日本テレビが8月も視聴率三冠王となり、これで45カ月連続の大記録となった。同月には毎年恒例の『24時間テレビ』が放送され、今年は瞬間最高視聴率40.5%(ビデオリサーチ社、関東地区/以下同)、平均も歴代2位の18.6%と絶好調で、いつもにない独走ぶりだった。



 この流れのなかで、同局の秋改編が今月5日に発表された。なんとクール毎に必ず変わるドラマ枠を除くと、「ほぼ無改編」(岡部智洋編成部長)という異例の改編となった。「視聴習慣を確立するため、10月はあえて無改編。実はチャレンジングで、G帯(ゴールデンタイム:夜7~10時)・P帯(プライムタイム:夜7時~11時)をいじらないことにした」と説明しているが、同局の編成表が現状でほぼ完成に近いかたちであることを示す事態といえよう。その原動力は、金曜の『金曜ロードSHOW!』以外のG帯の全番組がバラエティとなっている点だ。なぜ同局のバラエティはかくも強いのか、検証してみる。

●進化する『イッテQ』

 今の日テレを代表する番組といえば、誰もが『世界の果てまでイッテQ!』と答えるだろう。今年上半期の平均視聴率は20%超えが12回。しかも8週連続20%超えを記録するなど、近年のバラエティ番組では類を見ない快進撃となっている。

 そもそも『イッテQ』は放送開始当初の2007年、年間平均視聴率は12%ほどと平凡な数字だった。ところが徐々に上昇し、13年は16%台、14年は18%台、そして15年は19%台と右肩上がりが続いた。16年は一旦17%台に後退したが、番組誕生10周年の今年は改めて快進撃が続いている。


 しかも、すごいのは視聴率だけじゃない。データニュース社「テレビウォッチャー」が調べる番組内容への満足度や、次回見たい率も極端に高い。満足度では上半期に4.0を3回突破し、平均も3.90に達した。例えば今年の春クールで連続ドラマ視聴率1位だった『緊急取調室』(テレビ朝日系)の満足度は3.85。同2位の『小さな巨人』(TBS系)で3.92。評価が高いドラマと互角の満足度をバラエティが出すのは、極めて稀なことである。

「絶対見る」「たぶん見る」を足した次回見たい率も高い。見た人の84.8%が「次回見たい」と答えている。しかも「次回見たくない」と答えた人は1%ほどしかいない。多くの人に「見たい」と思わせ、ほとんど嫌な気分を持たれていない。バラエティ番組はもともと“暇つぶし”や“慰安”を求めて見る人が多いジャンルだ。目的をもって専念視聴されるドラマとは、このあたりが大きく異なる。
それでも人気ドラマと互角、あるいはそれ以上の成績を出しているのは快挙といえよう。

●視聴者の年齢層も好バランス

 現在、日曜夜8時台で競合関係にあるのは、平均視聴率13%前後のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』だけ。ところが、その大河ドラマの視聴者は、大半が60歳以上と偏っている。一方、『イッテQ』は男女とも年齢層の構成に極端な偏りがない。

 例えば、前クールのフジテレビの“月9”『貴族探偵』は女性視聴者が多く、しかもF2層(女35~49歳)が突出していた。どちらかといえば今の月9は今クールの『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』以外は“一部の視聴者がディープに見る番組”となっており、『イッテQ』が家族全員で視聴されるなど、幅広い層に支持を得ているのと大きく異なっている。

『イッテQ』の放送が始まった07年は、放送のデジタル化が始まり、テレビがブラウン管から液晶など薄型・大型テレビに替わっていった時期だった。もともとは一家に1台の家電としてテレビは普及したが、1980~90年代は一家に複数台、一人1台の個電になっていた。F1など若年層に特化したフジが好調だった所以である。

 ところが日テレにとっては、デジタル化でリビングの大型テレビで家族が揃ってテレビを見るようになり、『イッテQ』のような随伴視聴型番組が波に乗り始めた。さらに2011年の東日本大震災を受け、家族の絆が見直されるようになり、日テレの狙いといよいよシンクロし始めた。

