スマートフォンやタブレットの普及に伴い、電子書籍が一般的となった昨今、紙媒体の売れ上げは顕著に落ち込んでいる。雑誌の売り上げは平成8年をピークに減少の一途をたどり、この数年は廃刊となる雑誌も続出している。
東京とロンドンのカルチャーマガジンである「BOURGEOIS」は、観光地ではなく生きたトレンドや街の息づかいがわかるような写真、インタビュー記事で構成されている。現在、発売中の「BOURGEOIS VOL.5」は、表紙に山下智久を起用し、SixTONES(ジャニーズJr.)のインタビュー記事も掲載されており、大きな話題となっている。「BOURGEOIS」を2015年に23歳で創刊したYUSUKE.D.MARIA氏に話を聞いた。
カルチャーショックが人生を変えた小学生から高校生まではサッカー少年だったというYUSUKE氏は、20歳になって英ロンドンに留学した。
「ロンドン留学が僕の人生最大のターニングポイントです。もし留学していなかったらと想像すると、ギャル男になって毎日渋谷でタピオカを飲んで、インスタ映えを求めて遊んでいたかもしれません。それか、早く結婚していたかも」(YUSUKE氏)
こう言って笑うが、ロンドンでは大きなカルチャーショックを受けたという。
「日本は書店やレコード店がとても多く、アナログがまだ生きていると思います。イギリスはアナログよりデジタルが主流となっていますが、生での感動を味わえる場所です。街の至る所でミュージシャンがライブをやっていたり、ミュージカルが観光名所になっています。
その国の文化の違いこそが、お互いを引きつける魅力になると感じたYUSUKE氏は、ブログを始め、自身の見たものや感じたことを発信し始めた。ブログへのアクセスは目に見えて増えていった。その後はウェブマガジンを発行し、さらに読者が増えていった。
「BOURGEOIS」創刊までの苦労ブログからウェブマガジンで読者を掴んだYUSUKE氏は、次に雑誌創刊を目指した。
「創刊までの道のりで、当時22歳だった僕が苦労したのは資金面です。アイデアは山ほどあるのに予算があまりないので、とにかく想像力を働かせました。ただ企画には自信があり、達成した時のヴィジョンは見えていました」(同)
YUSUKE氏は、資金面の問題だけであきらめることはナンセンスだと思い、多くの人に会って企画を話すことを続けた。
「僕の持つイメージを多くの人に出会い共有していくうちに、どんどん周りの人たちが利害関係なく、同じ志で動いてくれました。いつも心から感謝しています」(同)
その詳細については実名を出すことができないが、YUSUKE氏の感性が多くの人を引きつけ協力を得ることができた。
「ほかにも苦労したことはたくさんありますが、すべての経験が現在に至るまでつながっていることなので、前向きに受け取っています。ロンドンで創刊して、書店に自分の作品が並んだのを初めて見たときは感動しました」(同)
起業などを目指しても、資金がないとあきらめる人も多いだろうが、YUSUKE氏のような行動力が成功するためには不可欠なのかもしれない。
「マガジンとしてはまだ4年目なのですが、『BOURGEOIS』を立ち上げたのは2013年だったので、長い月日が経過したことを実感しています。
冒頭でも紹介したが、現在発売中の「BOURGEOIS VOL.5」の表紙は、ジャニーズ事務所でも人気トップを争う山下智久だ。実現するのは簡単ではなかっただろう。
「昔の友人たちは、僕が山Pと仕事する未来なんてきっと誰も想像できていなかったはずなので、みんなも“いつか周りの人を驚かしてやろう”といった気持ちがあればできるはずです」(同)
出版界、ファッション界で新進気鋭のクリエイターとして注目を浴びるYUSUKE氏は、仕事に対して貪欲な人物である。
「現在の目標や夢は、日本のアーティストをロンドンで撮影したいということです。あとはショートフィルムでもいいので、映像制作を手がけてみたいと考えています。まだ勉強しなくてはいけないこともあるのですが、知り過ぎる前のほうが、常識にとらわれないかたちがつくれそうなので、マガジンと映像を並行してつくれたらいいなと思います。思い立ったら即座に行動に移すので、意外とすぐかもしれませんね」(同)
現在27歳のYUSUKE氏だが、雑誌の創刊を目指した22歳からの5年間は、非常に濃い時間を過ごしてきた。年齢を重ねるごとに、ひとつの出来事に対するとらえ方が変化していることもあるという。
「まだ27年しか生きていませんが、生きることは大変なことのほうが多いと感じています。どんな人でも壁にぶつかることはあると思いますが、同じ心境でもがいている方々に、僕は作品を通して希望を与えることに生きる意味を感じています」(同)
「BOURGEOIS」のターゲット層を10~20代としていることには、理由がある。YUSUKE氏は自身が思い悩み夢を実現させた経験を、若者たちに伝えたいと考えているのだ。
「若い世代は、夢や目標に向けて楽しみと不安の2つの気持ちがあると思いますが、小学生の時に『サッカー選手になりたい』などの夢を持っていたのと同じ気持ちで、夢に向かって挑戦してほしいです。
「BOURGEOIS」は、東京とロンドンのカルチャーマガジンであり、制作のため現在、YUSUKE氏はロンドンを拠点として、さまざまな国を訪れている。
「日本とイギリスで比べると、さまざまな点で共通と相違があります。そして、なぜ海外を拠点にしているかというと、ロンドンにいる時は、僕は自分自身を好きになれるからです」(同)
その一方で、海外で生活するからこそ気づいたこともあるという。
「日本は自分の生まれた国ということもありますが、他国のカルチャーの中で生活することで、より一層リスペクトする気持ちが強くなりました。政治的なことについてはいろいろな意見があると思いますが、本当にとてもいい国をつくってくれている人々に感謝しています」(同)
こういった謙虚さも、YUSUKE氏が人を引きつける魅力なのかもしれない。
「BOURGEOIS 6th issue」は2019年冬に、3タイプの表紙で発売予定で、詳細な情報が解禁されるのは今秋だという。日本とロンドンとの架け橋となる「BOURGEOIS」が、さらなる可能性を生むことを期待したい。
(文=道明寺美清/ライター)