〈学歴詐称疑惑の伊東市長〉「もう一般人なので…」疑惑解明は検察に“お任せ”して百条委も回避か、辞意表明も“奇策”で再選を狙う田久保市長の皮算用
〈学歴詐称疑惑の伊東市長〉「もう一般人なので…」疑惑解明は検察に“お任せ”して百条委も回避か、辞意表明も“奇策”で再選を狙う田久保市長の皮算用

学歴詐称疑惑を追及される静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)が7月7日、弁護士を伴って記者会見し、辞職して出直し市長選に出馬すると表明した。田久保氏側は疑惑の真偽の解明は当局に任せるとし、偽造の疑いがもたれる“卒業証書”は検察に渡すので公表できないと主張。

さらに、証書は本物だと思うと言いながら、どのようにして入手したのかもわからないとの仰天主張も始めた。

公選法違反が疑われる問題は認めていない

田久保氏は会見冒頭、「私の学歴に関する問題で皆様方に本当に大変ご迷惑をおかけいたしました。本当に申し訳ございませんでした」と述べて深々と頭を下げた。

だが謝罪の対象は“学歴に関する問題”というだけで、公職選挙法違反となる当選を目的にした虚偽経歴の公表を認めたわけではない。

続いて市民に4つ伝えたいと言い始めた田久保氏。最初に「自分は東洋大学を卒業しておりませんでした。大学の記録においては除籍ということになっております」と話し、大卒の経歴はないと説明。その上で市の広報誌に「東洋大学法学部経営法学科卒業」と記載されていたのは「事実に反する記事であるということを認めたい」と話した。

この発言は一見、問題を認め謝罪したようにも見える。だが地元関係者は「広報誌掲載は当選後のことです。公選法違反が疑われる、選挙前にメディアの質問に東洋大卒と回答したことを問題だと認めたわけではありません」と指摘する。

田久保氏は2番目に、東洋大卒だと主張するために市議会議長らにチラ見せした真偽不明の「卒業証書」が本物であることの証明を自分はせずに、捜査当局に任せると言い始めた。

「卒業証書につきましては、卒業アルバム、在籍期間証明書、私の上申書とともに静岡地検へ提出することにしました。

よって卒業証書の調査等についての結果は検察の捜査に全てお任せしたい」(田久保氏)

「起訴よりもさらに先の有罪確定がない限りは出馬に問題はない」

さらに田久保氏は「地検の上申に必要な手続き等を終えましたら速やかに(市長)辞任をしたい」「1度そういった形できちんと辞任をし、改めて市民の皆様のご判断を仰ぐために再度市長選挙に立候補したい」と、市政に大きな影響を与える、残る2つの項目を口にした。

これに記者団からは、疑惑は検察に解明を任せただけで解明されていないのに、出直し市長選に出る資格があると考えるのか、との質問が出た。

田久保氏は「その(出直し選の)前に起訴されるようなことがありましたら、これはもう立候補して皆さんのご審議を受ける資格はございませんので立候補の方はしないという風に決めております」と答えた。

だが出直し市長選は辞職から50日以内に実施される。これほど早くに検察が起訴か不起訴を判断することは難しいとみられる。

田久保氏の言いぶりでは、出直し市長選で当選した後に起訴された場合は引責辞任は考えていないかのようにも聞こえる。同席した弁護士は「起訴され裁判になりました、有罪になりました、となってしまったら、それは出る資格はないと思いますよ」と発言。起訴よりもさらに先の有罪確定がない限りは出馬に問題はないとの考えを示した。

「田久保はもうこの後、何の力も権限もない一般人になるわけです」

そして田久保氏が強く主張したのが、卒業証書は「私の中では本物であるというふうに思っております」という認識だ。議長らにちらりと見せたのも「私の方は本物であると思いまして、必要であると思った方にお見せしております」と主張する。

ただ「私が本当に本物であると言ったところで確かな裏付けのない言葉だけのことになってしまいます」と考えて捜査に任せる判断をしたのだという。

すると当然記者団からは、では本物だと思う証書を見せてくれとの要求が出た。記者の一人が「市長、いかがでしょう」と田久保氏に回答を求めた時に割って入ったのが弁護士だ。

「私が先に答えてもいいですか。

気持ちはよくわかるんですけども、もう先ほど辞職を表明していますので田久保はもうこの後、何の力も権限もない一般人になるわけです。かつ刑事告発され被疑者という1番弱い立場に転落したことになります。で、私はこれを守る刑事弁護人の職責があります。そうするとこれから刑事事件として取り調べられる可能性の重要な証拠を安易に公開することはできないと考えています」(弁護士)

これが、田久保氏が卒業証書を公開しないために見出した名分だ。

実は検察への卒業証書などの提出は、同じ7日午前に伊東市内の建設会社社⻑が公選法違反容疑で田久保氏を刑事告発したことに対応したものだ。被疑者側が自身の法的処罰に直結する重要証拠を公開しないことや、捜査機関に自らを防御する材料として提供することは刑事弁護の世界では当然のことだ。

さらに、前述の通り伊東市議会は7日に百条委設置も決めたが、同委が当然要求するはずの卒業証書などの提出を、田久保氏は検察に提出したことを理由に拒むことができ、「起訴される恐れがある」として証言を拒否することも可能になる。

結局、追い込んだつもりの刑事告発はメディアや百条委による解明の足かせとなり、市長追及派には「悪手だった」との見方も出ている。

地元記者からは会見後「すごい奇策だ」

窮地に追い込まれたかに見えた田久保氏が一気に活路を開いた4項目の発表に、地元記者からは会見後「すごい奇策だ」と驚きの声も上がった。

だがそれだけではない。「卒業証書は本物だと思ってきたと何度も主張してきた田久保氏は、これが偽物だと捜査で判断された時も逃げられるように伏線を張っています」と市関係者はいう。会見でこう発言したためだ。

「30年前ぐらいのことということもあるんですが、正直に申し上げて、それをどのように手にしたのか、要するに、郵送で送られてきたのか、それとも学校に取りに行ったのか、誰か友達と一緒に行ったのかというような、もう記憶が曖昧でございます」(田久保氏)

どうやって入手したかも説明できないが本物だと信じてきた、と言っているのだ。

「会見で出たこの発言に記者たちが疑問を呈さずスルーしたことで、卒業証書が偽物だと判断されても田久保氏は『自分も騙されてきた』と主張ができるようになったも同然です」と同関係者は指摘する。

メガソーラー計画反対などの市民運動に携わった田久保氏は、既得権益集団とみなす前市長を破り市政を奪取した成果を手放したくないとの思いが強いとみられる。会見でも「伊東を変えていくんだという気持ちで私を選んでいただいた、そこに対しては、最後まで私にできるすべての方法をかけてお応えしていきたい」と話し、再選に強い意欲を見せた。

練り上げた奇策の末に田久保氏が戻ってくるのか、前市長側が政権を取り返すのか。前回市長選からわずか2か月の時間を置き、再び伊東市は政争の時間に入る。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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