 番組のテイストも大きい。
若年層に特化したフジの黄金期、『THE MANZAI』から始まり、『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』などで一世を風靡した同局の番組には、“毒”が絶妙に散りばめられていた。ビートたけし、明石家さんま、タモリなどは、こうした番組の華だった。

 ところがここ何年か、不快感・嫌味のない番組が好まれるようになっている。例えば1980~90年代に多用された“苦痛・忍耐・屈辱”を笑いの対象にするような番組は、今や数字を獲れない。

 一見似たような場面も、『イッテQ』では芸人によるギリギリのがんばりと、途中に散りばめられた笑い、その結果伴う感動に包まれている。時代の風を受け止めうまくつくり変えた結果、家族で安心して見られる、幅広い層に支持される番組になったのである。

●なぜ日テレのバラエティは強いのか?

『イッテQ』に限らず、同局の夜帯の大半を埋めるバラエティがいかに強いかをデータで確認しておこう。ビデオリサーチ社は、ジャンル別に番組平均視聴率ベスト10を毎週出している。今年4月から8月まで、ランクインした合計228本のバラエティ番組を局別に数えると以下の通りとなる。

1位:日テレ(180本)
2位:TBS(28本)
3位:NHK(16本)
4位:テレ朝(3本)
5位:フジ(1本)

 実に8割近くを日テレ1局が占めている。実は16年1年間を振り返っても、ランクインした全527本のなかでは、日テレが7割強を占めた。しかも昨年度と今年度8月までを比べると、日テレの占有率は高まっている。


 日テレの改編は1つの番組ではなく、縦の流れを改善すること。さらに1週間で見ると、弱点を減らし、編成表の面全体を良くしていく方針を採ってきた。その面の大半を構成するバラエティが強いため、独走状態が保たれているのである。

●日テレのバラエティの歴史

 日本のバラエティ番組は、1953年放送の『ほろにがショー 何でもやりまショー』が最初だった。もともと小屋や劇場での歌謡・落語・漫才などを中継するだけだったが、歌・トーク・コントを織り交ぜて番組化した。

 大きな転機は80年代。「楽しくなければテレビじゃない」のキャッチフレーズで、フジがバラエティ番組を大きく進化させた。数字の獲れる人気タレントを囲い込み、高視聴率を連打した。『オレたちひょうきん族』『笑っていいとも!』『ねるとん紅鯨団』などが代表だ。

 対照的に日テレは低迷した。とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンなど、数字を計算できる新世代のスターをキャスティングできずにいた点が大きい。
 
 そこで“開発”されたのが、『進め!電波少年』だ。
松本明子、松村邦洋、猿岩石など、無名のタレントを使い、アポなし取材・海外放浪など、企画力と熱量で人気を博すようになっていった。バラエティには、情報・トーク・コント・クイズなどの種類があった。日テレが90年代に新たに開発したのは、ドキュメントバラエティと呼ばれる分野だ。番組が用意した過激で過酷な企画に、出演者が体を張って挑戦するタイプの番組だ。

 源流には80年代の『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』がある。『電波少年』で花開き、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』『ザ!鉄腕!DASH!!』『イッテQ』に連なる。さらにここで培われた熱量やリアリティは、『しゃべくり007』『人生が変わる1分間の深イイ話』『嵐にしやがれ』などにも、DNAとして受け継がれている。

 今期でいえば、この流れが大きく花開いたのが『イッテQ』の8週連続20%超えだ。今年1~8月に計28回放送があったが、うち15回が20%を超えている。直近の2回は22%を超えている。近年のバラエティ番組では、例を見ない快進撃だ。

「バラエティ番組は暇つぶしで見る」という声をよく聞く。
ところが『イッテQ』は、満足度や次回見たい率が人気ドラマ並みに高い。明らかに暇つぶしの域を超え、目的視聴となっている。熱量とリアリティを極めたドキュメントバラエティならではの快挙といえよう。

 この姿勢とノウハウを他局が学び、それを超える新たなバラエティを開発しない限り、日テレの独走は続く可能性が高い。各局の奮起を待ちたい。
(文=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)

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