8月は野球の季節だ。プロ野球では、ペナントレース優勝、あるいはクライマックスシリーズ進出をかけて、連日のように天下分け目の決戦が繰り広げられる。
そんななか、勢いが止まらないのが埼玉西武ライオンズのホームランアーティスト・山川穂高選手だ。パ・リーグの本塁打王争いで独走を続ける山川選手は、8月4日のオリックス・バファローズ戦では京セラドーム大阪の5階席上の看板まで飛ばす超特大の32号本塁打を放ち、球界に衝撃を与えた。
オールスターゲームでパ・リーグの四番打者を務めるなど、今や“パの顔”となった山川選手は、常々こう言っている。
「ホームランを打てば、その日ずっとハッピー」
全打席で本塁打を狙う。自身の長所を最大限に生かした打撃スタイルを示す、シンプルでわかりやすい野球観だ。事実、山川選手はこのように考え始めてから、本塁打を量産している。
セ・リーグに目を向けると、4連覇を狙う広島東洋カープのエース・大瀬良大地投手の「スポーツ哲学」が興味深い。「自分の身体能力の長・短所をきちんと把握しておくこと」――そうすることで、自らの長所をより生かしたトレーニングメニューを組むことができるようになるという。
中学・高校の野球人口は激減このように、厳しい世界で活躍を続けるアスリートの言葉には「耳を傾ける価値」がある。前述の2人以外にも、読売ジャイアンツの菅野智之投手、横浜DeNAベイスターズの山崎康晃投手、福岡ソフトバンクホークスの甲斐拓也捕手、中日ドラゴンズの平田良介選手、千葉ロッテマリーンズの福浦和也選手、阪神タイガースの福留孝介選手など、多くの現役選手がポジティブな言葉を発している。
また、引退した名選手、現役監督、過去の名将、高校野球指導者、アマチュア野球指導者らの言葉も、それぞれに深い蘊蓄を感じさせるものが多い。
そんな言葉の数々を集めた1冊が『全力投球~心が震える野球の名言~』(英和出版社)だ。本書を企画した英和出版社の東由士氏は、次のように語る。
「私自身、プロアスリートのさまざまな言葉に触れるのが好きでした。極端に言うと、読者に発信するよりも、自分が新たな言葉を常に見つけていきたいのです」
折しも、現在は野球人口の減少が懸念されている。日本高等学校野球連盟の発表によると、高校の硬式野球部員数は昨年度より9317人少ない14万3867人で、5年連続の減少となった。日本中学校体育連盟の調査では、中学校軟式野球部の部員数(男子)は、2009年度の30万7053人から18年度は16万6800人に激減している。
子どもたちの野球離れに対しては、DeNAの筒香嘉智選手を筆頭にプロ野球界からも警鐘が鳴らされている。そんななか、本書では、長所を伸ばす考え方、悩んでいる後輩にかけるべき言葉、人の叱り方、笑顔がもたらす効果などが綴られており、現状の野球環境を改善するための一助ともなるのではないだろうか。
スポーツで重要なのは「メンタルコントロール」「野球とは99パーセントが精神的なものだと思う」
1998年にメジャーリーグ新記録(当時)となるシーズン70本塁打を放ったセントルイス・カージナルスのマーク・マグワイア選手は、こう語った。野球に限らず、スポーツで本当に重要なのは「肉体面」よりも「精神面」であることをシンプルに表現した名言だ。野球でいえば、緊張でガチガチの状態で打席に立つのと、リラックスしてバットを構えるのとでは、結果は自ずと違ってくる。
本書には、プロ野球選手が経験した「挫折」「努力」、そして「希望」から生まれた珠玉の言葉の数々が並んでいる。野球のみならず実社会でも役立ち、時には人生の指針にもなり得る名言に触れてみてはいかがだろうか。
(文=後藤豊/フリーライター)