表現の自由の範疇なのか。はたまた単純にセクハラを助長する番組だったのか。

 9日、AbemaTVで放送された『おぎやはぎの「ブス」テレビ』内の企画がインターネット上で炎上し続けている。問題になっているのは、同番組の「ブスはいくらで脱いじゃうのか?」というコーナー。いわゆる「ドッキリ企画」で、架空の出版社からフルヌードをオファーされた出演女性がいくらでOKするのかを観察し、最後に番組スタッフがネタ晴らしするというもの。同様のドッキリ企画自体は昔からあるが、ヌード出演交渉が妙に生々しく「金銭で女性の性をやりとりする」というようにとられたようだ。

ヌードをめぐる生々しいギャラ交渉

 番組はどんな内容だったのか。問題のコーナーでは「ブス」と称される6人の女性たちが出演していた。保育園に勤務する栄養士や芸人・地下アイドル、舞台女優など同番組に出演したことのある女性たちで、一般人というわけではないようだった。

 スタッフ扮する出版社の編集長が「面白すぎる素人さん」というテーマで取材を始める。最初に登場した栄養士の女性は同番組に出演したことについて「自分がドラマ(『ブス』テレビの再現VTR)に出ることができるなんて、意外といけるじゃんと思った。(容姿に関して)つらいと思っている人はたくさんいる。私が出演することで、ちょっとでも自分はマシなんだなと思ってもらいたい」と語った。

 その後、編集長役のスタッフが「話は変わるけれど」とフルヌードをオファー。

スタッフが「参考までに3万円とかがリアルな相場なんですが」と生々しくギャラを打診すると、女性は「本気で悩みますね」などと言いつつ栄養士の月給と同じ20万円でOKした。残り5人の女性も同様にオファーを受け、それぞれ0円~1億円のギャラを提示して次々にOKした。コーナーの結びでは「出版社のみなさん。リーズナブルな女の子もいますので、オファーお待ちしてます」というナレーションが流れた。

「人権意識がなさすぎる」

 こうした放送内容にTwitter上では批判が殺到した。セクハラ裁判に詳しい太田啓子弁護士は次のように手厳しく批判した。

「隠しカメラでニセのヌードオファーを撮影という企画が本当なのかやらせ演出かわからないけれど『ヌードのオファーを受けるところをこっそり撮影して反応をさらす』なんてそれ自体セクハラでしょう。セクハラを娯楽コンテンツにすること自体許されない。出演女性が仮に承諾していてもです」

「『ブス』が『お金を払われたら脱ぐんだー』と笑うことの何が面白いんですか。これがどれだけ人間の尊厳を傷つける『笑い』なのかわからないなら娯楽コンテンツなんか作るべきじゃないです。私は一度だけセクハラについてのコメントをするためにAbemaTVに出ましたけど、今激しく後悔しています」

 炎上は放送から数日経ってもやむ気配がなく、今なお次のようなツイートが投稿され続けている。

「こういうの見て他人の容姿は笑っていいものなんだ、バカにしていいものなんだって勘違いする人が沢山いるし、そういう人たちに笑われたりバカにされて心に深い傷を負う人も沢山いる。

大衆のモラルを狂わせて、傷つく人を増やして、何にも良いことない。面白くない。下品」

「ドッキリだから、と誤魔化しているが、この行為自体が、よくある聞く側が楽しみたいだけのセクハラだ。そして彼女たちに求められているのは、ブスとして笑いを取ること」

「他者の容姿をジャッジした挙句、自己表現でもないヌードを人間の尊厳ごと金で買おうとする最低な行為って分かってますか?人権意識がなさすぎる。企画もスタッフも演者も」(いずれのツイートも原文ママ)

BPO審査対象外も、許容超えたか

 果たして、番組の表現は適当だったのか。ちなみに放送倫理・番組向上機構(BPO)によると、AbemaTVのようなインターネット放送局は番組に問題があっても審査対象外という。あるメディア関係者は個人的な見解として次のように話す。

「BPOの審査対象外ではあるけれど、若干、限度を超えてしまったと思います。問題のコンテンツはセンシティブかつセクシャルな内容であることの事前告知もありませんでした。そういう最低限のマナーを守らなければ、20年前のバラエティーみたいなノリは難しいでしょう。ネット上の自由な表現は守られるべきですが、AbemaTVの番組は視聴者が自分の意志で見るYoutuberの個人配信と同じではありません。ネット上といえども、不特定多数が見たくなくても目に入ってしまう可能性がある『テレビ局の番組』を謳うのなら、こうした批判は避けられないでしょうね」

 今回の騒動に関して、次世代メディア研究所の鈴木祐司代表は次のように解説する。

「まずAbemaTVの番組は放送ではなくネット配信。ネット配信に対する明確な規制はありません。番組を見たところ、モザイクのないフルヌードなどは映っていませんので、公序良俗に反してはいないので違法ではありません。例えば、人の身体的な特徴をあげつらって笑いを取るバラエティー番組は地上波でもあります。そのため、これだけがけしからんということにはならない気もします。

 しかし、視聴者の感覚との乖離は著しく、局としての姿勢は問われるでしょう。現在、AbemaTVはBPOの審議対象外ですが、BPO内部にはマスメディアとして一定の影響力を持った段階で審議の対象にすべきとの意見もあります。

 地上波ではできないことをする、そしてしっかり数字をあげるということが、20年前のバラエティーのような古い体質の番組をつくることなのかが疑問です。Abemaは少しずつ成長していますが、いまだに核となる番組をつくれないでいます。現在の視聴者の感覚に即したネットならではの新しい企画をつくらない限り、地上波に追いつくことはむずかしいでしょう」

 ネットテレビにおける放送倫理のあり方が、今後議論を呼びそうだ。

(文=編集部)

編集部おすすめ