「マラソン自体をやめたほうが良いのではないか」という声も日に日に大きくなってきた。東京都と国際オリンピック委員会(IOC)、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会、政府のトップ級協議が1日、都内で開かれ、五輪のマラソン・競歩の開催地を東京から札幌に変更することを決めた。

東京の猛暑から選手守るために、IOCが急遽方針を変換したことで日本中が大混乱だ。もはや誘致時に日本が盛り上がった「コンパクトオリンピック」「復興オリンピック」「おもてなし」という美しい開催テーマの数々は、記憶の果てに追いやられて久しい。しかも、新開催地の札幌は「暑い」という意見も聞かれる。

 事の発端は9月下旬に中東カタールのドーハで開かれた陸上の世界選手権の女子マラソン大会だった。この大会では暑さのために途中棄権が続出した。東京は高温に加えて、高い湿度も懸念される。改めて選手のコンディションを重視したIOCは10月16日、マラソン・競歩の札幌開催を表明。だが、暑さ対策を重ねてきた東京都の小池百合子知事は猛反発。30日からIOC調整委員会との会議でマラソンの未明スタート案を示すなどして、東京開催を求めていた。

 そして1日、小池知事は「同意できないが、IOCの決定を妨げることはしない。合意なき決定だ」と同意も合意もしないが受け入れるという説明をして決着がついた。

「ところで札幌も暑いのだが」

 今回の決定に、Twitter上では疑問の声が相次いでいる。

そんな中、こんな意見も散見される。

「夏の札幌 思うよりも暑いからなぁ~ 知らんからねぇ…こんなに暑いと思わなかったとか言っても」(原文ママ、以下同)

「札幌じゃ暑いから稚内でマラソンやんなよ。宗谷岬スタートで稚内市街地まで35キロくらいあるでしょ。西海岸回ってノシャップ岬経由で市街に帰ってくればいい具合に42キロくらいじゃない。風景もいいしさ。風は強いけど」

「マラソン札幌開催とか言ってますけども…。北海道っていうだけで涼しいみたいな考えはいかがなものかと…。夏は普通に東京より暑い日もあるからね…」

札幌で一番暑い時期

 実際、どうなのか。気象庁のデータを検証し、札幌管区気象台に聞いてみた。

 マラソンと競歩が予定されているのは7月31日、8月2日、7日、8日、9日だ。参考までに今年の東京と札幌の気温と湿度のデータを見てみよう。

※最高気温、最低気温、平均湿度の順(気象庁の観測データより)

7月31日 札幌: 32.4℃   26.0℃ 69%    東京: 34.6℃ 26.5℃   81%

 8月2日  札幌: 34.2℃ 23.0℃ 72%    東京: 35.1℃ 27.1℃ 80%

  7日  札幌: 30.4℃   23.4℃   77%    東京: 35.6℃ 26.7℃ 74%

  8日  札幌: 25.0℃ 21.5℃   90%  東京: 35.5℃ 26.0℃ 78%

  9日  札幌: 25.0℃ 19.5℃   83%    東京: 35.6℃ 26.2℃ 74%

 最低気温で見ると、全体的に札幌は東京より涼しい。

特に8~9日は、札幌は雨のち曇りで涼しかったようだ。一方で、晴天時の最高気温は札幌、東京ともに30℃を超えている。平均湿度も8月に入ってからはどちらも70%越えで札幌、東京ともに変わりはない。

 札幌管区気象台の担当者はこの時期の札幌の天気を次のように解説した。

「最高気温が30℃未満の日はオホーツク海高気圧の配置によって、冷たい空気が札幌に流れ込んでいました。同高気圧の配置によっては、来年のマラソン・競歩競技が開催される日が涼しくなる可能性があります。しかし太平洋高気圧の配置的にちょうど8月2~4日にかけて札幌の気温は一番高い時期です。当日、この気圧配置がどうなるのかは誰にもわかりません」

 札幌市消防局が発表したデータによると、7~8月、同市の熱中症の疑いによる搬送者数は227人だった。決して油断できる数字ではないだろう。選手の熱中症対策として相当数の医師や看護師など、医療ボランティアの確保が必要だ。札幌市はこうした医療ボランティアに加え、警備要員の確保、コースの選定など難しい課題を急ピッチで解決しなければならない。五輪開催まですでに1年を切っている。

準備は間に合うのだろうか。疑問は尽きない。

(文=編集部)

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