「能年……ではなく『のん』になりました」――。

 7月15日発売の「フライデー」(講談社)で改名を発表した女優の能年玲奈。

6月30日に前所属事務所のレプロエンタテインメントとの契約が満了したことに伴う改名と見られるが、7月21日発売の「週刊文春」(文藝春秋)によれば、レプロ側は契約延長を求める趣旨の文書を能年側に送っているという。

 また、そのなかには、「契約終了後も『能年玲奈』を芸名として使用するにはレプロの許可が必要」という内容もあるようだ。これを受け入れるとなれば、今後は芸能活動において「能年玲奈」を名乗れないことになるが、前事務所が本名でもある「能年玲奈」の使用を事実上禁止することに問題はないのだろうか。弁護士法人ALG&Associates弁護士の榎本啓祐氏に聞いた。

「自分の好きな芸能人のグッズが発売されると『買ってみよう』と思うことがあるように、芸名には販売促進の効果を生じさせたり、商品の価値を高めたりする効果があります。このような芸名が持つ経済的利益は、法律上も保護に値するものと考えられています。
過去の裁判例においても、芸能人の氏名は財産的権利のひとつに該当するとしたものがあります。

 芸能人の氏名が財産的権利として認められる以上、契約等により、当該権利を当事者のいずれか一方に帰属させることは可能であると考えられます。契約によって権利の帰属を決定した場合、契約の相手方が無断で名称を使用することは、たとえ本人であっても、契約違反ないし権利の侵害になり得ます。

 芸能人が芸能活動をする際に本名を使用する場合には、当然、本名にもこのような経済的利益が生じるため、本名についても財産的権利が発生すると考えられます。しかしながら、本名の場合は、その使用を制限することが本人の自由を不当に制限することになり得るため、本名の使用を制限する契約は公序良俗に反し無効である可能性があります。

 公序良俗に反するか否かは、本名の使用制限によって本人にどの程度の不利益が生じるかといった事情により判断されます。
本名について『使用を一切禁止する』といった契約は、本人に対する不利益が大きいため無効になると考えられますが、『芸能に関する出演をする際に使用することを禁止する』といった内容であれば、有効と判断される可能性があると考えられます(『どこまでが芸能に関する出演か』といった問題は生じ得ますが)」(榎本氏)

●「能年玲奈」の商標登録はなし

 また、榎本氏は芸能人の名前の商標登録について以下のように語る。

「商標登録されている場合、商標権者は他人が指定された商品・役務等について商標を使用することを排除する権利等を有します。芸能人の本名が商標登録されている場合は、たとえ本人であっても、商標権者以外が無断で芸能活動に本名を使用することは商標権の侵害になる可能性があります。

 ただし、商標法26条1項1号においては、『普通に用いられる方法で表示する』場合には、商標権の効力は及ばないとされています。私生活上で本名を使用する場合は、基本的には『普通に用いられる方法で表示する』場合にあたると考えられるため、本名が商標登録されている場合でも商標権の侵害にならないと考えられます。

 いずれにしても、芸能人の本名について、私生活上での使用を制限することは違法になると考えられますが、芸能活動において使用を制限することは、適法である可能性もあるでしょう」(同)

 特許庁管轄の「特許情報プラットフォーム」で調べる限り、「能年玲奈」は商標登録されていない。
そのため、商標権の侵害等の問題が発生することはなさそうだ。仮に本名の使用を制限する契約が違法と判断された場合、どんな罰則が科せられる可能性があるのだろうか。

「当該契約の効力が生じないことになりますが、特に契約を締結することに対する罰則等は定められておりません。一方、契約が有効と判断される場合、契約に違反して本名を使用すれば、権利侵害や契約違反になる可能性があります。この場合、本名の使用を差し止められたり、損害賠償を支払ったりする義務が生じる恐れがあります。

 能年さんと前所属事務所との間でどのような契約がなされたかは不明ですが、契約の内容や商標登録の有無によっては、能年さんが芸能活動において『能年玲奈』という名称を使用し続けることは、違法となる可能性があります。
この場合、後に名称使用の差し止めや損害賠償請求をされる可能性を排除するには、改名をする必要があるといえるでしょう。

 改名して別の名称に変更すれば、改名後の芸名の使用は権利侵害とはなりませんので、前所属事務所から芸名の使用について法的請求をされることはないと考えられます」(同)

“大人の事情”で改名せざるを得なかった、能年改めのん。今後、どんな活躍を見せてくれるのだろうか。
(文=編集部、協力=榎本啓祐/弁護士法人ALG&Associates弁護士)