韓国政府が22日、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を発表した。「軍事協定破棄」というパワーワードの影響もあり、国内のメディアやネット上では韓国への批判的な意見が目立つ。

「韓国へのさらなる経済的なダメージを」「訪日韓国人観光客の減少ぐらい許容できるダメージ。もっと報復しろ」などという声も大きくなりつつある中、韓国からの訪日観光客減少でダメージを受ける地方からは悲鳴が上がっている。

GSOMIA破棄の影響は?

 GSOMIAの肝はこれまで日米、日韓でやり取りしていた軍事機密などを3カ国間で共有し、協定締結外の第3国への漏洩を防止するというもの。日本から韓国へは海上自衛隊のイージス艦や日本海沿岸に設置されたレーダーサイトで収集したミサイルの弾道情報などを提供する。一方で、韓国は北朝鮮国内での諜報活動で得られた人的情報(ヒューミント)などを日本に提供するという仕組みだ。

 日韓GSOMIAは2016年11月に署名され、運用実績はまだ3年と短い。韓国が破棄を決定すると日韓両国の協力体制は16年以前の状況に戻るが、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対する日米韓の防衛協力体制がすぐに崩壊するわけではない。

 海上自衛隊の幹部は「基本的に協定が破棄されても、北朝鮮に対して日米韓の現場でやることは変わらない。メディアが騒ぎすぎている感はある」と話す。その上で「確かに北の弾道ミサイル発射のすべての弾道(打ちあがってから、日本海や日本列島を超えて太平洋に落ちるまでの軌道)がリアルタイムで把握しにくくなることはある。ミサイルへの対処は一分一秒を争うものなので、このタイムラグの影響がないとは言えない」とも指摘。「今も昔もヒューミントに伴う情報が大切なのは変わらないので、協定はあるに越したことはない。

とにかく日本も含め各主体が冷静に対処することが重要だ」と話した。

地方自治体からも不安の声が上がる

 韓国が「日本への報復措置」として打ち出した訪日自粛キャンペーンは、国内旅行の低迷を補うために訪日韓国人の獲得を図ってきた地方には大きな衝撃だった。韓国への航空路線は今年夏の時点で、国内18の地方空港で26の定期路線が韓国の航空会社などにより設定されていた。しかし、一連の騒動で韓国の格安航空会社(LCC)ティーウェイ航空が5月末の佐賀-大邱便を運休したのを皮切りに、佐賀、熊本、大分との間の計5路線を9月中旬までに順次運休することが決まった。

 21日に日本政府観光局が発表した7月の訪日外国人旅行者数によると、韓国人は前年同月比7.6%減の56万1700人。今回の「協定破棄」で一層、日韓関係が悪化すればマイナス幅はさらに拡大するとみられる。

 熊本県国際課の担当者は「(日韓関係悪化に伴う訪日韓国人の)細かな数字を把握しようとしている。旅行エージェントなどから団体客のキャンセルが相次いでいることはつかんでいる。市場規模は大きくないため、影響は限定的だと思われるが台湾や中国からの訪日客増への転換を急ぐ」と話す。

傷を負うのは誰なのか

 LCCが運休した佐賀県の観光業界は、宿泊を伴う韓国人観光客の減少を嘆く。佐賀県旅館ホテル生活衛生同業組合の幹部は「明らかに少ない。どこの地区でも、予約が入らなかったり団体客のキャンセルが入ったりで、見通しが立たない。

両国の関係が定常化してくれるのが一番ありがたいのだが、この状況では厳しい」と語った。

 韓国人の誘客に関しては、これまでそれぞれの地方が数年にわたって経営努力をしてきた。同県武雄市の温泉旅館の経営者は「韓国を含む訪日外国人の増加は国策だったはず。突然の状況急変に対応できない。ネットや有識者の発言で、『韓国に打撃を与えるために、日本も多少のダメージを受けるのは構わない』という話を目にするたび、実際に傷を負うのはいったい誰なんだと思う。このまま切り捨てられないか不安だ」とつぶやいた。

(文=編集部)

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