井上真央主演の連続テレビドラマ『明日の約束』(フジテレビ系)が、12月19日にフィナーレを迎えた。主人公のスクールカウンセラー・藍沢日向(井上)が、1年B組の生徒・吉岡圭吾(遠藤健慎)の自殺をきっかけに、さまざまな問題に向き合っていく物語は、最終回の平均視聴率5.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、全話平均視聴率5.7%で静かに幕を閉じた。



 圭吾の死後、日向は彼の母親・真紀子(仲間由紀恵)の過干渉ぶりや、学校で孤立していた状況などを把握。第9話では、圭吾が孤立するように仕向けていたのが1年B組の担任・霧島直樹(及川光博)だったという事実も発覚していた。

 一方で、亡くなる前の圭吾から告白されたことが心に引っかかったままだった日向は、霧島の件とともに校長・轟木博雄(羽場裕一)に報告し、「退職願」を提出。そして、最終回では日向が真紀子にすべてを話そうと自宅を訪ねるも、そこには圭吾の気持ちがわからずに絶望する彼女の姿が。日向は、圭吾を強く愛する真紀子に、同じように自分を愛するがゆえに支配してきた母親・尚子(手塚理美)を重ね、言葉をかける……という展開だった。

 さらに、日向が退職にあたってのあいさつで、「私が、この出来事のなかで、今一番許せないと思っている人がいます」と切り出し、その人物は「亡くなった吉岡圭吾くん」だと続け、生徒やほかの教師たちを驚かせる場面もあった。

 もちろん、日向は今回の騒動の責任を死者に押し付けているわけではなく、“今生きている人のため”に「自殺という行為が、つらいことから逃げるための手段と思ってほしくない」「彼が心に抱えていた悩みや苦しみから、生きて逃げる勇気を持ってほしかった」と主張。これこそが、同ドラマが伝えたかったメッセージなのだろう。

 ただ、ドラマではなく現実の世界に生きる私たちは、いじめなどのつらい環境にいる人にばかり「生きて逃げる勇気」を持つように訴えるだけではダメだ。実際に逃げられるような場所や制度を整えたり、それらがもっと認知されるように発信したりしなければ、過酷な立場にいる人は逃げられない。視聴率が振るわなかったのは残念だが、同ドラマをきっかけに社会全体のあり方を考えさせられるという点では、非常にレベルの高い作品だったといえそうだ。

 また、いじめだけではなく“毒親”問題についても同じことがいえるだろう。
ドラマでは、真紀子が最終的に“自分のしてきたこと”に気付き、動揺しながらも、圭吾だけを見ていた状態から彼の妹・英美里(竹内愛紗)にも視線を向けられるようになるなど、良い方向に変わっていきそうな兆しが感じられた。それに、日向も尚子に思いをぶつけ、家を出て物理的に距離を置くという手段を選んだ。

 しかし、実際の“毒親”のなかには、まわりの言うことをすんなりと受け入れられず、子どもが離れていこうとするとヒステリックに暴れ、危険な行動に出るケースもあるかもしれない。こうした状況下で苦しむ子どもたちにも、もちろん「生きて逃げる」といった選択をしてほしいのだが、そのための環境、たとえば未成年にとってもハードルが高くない制度や窓口などを整備していく必要があるはずだ。

「ドラマの成績」といった点では結果を残せなかった井上だが、メッセージ性のある内容や見事な演技は視聴者の心にしっかりと刻まれた。インターネット上でも、「涙が止まらない」「井上真央の演技が圧巻だった」「重いテーマをよく演じきった」などと絶賛する声が多数見られる。

 次はどんな作品でその実力を発揮してくれるのか、楽しみに待ちたい。
(文=美神サチコ/コラムニスト)

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