東京電力ホールディングスは、経営トップの眼が原子力発電所の再稼働にだけ向いているから、このような大規模停電という深刻な事態を招いたのではないのか。
送電関連の設備投資の抑制による鉄塔・電柱の老朽化が、倒壊につながったとの指摘が出ている。
内閣改造を遅らせてもいいくらいの被害だったのに、官邸ならびに経済産業省、国土交通省などの動きは鈍かった。初動の甘さが「台風1週間 停電7万戸」(9月17日付毎日新聞)につながり、復旧は最長で9月27日までかかる見込みとなっている。しかも、同日に完全に復旧するとは確約していない。
“タレント知事”の行政能力のなさという要素も加わり、千葉県民はダブルどころかトリプルパンチを見舞われる悲劇となった。
問題の千葉の森田健作知事。県民、市民が苦境に陥っているときは、まったく役に立たない。タレント知事の限界がモロに出た。千葉県が推進してきたといわれている“水に浮く太陽光発電”も火を噴いた。「停電対応は票に結びつかないからやらないのか」(房総半島南部の自治体に住む住民)と、怒りの声があがっている。
台風15号が関東地方に上陸し、千葉市で最大瞬間風速57.5メートルを観測した。電柱は通常、経済産業省の「電気設備技術基準」(1997年に制定)に基づき10分間の平均風速が秒速40メートルの風に耐えられるよう設計されているはずだが、今回は40メートル以上の強風が吹き、多数の電柱が倒壊した。ちなみに、台風の通り道となっている沖縄電力では同60メートルという、独自の基準を設けている。
その結果、千葉県南部を中心に最大93万軒が停電した。東日本大震災以降で東電では最大規模の停電となった。千葉県君津市では、高さ57メートルと45メートルの送電線の鉄塔2基が倒壊し、これが10万軒の停電につながったという。この2基の倒壊が確認されたのは9月9日になってからだ。
設備投資費用を削減していた東電東日本大震災の原発事故で経営が厳しくなった東電は、送電関連の設備投資を極端に絞っている。送電や配電設備に1991年には、およそ9000億円が投じられていた。ところが2015年は2000億円にとどまっている。単純計算で2割強だ。
大手電力各社は20年4月までに送電部門を別会社にする。少子高齢化はさらに進むので電力需要は縮む。別会社になれば、今まで以上に送電設備への投資は難しくなるだろう。原子力発電所の安全対策費が膨らむため、ほかを削らざるを得ないという苦しい台所事情もある。
政府は大手電力10社がそれぞれ保有・運営している送配電設備の仕様の統一に着手した。災害発生時に、他社がストックしている資材(部材)を使えるようにするのが狙いだ。仕様を統一すれば大量調達が可能になり、コストは下がる。
しかし、電力各社が原子力ばかりに目を向けて、電力事業の根幹ともいえる送電設備の投資を抑制するのであれば、まさに本末転倒である。経営の効率化と災害対策の強化を同時に進めることが、電力会社のトップに求められる経営力ではないのか。「経済合理性」という言葉の魔力に酔って思考停止に陥っているとしたら、それは悲劇ではなく、もはや喜劇だ。
東電の子会社、東京電力パワーグリッドの塩川和幸技監は9月12日の記者会見で長期化する停電について「被害想定の見通しが甘く、反省している」と陳謝した。同社は大規模停電が起きた翌日の9月10日時点で、千葉県内で最大64万軒だった停電軒数を11日未明までに12万軒に縮小し、11日中に全面復旧するとの目標を掲げた。しかし、日を経るとともに全面復旧の見通しは後にズレ込み、とうとう9月27日までかかるとした。東電は9月18日現在、9月27日に全面復旧できるかどうかについては、明言していない。
千葉市の熊谷俊人市長は「楽観的な見通しを発表することは被害者のためにならない。
不思議に思うのは、東電の川村隆会長や小早川智明社長が出てきて、見通しの甘さについて反省の弁を、なぜ述べないのか。子会社の責任とばかり、知らん顔を決めこんでいて、いいのか。森田知事もそうだが、東電のトップも自覚が足りないように映る。
電力各社の送電施設の整備は1970年代に進んでおり、更新時期が迫っている。送電線の鉄塔は70年代に建てられたものがほとんどだといわれており、千葉県君津市の鉄塔は72年に完成したものだった。東電管内の鉄塔の平均使用年数は42年。電柱の地中化は台風対策として有効だが、電柱を地中化するのは1キロメートル当たり4~5億円かかるといわれる。
大規模被害が起こるたびに「100年に1度のこと」と釈明しつつ、責任逃れを始める。だが、小泉進次郎環境相が言ったように「天災は忘れたころではなく、毎年やってくる」ものだ。老朽化したインフラ対策は政府の責任である。同時に、東電だけではなく、関西電力、中部電力ほかの各電力会社の備えは十分なのかが問われている。
(文=編集部)