映画の世界的問題作『ジョーカー』の勢いが止まらない。10月29日時点で世界累計興行収入は7億8810万ドル(約857億円)にも及び、R指定映画の興行収入ランキングで史上トップに躍り出た。

日本にも人気は波及し、10月27日時点で興収は約35億円、国内映画ランキングでは公開から4週連続首位に。まさに国内外において2019年を象徴する映画となっている。

 しかし、誰もが絶賛しているかといえば、そうではない。R指定ということで一部過激なシーンが含まれるが、それよりも議論の焦点となっているのはその内容だ。ストーリーは人気アメリカンコミック『バットマン』に登場する悪役、ジョーカーが生まれた経緯を悲惨な境遇と社会問題等を織り交ぜながら追うものだが、考えれば考えるほど観る者の気持ちが混沌とする、“不気味な映画”といえる。

 そこで、本作を観賞した映画業界関係者4人に『ジョーカー』がなぜヒットしたのかを分析してもらうと同時に、本編の感想を存分に語ってもらった。

※以下、一部に映画の内容に関する記述があるため、閲覧にご注意ください。

『ダークナイト』の文脈により期待値アップ

A 僕は公開1週間後に観に行ったんだけど、周りから「早く観に行け! 早く語ろう!」ってプレッシャーがすごかった(笑)。

B 映画ファンが好きそうな映画だもんね。女子ウケはしないだろうからデートには向かないけど……。うちの嫁さんもかなり引いてたもんなー。

C 映画通が「面白い」と言うのはわかりますけど、どうしてそれが世界的大ヒットになってるかって話ですよね。

単純に見れば内容は社会派だし、小難しいじゃないですか。

A そうなんだよ。僕もぶっちゃけ、「なんで、みんなこれ観に行くんだろう」って思ったもん。ワクワクする要素はないし、大衆はどうせならスカッとするものを観たいはずじゃん。

B やっぱり話題性による部分が大きいと思うよ。本作の後日譚的エピソードに位置する『ダークナイト』(2008年公開)で、ヒース・レジャーが演じたジョーカーがアカデミー賞を受賞しているんだけど、受賞前にヒースは死んでしまったこともあって、ある意味、伝説的な存在になっている。そのジョーカーを新たにホアキン・フェニックスが演じる。これが触れ込みとしては大きいと。

A 確かに『ダークナイト』の文脈はあるか。あれも世界的にはすごくヒットしたからね。

C でも、日本では興収16億円ですか。そこまでじゃないですね。

日本だとその文脈を知らない人も結構いそう。

B それと日本公開前に入ってくる、海外の雑誌とかのレビューの高さ。ジェットコースタームービーじゃなくて社会派映画としての評価だけど、どこも大絶賛だったよ。

C 日本の場合、その前評判の高さとか、話題になっているということに釣られて行く人が多いそうですね。僕も『ダークナイト』を観てないし、今回もあえて何も調べず予備知識ゼロで行ったら、思ってたのと全然違った。勝手にホラーエンタメを想像してたんですが……。

A 『IT』と混同してるじゃん(笑)。まあ、でもそういう人もいるのかな。

『君の名は。』から続くSNSの口コミ力

C 僕が観に行った公開3週目にいたお客さんは、ピンときてない人が多い印象でした。エンドロールの段階で4分の1くらいは席を立ってましたし、館内が明るくなっても、若い女のコの「よくわからなかった~」って声がチラホラ聞こえました。

A ほかに足を運びたくなる要素は、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞してることが挙げられる。

B ヴェネツィアやトロントの国際映画祭に出して、賞を取って箔をつけてからアカデミー賞を狙うのが最近のトレンドみたい。

A そうなんだ。ただ金獅子賞を取ったことがフィーチャーされてるかといったら、そうでもない。やっぱり口コミによる影響が大きい気がする。

D 結局、予告のつくりが秀逸で、「なんか、この映画ヤバそう」と思わせることに成功できたというのが、多くの人の足を劇場に運ばせた大きな要素だと思う。内容的には全然ヤバイ映画じゃないし凡庸とすらいえ、こんなに騒ぐほどの作品ではないよ。僕的には日本で同時期に公開されているクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のほうが断然いいと思うけど、やっぱりタランティーノの映画って内容的に“予告がしずらい”から、興収も『ジョーカー』に全然およんでいない。“予告がしやすい”作品だという面も、『ジョーカー』がヒットしている要因としては大きいんじゃないかな。

B あと、SNS映えする作品ではある。キービジュアルのインパクトがあるから、その画像をタイムラインに投稿するだけで、見てるほうは「どんな映画なんだろう」って気になっちゃう。

C SNSで拡散されると、すぐですよね。今日本ってすごくミーハー化してるような気がする。

昔って、もうちょっとはやりものに対してドライじゃなかったですか?

B タピオカもそうだもんね。はやったらすぐに食いつく。さすがSNS全盛時代。

C 『君の名は。』あたりからそういう傾向が強くなってるような。『カメラを止めるな!』も指原(莉乃)がツイッターで絶賛したら人気に火が付きましたし。今回も誰か芸能人がきっかけになってるんじゃないですか?

A いや、それはないと思うけど……(笑)。

B 確かに国内におけるここまでの大ヒットは、ミーハー要素もあるけど、内容的に僕は絶賛に近いよ。

C それでは前置きはこのくらいにして、そろそろ内容の話をしましょうか。

(構成=編集部)

※後編はこちら

『“退屈な映画”「ジョーカー」空前のヒットの謎…エンタメ性皆無ゆえの絶賛と批判』

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