、利息などに税金がかかりません。そして、60歳以降に年金としてお金を受け取ることができます。
(2)財形住宅貯蓄(勤労者財産形成住宅貯蓄)
マイホームの新築・購入・リフォームの資金を目的とした財形貯蓄です。(1)と同様に、55歳未満の方に加入資格があり、金融機関などと契約を結んで5年以上積立てが必要です。
※財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄にかかる利息などの非課税措置について
(1)と(2)の両方の財形貯蓄を利用している場合には、(1)と(2)あわせた元利合計550万円(財形年金貯蓄のうち、郵便貯金、生命保険又は損害保険の保険料、生命共済の共済掛金、簡易保険の掛金等に係るものにあっては払込ベースで385万円)から生ずる利息などに税金がかかりません。
(3)一般財形貯蓄(勤労者財産形成貯蓄)
貯蓄した資金の使用目的や加入年齢が(1)や(2)のように決められておらず、自由に使用目的を決めることができます。使用目的が制限されない代わりに、利息などに税金がかかります。ただし、(1)(2)と違って目的が制限されず自由に資金の引き出しができるといった利便性が高いという特徴があります。金融機関などと契約を結んで、3年以上積立てが必要です。(1)(2)は契約が1人1契約とされていますが、一般財形貯蓄の場合には、1人複数の契約も可能です。
なお、いずれの種類の財形貯蓄であっても、会社が給与などからお金を天引きして、会社が金融機関などへ代わりに払い込むという点は(1)(2)(3)共通です。
また、財形貯蓄をしていて、会社に社内融資規程が整備されている場合には、マイホーム新築・購入・リフォーム時に会社からお金を借りることができます。借入の限度額は、財形貯蓄残高の10倍以内で最高4000万円まで、マイホーム新築・購入・リフォームに要する費用の90%以内です。
しかも、この融資制度は、勤労者退職金共済機構という公的機関が、会社を通じて融資(転貸)する公的制度です。この融資制度は、会社が従業員の負担軽減措置を行うことが一つの条件となっていて、たとえば会社が従業員に転貸する際の金利を通常よりも低く設定することや、借入の利息を会社が一部負担するといった軽減措置がされますので、普通に金融機関から借入れるよりもお得な場合があります。
もうひとつおススメポイントがあります。それは、自動的に楽に貯蓄ができるということです。「毎月○万円貯めるぞ!」と決心しても、なかなか続かないことってありますよね。財形貯蓄を利用すれば、給与・ボーナスなどから天引きされて貯蓄されるため、楽に自動的に(半ば強制的に)お金を貯めることができます。そのため、特に貯金するのが苦手という方におススメです。また、お金を引き出す際には条件があったり、手続が必要だったりと普通にお金を引き出すよりも、多少の手間がかかります。逆にいうと、簡単にお金を引き出すことができないので、きちんとお金を貯められるということにもつながります。
財形貯蓄制度を導入している会社にお勤めの方は、せっかく利用できる制度なので、最大限活用してほしいです!
亮子「非課税といっても今の時代たいした金額ではないので、積極的に財形をお勧めするわけではないけれど、お金について何もしていないのなら、検討してみる意味はあると思います」
啓子「給与から天引きになるのは楽ですよね」
亮子「給付金の内容によっては、悪くないしね」
啓子「利息を非課税にするためには、資金使途に制限があるものの、平成29年より少し緩和されていますし、勤務先の財形を調べてみるのはお勧めです」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)
●徳光啓子
2009年 公認会計士試験合格
2011年 明治大学商学部卒業
2011年から2016年、有限責任あずさ監査法人に勤務し、主に上場企業(製造業)を中心に監査業務に携わる。
2016年から税理士法人タックス・アイズにて企業の各種税務申告業務や会計・税務コンサルティングを行う。また、同年より茨城大学にて非常勤講師として原価計算論等の講義を行う。