コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)傘下の地銀最大手、横浜銀行と同3位の千葉銀行が7月10日、業務提携することで合意した。横浜銀の大矢恭好頭取は記者会見で、「同じ首都圏に位置する両行は事業戦略が似通うなど親和性がある」と強調。

千葉銀の佐久間英利頭取は「手を携えることで顧客に高度なソリューションを提供したい」と提携の狙いを語った。経営統合の可能性について問われると、千葉銀の佐久間頭取は「今のところ考えていない」と述べるにとどまった。

 千葉銀は埼玉県のさいたま市大宮区に本店がある武蔵野銀行と提携関係にある。横浜銀の大矢頭取は「(武蔵野銀と)連携できることがあれば選択肢としてあり得る」とし、3行の連携に意欲を示した。千葉銀は武蔵野銀の合流を視野に入れている。

 横浜銀は東日本銀行と形成するコンコルディアFGではなく、横浜銀単体で業務提携する。「東日本銀のビジネスモデルと横浜銀、千葉銀のビジネスモデルはかなり違う」。横浜銀の大矢頭取は単体で取り組む理由をこう説明した。

横浜銀に初の生え抜き頭取が誕生

 横浜・千葉両行の提携が動きだしたのは、今年3月のトップ会談がきっかけだったといわれている。横浜銀に初の生え抜き頭取が誕生したことで、双方に提携の機運が高まったとされる。

 コンコルディアFGは2016年4月、横浜銀と東日本銀が経営統合して発足した。東日本銀の先行きを懸念した畑中龍太郎金融庁長官(当時)が横浜銀に働きかけ、寺澤辰麿頭取(同)が東日本銀の石井道遠頭取(同)に救いの手を差し伸べた。

寺澤氏と石井氏は旧大蔵省の先輩後輩(共に国税庁長官)。畑中金融長官が音頭をとった「(旧大蔵)仲間内の救済劇」といわれた。

 18年に横浜銀の天下り体制が崩壊する。コンコルディアFG社長の寺澤氏は自身の会長兼取締役会議長への昇格と、石井FG副社長の社長就任という続投案で金融庁と折衝した。16年に横浜銀の頭取の座を生え抜きの川村健一氏に譲った寺澤氏としては、近く石井氏が東日本銀頭取の座を生え抜きに譲った後、彼をFG社長に後継指名し、自らの影響力を残したいと考えたと伝わっている。

「天下りの社長が天下り副社長に禅譲は論外」。森信親金融庁長官(当時)が待ったをかけたという。金融庁長官の後ろ盾を得て、コンコルディアFGの取締役会は全会一致で寺澤氏の退任、横浜銀頭取の川村氏のFG社長昇格、大矢氏の横浜銀頭取昇格を決めた。横浜銀は70年ぶりに“天下りバンク”から脱却した。それまで横浜銀のトップの座は大蔵省(現財務省)トップ経験者の、有力な天下りポストだった。

 一方、東日本銀は18年7月、金融庁から業務改善命令を受けた。不適切融資が明らかになり会長に就いたばかりの石井氏が引責辞任した。

横浜銀、東日本銀とも統合の立役者の2人が去った。横浜銀の生え抜き組にとって、天下りの寺澤氏の置き土産である東日本銀は“お荷物”以外の何物でもない。横浜銀が東日本銀抜きで千葉銀と業務提携に踏み切った背景を、こう解説する向きがある。

千葉銀が武蔵野銀と提携したワケ

 千葉銀は16年3月、埼玉が地盤の武蔵野銀行と資本・業務提携し、「千葉・武蔵野アライアンス」を組んでいる。地銀上位行の千葉銀と地銀中位行の武蔵野銀の提携は、関東地区地銀の再編の副産物だった。

 16年、横浜銀と東日本銀が経営統合し、コンコルディアFGが発足した。同年4月、新銀行東京が東京TYフィナンシャルグループ(東京都民銀行と八千代銀行が統合)と経営統合。3行は18年5月に合併して、きらぼし銀行になった。同年10月、常陽銀行(茨城県水戸市が本店)と足利ホールディングス(足利銀行、同栃木県宇都宮市)が経営統合し、めぶきフィナンシャルグループが始動した。

 千葉銀と武蔵野銀は関東の有力地銀で数少ない独立行となってしまった。武蔵野銀がコンコルディアFGか、めぶきFGに加わってしまうと、千葉銀は地銀第3位の地位が危なくなる。千葉銀は武蔵野銀を他の陣営に取られないために提携に踏み切ったといわれた。

首都圏のスーパーリージョナルバンク誕生か

 横浜銀と千葉銀、埼玉銀行(現在の埼玉りそな銀行)の3行は古くから緩やかな関係を築き、1969年には提携関係の緊密化による「首都圏連合」構想が表面化した。埼玉銀がりそなグループ入りして3行連合構想は消えたが、横浜銀と千葉銀が今回、50年越しに急接近したことになる。横浜、千葉は、いずれも地銀の「勝ち組」と評されている。埼玉の武蔵野銀が加われば、「首都圏連合」構想の復活である。

 横浜銀と大矢頭取、千葉銀の佐久間頭取ともに、将来の合併や統合の可能性について明確に否定してはいない。横浜銀は神奈川県、千葉銀は千葉県が地盤で営業エリアの重複も少ない。金融アナリストは「統合が望ましいが、時間とコストがかかり過ぎる」と指摘する。

 首都圏は三菱UFJフィナンシャル・グループ(三菱UFJ銀行)、三井住友フィナンシャルグループ(三井住友銀行)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ銀行)のメガバンク3行の牙城だ。メガバンクに対抗できるスーパーリージョナルバンク(大規模地域銀行)の必要性が言われて久しい。横浜・千葉をメインバンクとする企業は合計で4万社を上回り、3メガバンクに次ぐ規模となる。

 関西では大和銀行とあさひ銀行が経営統合したりそなホールディングスの傘下に、りそな銀行など多数の地銀を擁し、スーパーリージョナルバンクを形成している。首都圏ではスーパーリージョナルバンクの核となる横浜銀を財務省の天下り組が支配してきたため、再編が遅れた。

天下りのくびきから解き放たれた今、チャンスが訪れた。横浜銀、千葉銀、武蔵野銀によるスーパーリージョナルバンクが誕生する可能性は高い。

「横浜・千葉・武蔵野の3行の業務提携が深化し、経営統合が実現すれば、東日本銀行はいらなくなる」(金融アナリスト)

 首都圏の地銀・第二地銀の再編の最後の号砲が鳴った。

(文=編集部)

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