12月10日、契約更改交渉に臨んだ読売ジャイアンツ(巨人)の杉内俊哉投手が、今季年俸5億円から、来季は5000万円+出来高で単年契約を結んだことが報じられた。
4億5000万円のダウンというのは、プロ野球史上最大の大減俸だ。
そのため、杉内投手は「私から球団にお願いし、来年度については基本年俸をギリギリまで抑え、出来高で評価していただくことで了解をいただきました」と、自ら年俸を“返上”したことを文書で明かしている。
日本プロフェッショナル野球協約では、選手の年俸について減額制限が設けられており、年俸1億円超の場合は40%が上限とされている。それ以上の減額をするには、選手の同意が必要だ。これまでの最高減額は、2012年の巨人・小笠原道大内野手(現:中日ドラゴンズ2軍監督)の3億6000万円だったが、今回の杉内投手は、それを9000万円も上回る。
このような大幅な収入の変化があった場合、支払う税金はどうなるのだろうか。「もしサラリーマンだった場合は、来年、所得税と住民税を合わせて、収入(5000万円)を上回る6390万円の税金を支払う可能性がある」と指摘するのは、税理士の備順子氏だ。
「サラリーマンの場合は、給与収入金額から給与所得控除額という概算経費(今回の場合は245万円)が差し引かれます。さらに、所得控除(扶養控除、配偶者控除、基礎控除、社会保険料控除、医療費控除等)が差し引かれます(所得控除の合計を500万円と仮定)。
それらを踏まえて計算すると、来年の住民税は約4925万円、また、同じく所得税は約1465万円となります」(備氏)
●スポーツ選手が節税対策で会社をつくるワケ
給与所得者であれば、来年は年収とほぼ同額の住民税が課せられ、さらに1500万円近い所得税ものしかかってくることになる。もちろん、これは計算を単純化したものであり、あくまで推定にすぎない。しかし、プロ野球選手をはじめ、収入に変動のあるアスリートなどの場合、こういったケースはどうなるのだろうか?
「一般的に、スポーツ選手は会社と雇用契約(給与所得者)ではなく、請負契約を結んでいると考えられます。
事業所得は『収入金額』から『必要経費』を差し引いて所得を求めます。必要経費の例としては、道具代、トレーニング機器、体調管理費用、交通費、交際費などが挙げられます。
また、例えば奥さんが選手の食事管理や体調管理などにもっぱら従事している場合は、『専従者給与』を支払って経費にすることができ、所得を分散させることができます。そのため、個人事業主であれば、給与収入として計算したほど多額の税金(住民税約4925万円、所得税約1465万円)はかからないと思われます。ただし、別途、消費税や個人事業税は発生します。
一方、会社員の場合は、原則として最高245万円(15年の場合)までしか必要経費(概算経費)が認められていません。特例として、資格取得費や交際費、衣服費、図書費などが認められる場合もありますが、レアケースです」(同)
プロ野球選手は個人事業主となるため、経費の計上額によっても、税額は変わってくるということだ。また、節税対策として会社を設立していた場合は、どうなるのだろうか。
「会社経営のメリットは、スポーツ選手本人や配偶者、父母などの親族が経営に関与することで、その会社の役員となり、会社から給与を受け取り、所得を分散できることです。給与であれば、それぞれの人の収入から、前述した概算経費を差し引くことができます。
そのほか、個人所得では認められない法人特有の費用として、役員保険の保険料や役員社宅、出張日当手当、役員退職金などがあります。
●会社員も「思わぬ副収入」に注意?
一般会社員の場合、「来年の給料が4億5000万円下がる」などというのは、現実的ではないだろう。しかし、今は昇給を見送る代わりに副業を容認する企業も増えてきている。
杉内投手のような億単位の変動には縁がないだろうが、「副業で思わぬ収入があり、思いがけず翌年の税金が跳ね上がってしまった」という事態にならないために、気をつけるべきポイントはあるのだろうか?
「副収入が通常のアルバイト(パート)収入であれば、『給与』となるため、メインの会社と収入を合算して計算します。住民税は、その合算した所得に課せられるため、節税は望めず、翌年の住民税は高くなってしまいます。対策としては、収入があるうちに納税資金をためておくぐらいでしょう。
一方、副収入が雇用契約に基づくものではなく請負契約の場合は、『事業所得』や『雑所得』となるため、必要経費を細かく計上することが節税につながります。例えば、自宅を事務所として使用している場合は、光熱費や固定資産税などを面積按分、自動車を事業用の使用割合によって、減価償却費やガソリン代、自動車保険を按分で計上できます。
また、副収入が資産の売却収入である場合は、売るタイミングを工夫したほうがいいでしょう。例えば、金地金の価格は10年前から3倍ほどに値上がりしています。売却した場合は譲渡所得として課税されますが、『売却収入-取得価額-50万円(特別控除)』が課税対象です。5年以上所持していたものであれば、さらにその半額が課税対象となります。
そのため、値上がり益が50万円以下になるようにすれば、課税対象外となります。例えば、15年12月と16年1月に分けて売却すると、それぞれの年で50万円の値上がり益部分については課税の対象となりません。美術品やゴルフ会員権などの売却についても、同様の計算方法です。
ただし、資産の売却のうち、土地や建物などの不動産や株式の場合は、値上がり益に対して一定税率(所得税15%+住民税5%)になるため、分散して売却しても税負担は同じです」(同)
●どうしても住民税が支払えない時は?
納税は国民の義務には違いないが、とかく住民税は「忘れた頃にやってくる」と恨み節が聞こえる。最後に、どうしても納税が困難な場合はどうすればいいのか、備氏に聞いた。
「前年の所得が高かったにもかかわらず、翌年の所得が低いため、1年遅れで納める住民税が払えない。そんな場合、市町村によっては減額や免除制度を設けています。
通常は倒産や解雇で失職した人、被災者に対する救済措置ですが、自治体によっては『所得が前年の2分の1以下に減少すると見込まれる場合』『預貯金等の保有資産が一定額以下である』など、さまざまな要件を満たしている場合に限り、減免制度を設けているのです。
ただし、これらの減免制度はあくまで社会的弱者や生活困窮者のための救済措置です。杉内投手のように、年俸が10分の1になったとはいえ、収入が5000万円もあるような場合は適用を受けることはできません。
どうしても納税が困難な場合は市役所に相談すると、保有資産の状況も踏まえて、分割払い(多くの自治体で最大2年)に応じてくれるようです。納期限がすぎて督促状が来てしまうと、分割払いの交渉も厄介になるため、事前の相談をおすすめします」(同)
大金を稼ぎ出すプロ野球選手であっても、少ない給料で細々と暮らす会社員であっても、賢い節税を心がけたいものだ。
(文=編集部)