居酒屋「塚田農場」の閉店が相次いでいる。7月は上野店、田町店、イオンモール幕張新都心店、青葉台店、大宮南銀座店の5店舗を閉めた。

6月にも6店、5月も5店を閉鎖している。塚田農場の閉店ラッシュが続いている。

 塚田農場は地鶏を売りとする居酒屋チェーンで、エー・ピーカンパニーが運営する。「宮崎県日南市 塚田農場」「北海道シントク町 塚田農場」など、各地にある養鶏場の所在地を冠した店舗を展開している。

 塚田農場は2007年8月、東京都八王子市に1号店がオープン。本格的な地鶏料理が受け、全国に地鶏ブームを巻き起こした。同社は勢いに乗じて出店攻勢をかけた結果、塚田農場を主体とした地鶏モデルの店舗数は、16年3月期には150店(国内)を超えるまでになった。だが、競争の激化で17年3月期からは減少傾向に転じ、店舗数は減っていった。今年7月末の店舗数は118店となっている。最盛期からは2割以上減った。

 看板業態の塚田農場の衰退で、同社の業績は厳しい状況が続いている。直近本決算の19年3月期連結決算は、売上高が前期比4.5%減の245億円、営業損益が2億9800万円の赤字(前期は3億 3000万円の黒字)だった。

塚田農場が主力の国内外食事業の既存店売上高が7.1%減と大幅に減ったことが響いた。

 塚田農場は先進的な施策を数多く打ち出してきた。しかし、今やどれもが陳腐化している。塚田農場は地鶏居酒屋の先駆けとして大いに注目された。だが、「山内農場」など類似店が増えたことで次第に埋没するようになり、存在感は低下していった。また、「鳥貴族」など手頃な価格で鳥料理を提供する居酒屋が増えたことで、価格がやや高めの塚田農場は敬遠されるようになった。

 来店回数に応じて肩書が変わる「名刺システム」で注目を浴び、それが集客につながっていたが、それも今は昔だ。初回来店時に名刺がもらえ、来店回数に応じて「課長」や「部長」などに昇進するというシステムで、かつては「俺、部長に昇進したんだ。塚田農場で」といった冗談を言うことが流行ったこともあったが、今となってはそういった冗談を言う人はごく一部に限られる。名刺システムは集客に寄与しなくなっており、役割を終えた感がある。

「浴衣姿の女性店員による接客」も評判となったが、今となっては斬新性はなく、集客効果も疑わしい。塚田農場の女性店員は着丈が短い浴衣を着用して接客する。

彼女らによる接客は独特なものがあり、たとえば、皿に「お仕事おつかれさまでした」などとメッセージを書いて出す「メッセージプレート」が話題となった。こうした独特の接客サービスは、会社員を中心に人気を博した。だが、今となってはこうしたスタイルを喜ぶ人は少ないだろう。逆に「それが目当て」と思われることを敬遠する人が増えて集客に支障をきたしている感さえある。

値段の高さがネックに

 こうした独特のスタイルもあり、塚田農場はヘビーユーザーを獲得することに成功した。塚田農場では、半年に4回以上来店するヘビーユーザーが約10万人いるという。一方で、半年で4回未満の来店にとどまるライトユーザー(約100万人)が育っていないことが課題となっている。ライトユーザーは売り上げに大きな影響を与える厚みのある層であり、この層の来店頻度を高めることなどが求められている。

 ライトユーザーを育成することに加え、半年以上来店していない客の取り込みも課題となっている。ある半年間における来店客数は約100万人だそうだが、ターゲットとする層が占める割合は約1割にとどまるという。残り9割をいかに呼び込むかも課題だ。これに対しては、SNS(交流サイト)などデジタル販促で訴求して呼び込んでいく考えだが、成果が出るのはこれからだろう。

 塚田農場は価格の高さが大きな問題となっている。たとえば「宮崎県日南市 塚田農場」の看板メニュー「みやざき地頭鶏 炭火焼」は、一番少ない量の120グラムでも税別880円にもなる。ほかにアルコールを1杯注文したとすると、お通しを含めたすべての支払いは2000円近くにもなってしまう。わずか3品でこの金額は高いと言わざるを得ない。

 同社には、価格の高さを指摘する顧客の声が寄せられているという。「チェーン居酒屋だが、そこそこの値段になる」「ほかの居酒屋と比べて少し価格が高いので頻繁にはいかない」との声があったとしている。

 安くないのであれば、それなりの価値を提供しなければならない。

 商品面に関しては一定程度、価値を提供できているようだ。たとえば、18年10月にグランドメニューを改定した際に、地鶏メニュー「骨付き塚田焼」を新たに投入したところ、これが功を奏して同月の既存店売上高は54カ月ぶりにプラスに転換したという。このことは商品面において新たな価値を生み出すことに成功した事例といえるだろう。ただ、それ以外の面では問題が山積だ。

チープなイメージが定着

 やはり、イメージの低さが大きいだろう。

名刺システムや浴衣接客などのイメージが強く、それによりチープ感が出てしまっており、本格的な地鶏料理を提供することで生じるはずの「本格感」がかき消されてしまっている。実際、「雰囲気を含めて、ややチープな印象があり、30歳になって、あえて誰かを連れていく店ではない。似た価格なら別の店を選ぶ」との顧客の声が寄せられているという。こうした低いイメージが全体の価値を下げており、価格に見合った店とはみなされていないことにつながっているのではないか。

 こうした低いイメージを払拭するために打ち出したのが、昨年3月に東京・中目黒に開いた「焼鳥つかだ」だ。「みやざき地頭鶏」の焼き鳥を提供する居酒屋で、日本を代表するクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏が店舗をデザインした。

 焼鳥つかだは価格が塚田農場よりも高く、それ相応に店舗はおしゃれだ。この焼鳥つかだをテコに、塚田農場などのイメージ向上を図る考えだった。だが、現在の店舗数は1店舗にとどまり、存在感を発揮できているとは言いがたい。波及効果は極めて限定的だろう。

 塚田農場のイメージを上げるには、やはり塚田農場自体の改革が不可欠だ。そこでエー・ピーカンパニーは、改革の一案として「個店志向」を打ち出した。

近年は消費者のチェーン店離れが進んでいると判断し、脱チェーン店化を進める考えだ。店ごとに特徴を出すようにして店に個性を与え、それにより消費者を取り込む狙いがある。

 具体的には、単一フォーマットで画一的に出店するというこれまでの戦略を改め、「会社員商圏」「都心商業商圏」「週末ファミリー商圏」の3つの商圏を設定し、それぞれの商圏に応じてメニューなどを変える戦略を推し進める方針だ。これにより、低価格チェーン店との差別化を図っていくという。

 同社はこうした改革を通じて収益性の改善を図りたい考えだ。ただ、それでも改善が難しい店舗はあるとみられ、不採算店の閉鎖は今後も生じるだろう。塚田農場の閉店ラッシュは当面続きそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。

セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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