民放地上波の連続ドラマが刑事ドラマや医療ドラマばかりになりつつあるなか、意欲作は深夜枠や配信に移行しつつあり、その流れは年々強まっている。

 かつては制作能力の差が大きかったが、昨年話題になったネットフリックスの『全裸監督』を筆頭に、予算、映像、キャスティング面において引けを取らない作品も増えている。

 サイバーエージェントとテレビ朝日が出資するAbemaTVも、精力的にオリジナルコンテンツを制作しているインターネットテレビだ。AbemaTVは『オオカミくんには騙されない』のような恋愛リアリティショーが人気で、10代からの支持がとても高いのが大きな特徴だが、そんな若い視聴者をターゲットにした恋愛ドラマが、2月20日から配信されている『僕だけが17歳の世界で』である。

フジテレビのドラマ制作チームが結集

 物語は、24歳の今野芽衣(飯豊まりえ)が派遣社員として働いていた出版社を不倫が原因でクビになる場面から始まる。会社を辞めて家にこもっていた芽衣は、故郷の街で冬なのに季節外れの桜が咲いているという“奇跡の桜”のニュースを見て、7年ぶりに帰郷する。

 幼馴染みで両想いだった染谷航太(佐野勇斗)を17歳のときに亡くしたショックを忘れるために上京した芽衣は、昔のことを思い出しながら桜の前に立つ。そんな芽衣の前に、死んだはずの航太が制服を着た17歳のときの姿で現れる……。

 脚本は『恋ノチカラ』や『トレース~科捜研の男~』(ともにフジテレビ系)を手がけた相沢友子、監督は『世にも奇妙な物語』などフジテレビ系のドラマを多数手がけた元共同テレビの小椋久雄。そして、プロデュースは『恋仲』『好きな人がいること』を手がけた元フジテレビプロデューサーの藤野良太。つまり、フジテレビでドラマをつくっていたチームによってつくられた作品だ。

 作品のトーンは、藤野がかつてプロデュースした恋愛ドラマ『恋仲』に近く、飯豊まりえという実力と華やかさを兼ね備えた若手女優のポテンシャルが見事に引き出されていて、見応えがあるというのが第一印象だ。

 主演の佐野勇斗はスターダストプロモーション所属の男性アーティスト集団・EBiDANのメンバーで、キラキラとしたアイドル的な存在感が航太にぴったり。芸達者な飯豊とのコントラストが、ドラマのモチーフにうまくハマっている。

大友花恋、渡辺佑太朗、結木滉星、そして昨年、映画『タロウのバカ』で注目を浴びた16歳のYOSHIといった若手が脇を固めていて、充実したキャスティングとなっている。

 何より、物語の意外性に驚かされた。タイトルから、17歳の少年・航太が同じ人生を何度も繰り返すループモノや、ヒロインの芽衣が過去にタイムスリップして人生をやり直すという、最近はやりのノスタルジックな青春ドラマになるかと思い込んでいたのだが、舞台は現代で、24歳の女性のもとにかつて好きだった17歳の少年が当時の姿のままで現れるというシチュエーションは意外だったのと同時に、ちゃんと現実と向き合っていると感じた。

 第2話では、芽衣のもとに不倫相手だった男が現れ、妻とは別れるからやり直そうと言う。その姿を見ていた航太は「俺の知ってる芽衣は男に遊ばれてヘラヘラ笑ってるような奴じゃなかった」と責めるが、芽衣は「どんな気持ちで7年間過ごしたか、航太にはわかんないよ」と言って、自分の気持ちを航太にぶつける。

 ファンタジックな設定なのに、甘美な過去よりもつらい現実を生きている芽衣の痛々しさのほうが際立って見えるのは、つくり手が若い視聴者に向けて作品をつくろうとしているからだろう。演出も近年の民放ドラマにありがちな説明過多のものではなく、映像で語ろうとしている。脚本、演出、キャスティングにおいて、民放ドラマに引けを取らない作品である。

 その意味では満足の仕上がりなのだが、だからこそ、もう一段上を期待してしまうというのは、贅沢な注文だろうか?

過去のドラマの再生産から脱却できるか

 新しい地図(稲垣吾郎、香取慎吾、草彅剛)のバラエティ『7.2 新しい別の窓』が看板番組になっていることからも明らかなように、AbemaTVはテレビとは違う新しいコンテンツというよりは、今の地上波放送ではつくれなくなってしまった自由度の高いバラエティ番組や、若者向けの学園ドラマを生み出す場所となっている。

 良く言えばネットとテレビのいいとこ取りであり、悪く言えばどっちつかずの中途半端さが常に漂っている。そのため、せっかくインターネットテレビという新大陸でつくっているのに、つくられている番組が過去のテレビ番組の再生産に見えてしまうのが、なんとも歯がゆい。それは『僕だけが17歳の世界で』にも感じることだ。

 現在の民放地上波の状況を考えると、再生産でもできているだけマシではないかと消極的に肯定してしまう自分もいるのだが、やはりインターネットテレビでしかできない新しい表現が見たいのだ。もちろん、これは期待しているがゆえの不満である。

 過去のテレビドラマを再生産するのではなく、AbemaTVという新天地でつくられたことの意味を示すような場所に着地してほしい。そう願っている。

(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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