即席麺業界のトップに君臨する日清食品が「完全栄養食」をうたう即席麺「All-in NOODLES」を発売した。特殊な製法により、これだけで1日に必要な栄養分を摂取することができるという。
食品業界では静かなブームとなっており、「日経MJ」(日本経済新聞社)が発表した「2019年上期ヒット商品番付」にもランクインしている「完全栄養食」。そもそも、完全栄養食とはどのようなものなのか。明確な定義はないが、厚生労働省が基準とする、1日に必要な栄養素の3分の1が1食に含まれている食品を指す。そのため、1日3回食べれば、それだけで1日に必要な栄養素を摂取できるというわけだ。これまで、水に溶かす粉末やグミ、パスタなどが発売されている。
日本においてブームの火付け役とされているのは、BASE FOODが開発した「BASE PASTA」。2017年2月に発売され、1分で茹で上がる生パスタながら「世界初の完全栄養パスタ」とうたっている。発売直後から話題を呼び、20~40代を中心にヒット。累計49万食を売り上げているという。また、パスタ以外のさまざまな味付けで食べられるように改良した「BASE NOODLE」も19年7月に発売されている。
これに対抗するように、19年3月に日清は同じく完全栄養食パスタ「All-in PASTA」を発売。
そんななか、日清は8月にまぜそばタイプの完全栄養食「All-in NOODLES」を発売した。「All-in PASTA」と同様にカップ麺タイプのものがあり、味は「油そば」「トムヤムまぜそば」「坦々まぜそば」の3種類。値段は600円(税別)で、まとめ買いすると安くなる。
今回、これを実際に3日間(9食)食べ続けてみた。味は公平に3種類それぞれ3食ずつ。ちなみに、筆者は完全栄養食自体が初体験だ。記念すべき1食目は、味が無難そうな「坦々まぜそば」から検証を始めた。
まず、蓋を開けた瞬間にふんわりと磯の香りがする。おそらく、麺に含まれているビタミンやミネラルなどの栄養素のにおいだろう。明らかに普通の乾燥麺のにおいではない。
袋に入っている、かやくや液体スープ、ほぐし液を取り出し、お湯を注ぎ、蓋をして6分間待つ。その後、カップ焼きそばのようにお湯を捨て、ほぐし液やスープを入れて混ぜる、というのが基本的なつくり方。これは、ほかの2種類の味も同じだった。
「坦々まぜそば」は、一見すると普通の汁なし担々麺と同じ。前述したにおいと色味に躊躇するが、食べてみると意外においしい。しっかりと味がついていて、山椒の辛さもほどよく効いている。
「これはイケる」と食べ進んでいったが、肝心の麺がボソボソとしていて口当たりが悪い。一口目は気にならなかったが、噛みしめるごとにそのボソボソ感が際立ってくる。最初は気にならなかった磯の香りと青臭さも、徐々に調味料の味をさらっていく。
正直、おいしかったのは一口目だけで、その後はまさに「栄養食」と思わなければ食べ進める気が起きなかった。意外に量も少なく、空腹が満たされることもないので、満足度がさらに低くなる。
空腹を抱えつつ、昼に食べたのは「油そば」味。もちろん麺は同じでボソボソするが、油そばの味自体は完成度が高かった。それだけに、この味を普通の麺で食べたらどんなにおいしいだろう、とも感じた。
さて、初日の締めは「トムヤムまぜそば」味。ちなみに、筆者はトムヤムクンとパクチーが苦手である。調理を済ませ、意を決して口に入れたが、かなりパクチーの風味が強い。加えて、あの独特な酸味と麺の味が口内を襲う。普通なら残したくなるレベルだが、検証のためだと思い、食べきった。もちろん腹は膨れず、満足感を感じられぬまま初日は終了した。
常に空腹、集中力が続かない…このように、3日間すべての食事を「All-in NOODLE」で生活してみた。理論上、栄養素は補えているはずだが、常に空腹感を感じ、そのせいもあってか集中力が続かなかった。
正確に体重を測ったわけではないが、職場の同僚からは「痩せた?」と声をかけられることも多かった。
話題性の高い完全栄養食だが、そのわりに“静かな”ブームとなっているのは、やはり現段階では主食となるまでのレベルに達していないからではないだろうか。ただ、最近は「食事をすることが億劫」という人も増えているようなので、こうした完全栄養食をうまく利用して、ほかのことに時間を割くという生き方もアリなのかもしれない。
(文=沼澤典史/清談社)