新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、住まいに求められる要素も大きく変化しています。特に、敷地内や建物内で人との接触が避けられず、一戸建てに比べて何かと不安の多いマンションはさまざまな対策が必要になっています。

分譲会社などもその課題を解決すべく、多彩な対応策を打ち出しているようです。

分譲会社の最大の関心事はワークスペースの確保

 コロナ禍で、消費者がマンションに求める要素も変化しています。何よりテレワークの増加で、住まいのなかにワークスペースが必要になっていますし、エントランスやエレベーターなどの共用部での密や、ドアノブやエレベーターのボタンなどでの接触も不安です。そうした変化に対して、マンションを供給するデベロッパーはどう対応しようとしているのでしょうか。リクルート住まいカンパニーの調査によると、図表1のようになっています。

 最も多かったのは、図表1にあるように、「住戸内のワークスペース」の57%で、次いで「共用ワークスペース」が47%、そして「タッチレス機能」が34%などとなっています。

何よりも住戸内や共用部におけるワークスペースの確保が最大の関心事になっているようです。それに次いで、接触機会を減らすためのさまざまな部位でのタッチレス機能、そして宅配ボックスの設置についても関心が高いようです。

「リモートワークの住まい」を目指すマンション

 分譲マンション「リビオ」シリーズで知られる日鉄興和不動産では、ウィズコロナのニューノーマルに対応した「リモートワークの住まい」を目指すマンション開発を推進しています。たとえば――。

 朝や夜は子どもの身支度や食事の準備のためにリビングを使えない、夫婦二人分のワークスペースを確保できない、在宅勤務中は家族の声や音が気になる――といった問題を解決するために、「リモーゼット」「リモドア」「リモデスク」の提案を行っています。

 リモーゼットは、広めのウォークインクローゼットに、可動棚と照明、コンセントを設置、大型収納と併用可能なワークスペースを確保します。

ドアを閉めれば、仕事に集中できる空間になります。同じような発想は、三菱地所レジデンスも行っており、間取り図での略称はともにWICですが、「ウォークインクローゼット」ならぬ「ワークインクローゼット」として提案しています。

限られた専有面積を有効に活用する提案

 日鉄興和不動産のリモドアというのは、リビングと隣接する洋室のウォールドアの可変性を高め、間仕切り位置を自由に変えられるようにしたもので、リモートワークがしやすい空間を効率よくつくりだすことができます。さらにリモデスクは、寝室でのリモートワークを行いやすくするため、あらかじめ壁面にカウンターと照明、コンセントを用意し、仕事だけではなく趣味のスペースなどとして活用しやすくします。

 ライフステージやライフスタイルに合わせて、3つのなかから一番自分たちに合ったワークスペースを設置すれば、ストレスなくリモートワークにいそしむことができるようになります。マンションの専有部分の面積は、地価や建築費の高騰などもあって、年々縮小する傾向にあります。

それだけに限られたスペースをいかに有効に活用するか、各社ともさまざまな工夫、提案を行っているようです。

共用部分へのコワーキングスペース設置が増加

 とはいえ専有面積が限られていますから、専有部分でできることには制約があります。そのため、比較的規模の大きなマンションを中心に、共用部にコワーキングスペースを設けるケースが増えています。

 三井不動産レジデンシャルなどが2020年11月から販売を開始した「パークタワー勝どきミッド/サウス」(東京中央区)は、総戸数2786戸の商住複合大規模再開発プロジェクトで、都営地下鉄大江戸線の「勝どき」駅徒歩1分という利便性の高いマンションです。

 商業施設、スポーツアリーナ、保育所などを建物内に備えたミクストユースの街づくり、屋外に出ることなく駅や商業施設を利用できる利便性に加え、ニューノーマル時代の多様性に備える共用部分の充実が特徴となっています。

 パークタワー勝どきミッド/サウスでは、写真にあるように、個室ブース付きの300平方メートルのコワーキングスペースが用意されます。

また、簡単に外出できないため、ついつい体がなまりがちになるため、それを解消するオンラインフィットネスが可能なパーソナルスタジオも設置されます。

大規模マンション以外でも設置が増えている

 マンション居住者のなかには、テレワークするにしても、自宅内での仕事では、オン/オフの切替えができない、仕事に集中できないといった不満を抱いている人が少なくありません。かといって出勤するには、通勤電車やオフィスでの密が不安という思いもあります。

 そうした人たちにとっては、建物内にある、自宅外のこの共用部分のコワーキングスペースはたいへんありがたい存在ではないでしょうか。300平方メートルものコワーキングスペースを設置できるのは、総戸数2000戸を超えるメガマンションならではですが、最近はそこまで大規模ではなく、小中規模のマンションでも、共用施設にライブリーやコワーキングスペースを設けるケースが増えています。

 リモートワークに集中するだけではなく、居住者間の交流スペースとしても活用でき、今後も設置が進むことになるではないでしょうか。

非接触キーなどの抗ウイルス・抗菌マンションが登場

 先のリクルート住まいカンパニーの調査にもあったように、マンションでは非接触、抗菌なども重要なテーマになっています。そこで、大和ハウス工業では、抗ウイルス・抗菌加工を施した建材を採用するとともに、非接触キーや人感センサー付きスイッチなどの感染リスクを低減できるアイテムを導入した「抗ウイルス・抗菌マンション」を順次、全国展開する方針を打ち出しています。

 第一弾となるのは、「プレミスト茨木双葉町」(大阪府茨木市)で、2021年4月からの販売を予定しています。図表にあるような、凸版印刷が開発した特殊フィルムを施した床材や建具を採用しています。凸版印刷によると、特定ウイルスが24時間で99.9%減少することが研究機関の調査で実証されており、抗菌の効果は大腸菌、ブドウ球菌がやはり24時間で99.9%減少するとされています。

 また、総戸数74戸の中規模クラスのマンションですが、共用部にはテレワークや子どもの宿題・勉強スペースとして利用できるように個室ブースが6か所設けられています。

顔認証セキュリティが標準装備のマンションも

 サーパスマンションを全国で展開する穴吹工務店では、顔認証セキュリティを標準採用したマンションの展開を進めています。マンションのエントランスでは、顔認証でドアが開き、顔認証でエレベーターのセキュリティを解除、押しボタンでエレベーター内に入れば、自動で自宅階のボタンが押されます。歩きながらの認証が可能なので、小さな子どもと手をつないだまま、また大きな荷物を持ったままでもマンション内に入ることができます。

 さらに事前に登録しておけば、マンションの宅配ボックスも顔認証で、開錠することができます。鍵やカードの紛失の心配がなく、大切な荷物を安心して受け取ることができます。

 以上のように、さまざまなレベルでのニューノーマル対応が進んでいるマンション。これからの住まい選びの重要ポイントのひとつになりそうです。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)