中古のスマートフォンを譲り受ける際に必要となる「SIMロック解除」の対応を、9月1日からau(KDDI、沖縄セルラー)が始めたことがわかった。プレスリリースなどは行わず、サポートページが更新され、対応開始が示されていたのだ。

9月1日は総務省が携帯キャリア各社に義務化したSIMロック解除を含むガイドライン「モバイルサービスの提供条件・端末に関する指針」の適用日。 NTTドコモは今年2月、ソフトバンクは8月20日に対応していた。auはギリギリのタイミングで間に合わせた。

 あえてプレスリリースなどを行わなかったことに関して、KDDI広報部は次のように説明する。

 「弊社からは日々、複数案件の情報提供があります。今回はプレスリリースや公式ホームページ上のニューストピックスなど様々な手段を検討した結果、ホームページ上のユーザーサポートページで公開するということになりました」

 実際にauのHPを見てみると、トップ> サポート> サービス別サポート情報 >スマートフォン・携帯電話をご利用の方> お手続き方法のご案内> SIMカードに関するご案内> SIMロック解除のお手続き…となかなかたどり着けない。もともと関心のある人でなければ、気が付かないのではないだろうか。なぜ、こんなに消極的なのだろう。

端末の売り上げに影響も

 大手情報通信会社社員は次のように語る。

 「中古スマホをユーザー間でやり取りされると、新規の端末の売り上げに影響するという危惧は各キャリアとも持っているでしょう。国からの要請であっても殊更、宣伝するべきではないという判断だったのでないでしょうか」

 auでは、これまでユーザー自身による申し込みがあればSIMロック解除が可能だったが、今回の対応によって購入者でなくても中古スマホを譲り受けて使用することが可能になった。

 だが、中古スマホのSIMロック解除の受付はauショップ店頭のみでの対応。

手数料は3000円で、中古スマホのSIMロック解除受け付けは「1日に2台まで」の制限が付いている。また従来通り、ネットワーク利用制限中だったり、分割購入で購入日から100日目以内しか経過していなかったりする場合は受け付けられないなど、そこはかとなくau側の「嫌々」感が漂う。

総務省ガイドラインの背景

 そもそも総務省はSIMロック解除を盛り込んだガイドラインをなぜ打ち出したのか。その背景には携帯電話時代の過当競争があったのだという。

 スマホ評論家の新田ヒカル氏は次のように説明する。

 「携帯電話が全国民に普及していく中で、キャリア各社はまず携帯端末料金を下げていき、月々の利用料で利益を回収していました。ついに1997年ごろには端末代金が0円になりました。ここで問題になったのが、毎年のようにキャリアを乗り換えるユーザーが登場したことです。このままでは各社とも赤字になってしまうのでキャリア乗り換えを制限するようになったのです」

 その後、携帯電話からスマホの時代に変わり、キャリア各社は一定期間ユーザーが使用する前提でサービス全体の価格を安定させていった。最近では、契約者ひとり当たり月々1万円程度の利用料金を負担するのが一般的だ。しかし、これを問題視したのが菅義偉官房長官だった。

 菅官房長官は昨年8月、「携帯電話料金は4割下げられる余地がある」と発言したのだ。

この発言の後、総務省が中心になってSIMロック解除を含めたさまざまな規制を解除する方向で調整をはじめ、ガイドラインが作られることになったのだという。

auは稲盛的経営哲学で抵抗

 新田氏は次のように説明する。

 「確かに大手キャリア3社が、利用者から毎月それだけの料金を得ているというのは、少しあこぎだったのかもしれません。その分、自動車などほかの消費にお金が回らなくなるのも事実です。それでも、官房長官がわざわざ民間企業の料金設定に口を出すのは極めて異例。キャリア各社と関係の深かった総務省も動かざるをえなくなったのでしょう」

 「NTTはお役所的な社風もあり、すぐに政府の意向に沿いました。一方、KDDIは第二電電と京セラの合併によってできた会社ですから、京セラ創業者の稲盛和夫氏の影響が強い。そのためauのサービスでも稲盛流アメーバ経営など『採算を重要視する経営哲学』が実践されています。今回のSIMロック解除はキャリアにメリットがありませんから、お役所の方針に抵抗していたけれど最終的に渋々従ったのでしょう」

 このauの苦渋の決断で、本当にユーザーの携帯電話料金の負担が減ればいいのだが。

(文=編集部)

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