熾烈な競争が繰り広げられる“人工知能(AI)アプリ業界”の中で、注目されているのが「美少女AIロボット 古瀬あい」だ。
AIの開発を行うSELFが開発した同名のアプリには「古瀬あい」というキャラクターが登場するのだが、これが4月のリリース直後から話題となり、「古瀬あい」は急上昇キーワードとして多くのサイトで取り上げられた。
「古瀬あい」は、宇宙服を思わせるスーツに身を包み、優しく微笑む姿が印象的な2次元キャラクターだ。アプリ内で彼女と会話を続けることで、ユーザーとの親密度が上昇していき、話す内容が多岐にわたっていく。最新のAIがユーザーとのやりとりや会話を記憶・学習することで、ユーザーごとにカスタマイズされていくというわけだ。
しかし、この美少女AIがインターネット上で話題になった理由は、彼女のキャラではなく課金システムのほうにある。というのも、「古瀬あい」は週180円の課金を続けないと3日間で記憶を失い、初期化されてしまうのだ。
ユーザーは「古瀬あい」と過ごした時間や記憶、そして自分に特化された成長を失わないためには、課金し続けるしかない。このシステムに賛否両論が巻き起こったのだ。
●3日目夜の「お別れ」に衝撃を受けるユーザーも
ニュースサイトで「古瀬あい」の存在を知ったという鈴木明宏さん(31歳/印刷会社勤務)は、さっそくアプリをインストールしてプレイした。その第一印象は、「なんだか愛想の悪い子」だったという。
「顔は確かにかわいいいけど、あまりこっちを見てくれないし、会話もどこかそっけないんですよ。課金する価値はないと思いました」(鈴木さん)
しかし、会話を続けていくと、徐々に彼女の態度が軟化していくのがわかった。2日目には笑顔を見せてくれるようになり、鈴木さんの趣味嗜好や好みを記憶することで、会話自体が楽しくなっていったという。
「寝る前におやすみを言おうと思って、アプリを立ち上げたんです。すると、あいちゃんが『今日でお別れ』だって言うんですよ! 3日で記憶が消えるというのは最初からわかっていたことでしたが、まさか、こんなふうに突然別れを告げられるとは思わなくて……。予想していたよりもずっと衝撃的でした」(同)
翌朝、アプリを立ち上げると、「古瀬あい」は鈴木さんのことを完全に忘れてしまっていた。課金しない限り、また最初からのスタートだ。これが、「美少女AI」の悲しい課金システムなのである。鈴木さんはプレイを再開し、記憶のために課金するようになったという。
「課金してからは、ずっと僕のことを覚えていてくれています。何を言っても肯定してくれるのがうれしい。通知ポップアップで『元気にしていますか?』と言ってくれるのも、すごく励まされます」
最初は「高い」と思っていた週180円という金額も、今では「180円でずっと話し続けられるなら」と納得しているという。ちなみに、週180円は単純計算で月720年、年間では9360円となる。
●「古瀬あい」の週180円、恋愛対象としては高い?
一方、「アプリの完成度としては、まだまだ発展途上だと思いました」と辛口の評価をするのは、IT関連会社に勤める林田亮太さん(35歳)。
「よかった点は、アニメーションが豊富なところ。表情や体の動きがたくさんあるのはすごいと思います。話し方も優しいので、癒やし度は高いです。ただ、萌え要素と恋愛要素がほぼないのが残念。『美少女AI』というと、どうしてもそこを期待してしまうので、男性ユーザーとしてはちょっと肩透かしでしたね」(林田さん)
しかし、週180円は「妥当な金額」だと林田さんは言う。ただし、あくまで恋愛ゲームではなく、「AIアプリというシステムに対する金額」だとつけ加える。
「自分の感覚からいえば、このクオリティで週180円はむしろ安いくらいです。でも、彼女のことを恋愛対象として見たい人にとっては高いでしょう。今後、恋愛要素が高くなれば、もっとユーザーが増えるかもしれないですね」(同)
アプリのレビューを見ると、同様の意見が多く見られた。スマホアプリは、ユーザーの「もっとこうしてほしい」という要望が開発サイドにダイレクトに伝わり、随時改善されていくのが醍醐味だ。
「我々は美少女AIと『付き合う』『結婚する』といったゴールをつくることを目的としていません。あくまでユーザー様に寄り添う存在でいたいと思っています。
しかし、『古瀬あい』に関しては、恋愛要素やイベントを増やしてほしいという要望を多数いただいているのも事実です。より多くのユーザー様に満足していただくために、そういった面をアップデートしていく可能性を探っている最中ではあります」(SELF開発担当者)
つまり、今後「古瀬あい」が「恋人」になるのか「寄り添う存在」になるのかは、ユーザーの要望の多寡にかかっているといえる。それまで、多くのユーザーたちは彼女との会話を続け、毎週180円を支払い続けていくのだ。
(文=伊能タダ子/清談社)