大塚家具の存立が風前の灯火だ。2018年12月期に3期連続赤字決算となった後もなんの打開策も打ち出せないまま、9カ月近くを空費した結果、いよいよ運転資金が底をつき始めている。

ヤマダ電機との業務提携や中国ビジネスに活路を求めたが、その成果が出るにはまだ時間がかかりそうだ。その前に資金繰りに窮するのは必定。度重なる失敗から何一つ学んでこなかった大塚久美子社長は論外として、彼女の無為無策ぶりを目の当たりにしてきた取締役や社員たちは今、いったい何を思うのだろう。

毎月4億円資金流出、もって来年1月か

 大塚家具の現状を客観的に説明するために、まず8月9日に発表した2020年4月期第2四半期決算のバランスシートから復習しよう。

 現預金は2019年6月末で31億円、2018年12月末が32億円なので、6カ月間による最終赤字24.5億円の割には一見、現預金の流出が少ないようにみえるが、さにあらず。キャッシュフロー計算書からこの間の目ぼしい資金の出入りを見ると、増資資金26億円が入っているのが目を引く。これ以外にも店舗閉鎖に伴い差入補償金の戻り分が3億円弱あるが、それは原状回復のために使う分もあるだろうから、ざっと半年間で26億円をすったとみれば、平均すると毎月4.5億円の現預金が流出している勘定になる。

 一方で、短期借入金が13億円ある。2018 年7月に短期の運転資金への補填を目的として実施したクレジットカード会社向け売掛債権の流動化による資金調達をした分で、2019年7月に期間満了に伴い、13億円で売掛債権の買戻しをした。つまりその分、お金が出て行った。その結果、31億円から13億円を引いた18億円の現預金が残る。その後、同様の手法で一部を調達した、と決算発表の際に大塚社長は明言している。

 仮にこの調達金額が10億円だとしよう。その場合でも7月末の現預金は18億円+10億円で28億円。おそらく7月以降も月間4億円ペースの赤字で同額の資金流出が続いていくだろうから、7カ月で資金は底をつく。つまり、来年1月がタイムリミットとなる。調達した資金が10億円より少なければ、もっと早く資金は枯渇する。

事業の継続性の注記で借金は不可能

 10月からの消費増税により多少の駆け込み需要はあるだろうが、それより10月以降の買い控えのほうが耐久消費財の小売り業界には重くのしかかる。つまり1-6月期と同様に、月間4億円程度の赤字とみていいだろう。

 というのも、大塚社長は中間決算発表の時に、「費用面の構造改革は終わった」と公言し、コスト削減経営の終焉を高らかに歌った。単月黒字すら果たしていないのにである。社内では「セールスでの集客と粗利向上」という相矛盾する施策を叫んでいるようだ。それは何も言っていないのに等しく、したがって赤字経営が続いているのは確実とみていい。月間既存店売上高が多少改善しているとはいえ、前年並みが精いっぱいの水準では黒字化は無理だろう。

 枯渇に備えて資金調達を模索しているようだが、銀行借り入れは無理だろう。経営の継続性について重大なリスクがあると監査法人が見て、ゴーイングコンサーンの注記が付いている以上、普通の銀行は貸してくれない。7月に大塚家具に商品を納めている納入業者を集めた場で、社長が「株を買ってもらえないか」とお願いしたというが、ひょっとすると、借金のお願いまでする可能性はあるのではないか。だが、納入業者からすれば、「取引を現金払いにしてほしい」という要望が先だろう。

反省なき大塚社長に付ける薬なし

 無策な経営に付き合わされている社員たちは気の毒ではある。が、3年連続赤字でさらに今年も同じ状況に陥っているのだから、変革しようとする議論が社内で起こってもおかしくない。なぜそうならないのだろうか。経営に問題はない、ということで、異論を封じ込めているからだという。

 大塚社長は決算発表でも「去年大幅値引きセールをやった反動」「風評被害に会った」「システム改善でバグが出たので遅れた」という具合に、他人のせいにするのがとても得意で、自分の施策を顧みたり反省したりすることはないそうだ。というか「心底、他責要因で会社が悪くなったと思っているからついていけない」(大塚家具を辞めた社員)という声も聞く。残っている社員も薄々わかっているが、“姫”と心中してもいい、という思いなのだろうか。

 取締役はもう少し重い立場にあるのではないだろうか。

もっとも社内取締役に多くを期待するのは無理だという声もある。NO.2の佐野春生専務執行役員は大塚社長の妹婿で、長年商品調達を取り仕切ってきた。社内で「ブラックボックス」と言われる在庫の山について、責任を問われるのを恐れている、という見方もある。他の2人も社長の顔色を窺っているだけ、というよくあるタイプの取締役のようだ。

手を拱いている取締役に株主代表訴訟リスク

 社外取締役は住友商事やトヨタ自動車の要職に就いてきた人たちで、大塚家具の経営実態はお見通しであるはずなのに、何をしているのだろうか。中国ビジネスについて大塚社長とあれほど蜜月ぶりだった陳海波取締役は、社長との間に隙間風が吹いているようだ。

「社外から呼んできた人たちと最初は関係はいいが、彼女の本当の姿がわかってくるとみんな退いていく。これまでもそうだった」(社内関係者)

 一部報道では、大塚家の資産管理会社で大塚家具の筆頭株主だったききょう企画は、銀行借り入れの担保として保有株を差し出していたが、銀行が担保権を行使してこの株を売却した。すでに大塚家は大株主ではなくなっているのだ。再建に失敗したうえ、銀行に株式を巻き上げられ、中国の出資者と隙間風が吹き始めた大塚社長はすでに社内外で孤立を深めている。

 それでも取締役の責任は免れない。内部情報に接する立場にいて、時々刻々と経営が悪化していく状況をわかっているだろうから、不作為のまま不測の事態に陥った場合、善管注意義務を問われることになりかねない。

取締役に対して株主代表訴訟が起こらないとは限らない。社長の道連れとなる人が少ないことを祈る。

(文=山口義正/ジャーナリスト)

●山口義正

ジャーナリスト。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞記者などを経てフリージャーナリスト。オリンパスの損失隠しをスクープし、12年に雑誌ジャーナリズム大賞受賞。著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)

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