プロ野球のSMBC日本シリーズは、福岡ソフトバンクスホークスが読売ジャイアンツ(巨人)を4連勝で退け、球団初の3連覇を達成した。
巨人は4試合を通じてほとんど主導権を握ることなく、勝機を見いだす希望すら与えてもらえなかった。
この4連勝を見たプロ野球関係者たちからは、ソフトバンクの強さを称賛する声が上がると同時に、セントラル・リーグとパシフィック・リーグの間に厳然たる実力差があるとの指摘が圧倒的に多い。
事実、セパ交流戦の実績を見てみると、2005年の開設以降の15年間で、パリーグチームは通算1098勝で優勝は12回、セリーグチームは通算966勝で優勝は3回。セリーグ側か勝ち越したのは、わずかに09年の1回のみ。特にソフトバンクは8回優勝と、12球団のなかでも群を抜いた強さを見せている。
だが、果たしてセリーグとパリーグの格差だけが問題なのだろうか。両リーグの格差というより、むしろ“ソフトバンク1強”となっている点のほうが、より深刻な問題を抱えているのではないか。
かつて、巨人がV9を達成した際も当然“巨人1強”だったが、多くのスター選手を抱え、球界の盟主として君臨する巨人にほかの球団を立ち向かうという構図が、ファンを熱狂させた。しかし、今はそんなわかりやすい構図で国民が納得する時代ではない。
CS不要論が再過熱しかも、ソフトバンクが“真の1強”ではないことも、多くのファンの不満を呼んでいる。「3年連続日本一」の称号を手にしたソフトバンクではあるが、プロ野球ファンからは「単に短期決戦に強いだけ」との揶揄も聞かれる。確かに、18年、19年と2年連続でパリーグを制したのは埼玉西武ライオンズだ。
そのため、「本来の日本一とは、半年にわたる長いペナントレースと、短期決戦の日本シリーズを両方制したチームではないのか」と、ペナントレースで敗退したチームが日本一を唱えることに疑義を呈する声が多方面から上がっている。過去にも、10年の千葉ロッテマリーンズや17年の横浜DeNAベイスターズがシーズン3位から日本シリーズに進出した際には、CSという制度に疑問を投げかける声は上がった。
だが、1位チームにアドバンテージを付与するなどの調整の結果、CSが両リーグに導入された07年以降の13年間で、日本シリーズに進んだのべ26チームのうち20チームがシーズン1位となっており、CS不要論は弱まってきていた。
そんななかでソフトバンクの短期決戦の強さが際立ち始め、あらためてCSの見直しを求める声が出てきているのだ。とはいえ、大規模なアンケート調査が行われていない現状では、CS容認派と否定派がそれぞれどのくらいいるのかは定かではない。
ソフトバンクが巨大戦力を保持しているのは確かだが、巨人も大きな戦力を持っている。毎年多額の費用を投じて他球団からFA選手などを引き抜いている。さらに、ソフトバンク、巨人、広島東洋カープの3球団は、3軍まで保有して数多くの育成選手を抱えている。3軍は練習用球場や選手の人件費などを考慮すると莫大な費用がかかるため、ほかの球団は導入していない。その3軍を保有する3球団のうち、広島とソフトバンクは育成面で成功しているといえる。
特にソフトバンクは、エース・千賀滉大や昨年の日本シリーズでMVPを獲得した捕手・甲斐拓也をはじめ、今年の日本シリーズで代走として巨人を攪乱した周東佑京など、育成出身の選手が多数1軍で活躍している。一方、巨人は山口鉄也、松本哲也以降、目立った育成出身選手はいない。それどころか、巨額投資によって獲得した選手が軒並み活躍できずに終わっている。今年、シーズンを通して活躍した丸佳浩は補強の“珍しい成功例”といえるが、その丸もキャプテン・坂本勇と共に、日本シリーズでは13打数1安打と極度の不振に陥り、“逆シリーズ男(シリーズの敗因)”という不名誉な称号を与えられている。
ソフトバンクはCSの第1ステージ第2戦から、破竹の10連勝で一気に頂点へと駆け上がった。今のソフトバンクを短期決戦で倒すことができそうなチームが、ほかの11球団のなかに見当たらないのが現状だ。そんな事情が、CS不要論を過熱させているのだ。
(文=江田和夫/スポーツジャーナリスト)