選手たちが競技環境の改善などを訴えたことに端を発する全日本テコンドー協会の内紛は、いまだに収束する気配がない。

 9月17日から強化選手を対象とした合宿が予定されていたが、招集された28人中26人が強化体制に対する不満を訴え、参加を拒否する異常事態が発生した。

選手生命を賭して協会の不透明な実態を告発したのは、全日本選手権8連覇中の江畑秀範選手(スチールエンジ)。

 江畑は、強化合宿への参加費が非常に高額であるため、選手にとって大きな負担となっていると協会に訴えたところ、合宿に参加できないなら強化選手から外すと脅されたことを明かした。

 また、国の補助金として協会に支給されている「選手強化費」が適正に運用されているのか、疑問を投げかける声も高まっている。

 選手たちの一斉蜂起ともいえる事態を受け、シドニー五輪銅メダリストでテコンドー協会副会長の岡本依子氏が、金原昇会長をはじめとする理事の総辞職を提案したが、8日に開催された理事会で否決された。

 岡本氏は「陰で(支援すると)言ってくれる人はいるんですが、声を上げる人がほしい」と、理事会などでは金原会長を恐れて理事たちが委縮している様子を示唆した。さらに、代表監督ら強化スタッフ3人を解任することを決議。これは金原会長らによる“とかげのしっぽ切り”だと批判が起きている。岡本氏と、同氏に同調した高橋美穂氏は理事の辞職を申し出たという。10日には、一部のテコンドー協会員から、全理事の選び直しを求める動きが出ているとの報道も出てきた。

 一連の騒動を受けて、ネット上を中心に岡本氏を中心として分裂したほうがいいのではないか、という声が多く見られるようになった。

分裂と合併を繰り返すテコンドー団体

 実は、テコンドー協会では5年前にも金原会長を中心とした執行部に異を唱え、2つに分裂した経緯がある。

「2012年、JOC支給専任コーチ謝金不正使用があったとしてJOC第三者特別調査委員会報告に基づいて金原会長が処分を受けました。

その後も補助金の一部が金原会長に渡っていたことが判明するなど、不正経理が改善されなかったことから、13年にも内閣府が2度目の是正勧告を出しました。それでも事態が改善されることはなく、それどころか公益財団法人の資格を返上して一般社団法人となり、国の厳しい監査から逃れたのです。行政の指導を無視し、金原会長が居座る状態に反発した武田正博氏を中心に、全日本テコンドー連盟が立ち上げられたのです」(スポーツ紙記者)

「テコンドー協会では、これまでにも金原会長に異を唱えた人物はいましたが、ことごとく“排除”されてきました。特に実際に競技を経験してきた人たちからは、選手たちが競技に集中するための環境を整えてほしいという要望が出されてきましたが、それらが叶えられることはなく、さらにそのような声を挙げた人たちは協会から追放されてきたのです。そのため、現在の協会の幹部や指導部は競技未経験者ばかりになってしまいました。岡本氏には、数少ない元選手として選手ファーストの施策が期待されていましたが、やはり金原会長シンパで固められた幹部に弾き飛ばされたかたちです」(テコンドー協会関係者)

 岡本氏は、改革を果たせなかったことに責任を感じて辞職を申し出たが、一連の騒動を受けてJOCが協会に対する調査を始めた。また、橋本聖子五輪担当相も「協会が選手と向き合い、健全な運営ができる努力をしていただかないと始まらない」と苦言を呈し、世間の注目度は増している。さらに、今までもテコンドー連盟はテコンドー協会に代わってJOCへの加盟を働きかけていたが、その動きが活発化する可能性もある。

 テコンドー協会は、これまでにも何度も分裂と合併、内部対立から再分裂という歴史を繰り返してきた。2004年のアテネ五輪では、岡本氏が出場権を獲得しながら、団体の統合問題に巻き込まれ出場が危ぶまれた。最終的に個人資格での参加が認めれたが、そのような経験があるからこそ岡本氏は、協会内部から選手のための環境改善を図りたいとの思いは強かったはずだ。

 現在、世界のテコンドーは大きく世界テコンドー連盟(WTF)と国際テコンドー連盟(ITF)に分けられ、日本国内では全日本テコンドー協会と全日本テコンドー連盟がWTFに属する。

ちなみに、国内のITF派は、日本ITFテコンドー協会、日本国際テコンドー協会をはじめ、中小の団体が多数存在する。

 テコンドーの歴史は70年ほどしかないが、競技団体は頻繁に分裂や合併を繰り返してきた。今回の騒動も、その一端でしかないのかもしれない。

(文=編集部)

編集部おすすめ