結局、何を発表したいのか、まったくわからない会見だった。第4の携帯キャリアとして注目を集める楽天モバイル。
「(料金プランの発表などは)安定稼働が確認できた段階で速やかに実施する。それはもしかすると1カ月後か、3カ月後かもしれない。これは競争の話なので。料金プランはほかのキャリアはマネできない料金体系になるのではないかな」
6日の記者会見で三木谷社長は本格的なサービス開始や料金プランに関して、こう語った。会場からは、「そもそも楽天モバイルは寡占状態の携帯キャリア業界を解消するために、国から認可を得たはず。このまま本格サービスが遅れ、料金プランが発表されなければそれができないのでは」との質問も飛び出した。
それに対して、三木谷社長は強気の姿勢を崩さなかった。
「それは我々の料金発表を待ってほしい。各携帯キャリアは楽天モバイルを警戒した体制だ。
この日の会見でわかったことを整理してみる。
10月から来年3月末まではネットで募集した5000人の「無料サポーター」限定で試験運用を兼ねてサービスを提供する。本格サービスは試験運用の安定性を確認してからになる。料金プランの発表はそれを踏まえて行う。料金面でこの日、明らかになったのはサービスで使用する端末は「SIMフリー」で、いわゆる最低利用期間と契約解除料を撤廃する「縛りなし」ということだけだった。
会見でお披露目された端末は、同社独自開発の端末のほか、サムスンやオッポ、ソニーなどの楽天モバイル用のアンドロイド端末だった。iPhoneに関しては「現時点で個別メーカーさんのお話はできない」とのこと。
一見、計画は順風満帆に見えるが懸念がいくつかある。
例えば、10月のサービス開始時点では東京23区、名古屋市、大阪市で楽天の基地局を用いた通信サービスを提供するが、それ以外のエリアはKDDIのローミングでカバーするのだという。楽天側は通話やSMSなどを複合したアプリ「LINK」をメインに据えたサービス展開を目指しているが、サービス発足当初はKDDI頼みということになる。
これに関して、三木谷社長も会見で次のように発言している。
「他社と接続しないといけないので、他社と接続したネットワークが動くかも確認した上でサービスを始める。まずは助走期間としてやらないといけない。そういう理由があります」
つまり現時点では、KDDIとの提携がネックになっているとみられる。
一方、基地局やネットワーク設置作業の遅れに関する懸念も払しょくできなかった。楽天の武田和徳副社長は、基地局の状況について次のように語った。
「基地局のアンテナとデータセンターを結ぶダークファイバーをつなぐ作業に関しては目標と同様の進捗になった。ひとつひとつの基地局のオーナーとの交渉を経て、現在はダークファイバーをつなぐという段階。
こうした発言に関して、大手情報通信会社の社員は次のように指摘する。
「『NTTの協力を得ながら』という部分が、味噌でしょう。つまりこの発言こそ楽天モバイルの計画遅延の理由なのではないかと思います。」
「業界では次世代の高速通信規格『5G』を整備する上で、基地局から基幹網までつなぐ光ファイバー回線の不足が懸念されています。基地局を増やす場合、これまでNTT東日本・西日本が敷設した未利用の光回線を使う必要があります。何しろ、5Gには大量の光回線が必要ですからね。ところが、その回線がどこにどれだけあるのか、業界各社は把握していません。各社とも手探り状態で確保に奔走しているのが実態です。そこに食い込んでいくのは、容易ではないでしょう」
急かす総務省と動じない三木谷氏また、一貫して強気の三木谷社長の姿勢も危惧される。総務省は楽天モバイルに対して、計画の遅れや新サービスの内容が不明な点について、これまで計3回指導している。
「あれだけ指導されても、三木谷さんがまったく動じないところがすごい。携帯大手キャリア各社の各種規制緩和などは、菅義偉官房長官の旗振りで行われています。楽天の参入を急かすのは、政府が消費増税のタイミングに合わせて携帯料金を値下げさせることを目論んでいるからでしょう。これから、業界は楽天の料金プラン待ちの果てしない持久戦が続きます。狙ったのか、狙っていないのかはわかりませんが、三木谷さんはタフネゴシエーターですね」(前出の大手情報通信会社社員)
ユーザーにとって、サービスの選択肢が増えることは歓迎すべきことだ。だが政府や企業のつば競り合いで、ユーザーを翻弄するのはやめてほしい。
(文=編集部)