ハイデイ日高が運営する中華料理チェーン「日高屋」。首都圏、それも駅前繁華街への出店が目立つため、お世話になっている人は多いだろう。
日高屋の大きなウリは、お手頃な価格設定。例えば、看板メニューの「中華そば」(390円/税込・以下同)に「餃子」(6個230円)をつけ、さらに「キリン一番搾り(生)」(中ジョッキ330円)を飲んでも合計950円と、1000円でお釣りがきてしまうのだ。駅前繁華街という立地面との相乗効果で、人々の“ちょい飲み”ニーズを上手く取り込んでいる。
そんな日高屋の業績はというと、2019年2月期(2018年3月~2019年2月)の営業利益は47億円で、前期比1.1%増。実に16年連続の増益となっているが、一方では既存店の客数が同2.4%減(前期は1.2%増)という現実もあり、近頃の日高屋を好調と見るか不調と見るかは、微妙に評価が分かれているようだ。
そこで今回は、フードアナリストの重盛高雄氏に、日高屋の実態や課題について話を聞いた。
客に“選ばれる価値”に疑問符、そして“選ばれない価値”がある?日高屋は昨年4月に価格改定を行っており、一部メニューが10~30円の値上げとなった。2019年2月期の既存店の客単価は前期比3.2%増なので、客数が減っても売上はしっかり確保できているといえそうだが、この値上げは、日高屋にどれだけ影響をもたらしたのか。
「ご存じのように、日高屋はちょい飲みに定評がありますので、客単価は高くなかったとしても、その代わりに客足を伸ばすことができました。とにかく客が来てくれてナンボ、というスタンスに立っていたわけです。ただ、今回の客離れの本当の原因がなんなのかを、日高屋はきちんと分析できているのか疑問です。
日高屋は駅前への出店を戦略としており、それが集客アップにつながっています。
日高屋では会計時に、麺類やライスの大盛が無料になる『モリモリサービス券』を配っており、これはリピーターを獲得するうえで非常に効果を発揮しているように感じます。また、夏季限定の『黒酢しょうゆ冷し麺』(530円)や、『ごま味噌冷し』(550円)のような季節メニューも取り入れていますので、こういった工夫が日高屋に来店する楽しさを生み出しているのは確かです。
ですが、日高屋でなければ食べられないというメニューの少なさこそが、日高屋の弱みだと思えてなりません。というのも最近は、安いからそこの店に行くというよりは、価格が高くてもそれ相応の味を求めて店を選ぶ人が増えてきています。私も日高屋はときどき利用していますが、ラーメン1杯だけ食べて帰るという人はほとんど見かけませんし、もっと本格的なラーメンが食べたかったら当然、別の専門店に行っているはずなのです」(重盛氏)
日高屋の客数減には、客の消費志向の変化が響いているということか。ほかにも重盛氏は、日高屋の弱点について次のように指摘する。
「日高屋ではタバコが吸えるというのが、客に“選ばれない価値”をつくってしまっているのでしょう。駅前に出店している以上、広い空間を持った日高屋の店舗は、そこまで多くありません。店舗の1階は喫煙だが、地下は禁煙……というようなかたちで分煙にしたとしても、店に入った瞬間にタバコの煙はどうしても流れてきますから、そこで避けられてしまっている感は否めないですね」(同)
“プレミアム日高屋”やデリバリー専門店をつくってみるのも有効?今年5月末の時点で、日高屋の直営店舗数は428(『来来軒』などの別業態も含む)。運営元のハイデイ日高は将来的に“首都圏600店舗体制”を目標としているが、その実現性を、重盛氏はどう判断するのか。
「600店舗の前に、飲食業界では“500店舗の壁”があるとよくいわれています。駅前の好立地な物件の空きがそんなに都合よく出てくるのかという問題もありますし、人材不足の問題もありますので、日高屋が500店舗の壁を克服するまでの道のりは、今のままでは困難だといえるでしょう。
同じ中華料理チェーンということで、日高屋は『幸楽苑』とよく比較されますが、幸楽苑は人通りの多いところに限らず、郊外にも出店しています。日高屋も、仮に駅前ではなかったとしても『この店まで足を運ばないと食べられないプレミアムなメニューがある』といった具合に、新しい店舗展開をしてみてもいいのかもしれません。
要するに、『どこへ行っても変わらない味がある』というチェーン店のメリットが、デメリットにもなってしまっているのが日高屋の現状なのです。一例として『餃子の王将』は、2016年から『GYOZA OHSHO』という女性向けの新コンセプト店舗をスタートしていますが、日高屋もこのように、業態を横方向へ広げるチャレンジをするべきではないでしょうか。今の日高屋は、殻を破るのを恐れているような印象を受けます。
なお、餃子の王将といえばデリバリーサービスも行っていますので、その向こうを張り、日高屋がデリバリー専門店をオープンしてみても面白いですね。それなら駅前に出店する必要はなく、イニシャルコストも抑えられます」(同)
とはいえ日高屋も、ただ黙っているわけではなく、新たなアプローチを少しずつ始めているようだ。
「日高屋は店頭で、持ち帰り用の冷凍餃子を販売しています。これなら店舗の手間や人件費をかけなくても販売額を上げることができ、今年10月の消費増税を迎えたあとでも、軽減税率の対象となる。これが通販ですと、送料がかかってしまうので割安感がなくなりますから、『日高屋の味をご家庭で』という戦略を今後どこまで浸透させていけるのかは、ひとつの注目ポイントでしょう。
それと、日高屋では券売機の導入も進めているところです。これにより店員の負担を軽減し、オペレーションを改善できるわけですが、もし日高屋の券売機がこれからQRコード決済に対応すれば、こちらにも軽減税率が適用されます。また、券売機なら多国語表示にすることもできるため、来年開催の東京オリンピックをにらんだ施策も打ち出せるのではないでしょうか。
そういった意味で先行しているのは、牛丼チェーンの『松屋』。券売機でのQRコード決済や多国語表示はもちろんのこと、一部のセルフサービス店舗では、生ビールやハイボールといったアルコールメニューは、機械にお金を入れて自分で注げるシステムになっています。
日高屋をちょい飲みで利用する客がお酒を1杯しか飲まないというケースは少ないですし、こうした部分で店舗コストを削減しつつ、よりクオリティの高い商品を提供していけるようになれば、客には今まで以上に喜ばれるはずです」(同)
最後に重盛氏は「日高屋は、よその大手チェーン店などの“いいとこ取り”を考えていく必要があります」と語る。日高屋がさらなる成長を期すには、決して守りに入ることなく、昨今の時流を乗りこなさなければならないのだろう。
(文=A4studio)